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第3章

第295話 尻での魔法発動練習

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「うーん。中々出ないでござる。うーん。うーん。」

ユリウスは、尻の下に手を置いた姿勢のまま、唸っていた。
その様子を見ていたトマソンが眉を顰めて言った。

「‥‥何か違うものを出そうとしていないか?」
「そんな事ないでござる!魔法を、魔法を出そうとしているでござるよ。決して屁とかではないでござるよ。」
「それなら集中力が足りていないだろう。魔法を発動する時に普通は唸ったりしないぞ。出ない出ないなどと唸っていないで、魔力を集める位置に意識を集中すべきだぞ。」

ユリウスは唸っていたけど、掌にも尻にも魔力が集まっている様子は見られなかった。寧ろ、こめかみの辺りから魔力が漏れて来ていた。トマソンの言う通り魔法を発動するために集中する事が出来ていないように見える。
ユリウスはトマソンの指摘を受けると大きく頷いた。

「そう!そうでござったか!手に魔力を集めて良いのか、尻に魔力を集めて良いのか分からなくなってたでござる。そうしたら全然魔力が集まって行かなかったでござる。」
「尻に魔力を集めようとするな。手で発動するんだろう?掌に意識を集中しろ。」
「そうでござるな。では集中してみるでござる。」

ユリウスは頷いた後、ちょっと気合いを入れるように口元に力を入れてへの字口になった。そして目を閉じた。
そして目を開けて、左手を顔の前に持って来た。

「拙者の封印せし左手が封印されているでざる。普段だと魔力が集まるのになかなか集まって来ないでござる。」
左手だけ手袋を着けた手を開いたり閉じたりしてみせた。

「目の前にないからじゃないか?見えていないところだと集中しにくいんじゃないかな。」
俺が言うとマーギットさんが頷いた。
「そうである。通常の魔法の発動時はおそらく魔力が集まる先を目で見ているから意識を集中しやすいのである。まず感覚を掴むために普段の魔法を発動する時のように目の前で魔力を集めてみるである。そして魔力が集まった状態で尻の下に持って言って見るである。」

マーギットさんの言葉にユリウスは頷いて、両手を前に突き出した。するとあまり間を置かずに突き出したユリウスの掌に魔力が集まり始めた。

「魔力が来たでござる!尻にもって行くでござる!」
「しゃべらず集中するである。」

ユリウスは魔力が集まった掌を尻の下まで移動させた。少し集中力が途切れたからか、尻の下に移動するまでの間に、多少魔力が霧散してしまっていたけれど、一応掌に魔力を纏わせた状態で尻の下に配置することができたようだ。

「‥‥あ、ちょっと分かって来たでござる。」

目の前にない箇所で魔力を纏わせるという感覚が掴めてきたのか、しばらくすると、段々ユリウスの掌の辺りに魔力が更に集まって来ているのがわかった。
だいぶ魔力が集まって来たところでユリウスがブツブツと詠唱を唱え始めた。

ブワッ!

ユリウスの尻の下辺りから風が小さく吹き上がった。ユリウスは目を見開くとキョロキョロとして慌てた様子で言った。

「い、いまのは、風魔法でござるよ!屁じゃないでござるよ。」
「‥‥それはわかっているである。」
「そうでござろう?臭いがしないでござるからなぁ。」
「ユリウス、ドヤ顔をしているけど、まだ身体が浮いていないぞ。」
「でも魔法の発動はしたね。もうちょっとだね。」
「そうでござる!もうちょっとでござるぅ~!」

ユリウスは、今度は尻の下に手をいれたまま目を閉じた。コツを掴んだのか、ちゃんと掌に魔力が集まっていた。

ブワッ!

詠唱の後、再び風が吹き上がった。ユリウスガチラチラとマーギットさんを見て言った。

「‥‥今のも屁ではないでござるよ!」
「わかっているである。いちいち言わなくても良いである。」
マーギットさんが目を細めた。

ブワッ1
「‥‥。」

再度ユリウスの尻の下から再び風が吹き上がった後、馬車の中がシーンと静まり返った。
ユリウスは黙っていたがチラチラとマーギットさんを横目で見て落ち着かない様子だ。俺達も、何と言って良いか微妙で黙っていた。
少し間を置いてからマーギットさんが口を開いた。

「‥‥黙っていると、やはり屁のような気がしてくるであるな。」
「違うでござるぅ~!」
「フフ!」

珍しくデリックさんが笑い出した。トマソンは笑いを堪えているのか、眉間に皺を寄せて眉をピクピクと動かした。
結局ツヴァンに到着するまでの間、ユリウスは風魔法の度に魔法か屁かの申告を続けていた。
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