上 下
227 / 324
第3章

第226話 朱色髪の冒険者

しおりを挟む
「も、申し訳ございませんでした。‥‥高位貴族の方、ですよね?」
「家柄の話をしているんじゃないですよ?」
「自分、ラドロ・ルーベンと申します。俺達、討伐帰りでヘトヘトで、腹も減ってて苛立っていたんです。申し訳ございません!あの、どうか穏便に。」
「いや、だから‥‥。‥‥ルーベン?」

家名を呼んだら朱色髪の男、ラドロ・ルーベンがギクリと肩を揺らした。絶望的な表情になる。

「あ、うちは‥‥非常に貧乏な男爵家でして‥‥、賠償金とか支払うのは厳しく‥‥。何卒‥‥。」
「5人兄妹?」
「え?」
「双子の弟妹がいる?」
「なぜ、それを?」

ラドロがぽかんとした顔で俺を見た。彼らを見た事あると思ったのは、ラドロの顔がちょっとロアン君とローレ嬢に似ていたんだ。それと多分魔鳥で探索していたときに
アイスリザードと戦っていた冒険者達だ。

ロアン君達が緊急寄宿で冒険者ギルドに寝泊まりすると言ったら、ラドロは凄く驚いた様子だった。直ぐに冒険者ギルドに向かおうとするので、呼び止めた。

まずは、何故怒鳴っていたのか状況を確認したかった。
彼らは、先程討伐から帰って来て、宿に到着したところだったそうだ。
ロアン君達より前に到着した馬車隊の護衛で街に立ち寄っていて、アイスリザード出現に寄る通行止めの知らせを受けて、急遽討伐に向かったのだそうだ。

その際に、宿を取っておいてもらうように人に頼んだそうなんだが、予算に見合う部屋が満室となってしまっていて、ロビーでも宿泊しか確保出来ていないと言われたそうだ。
部屋が取れていなかった事は仕方ないと思ったのだそうだが、では食事をと思ったら食堂では食事が出来ないと言われて、宿の人がロビーでの食事の説明をしようとしているのを
最後まで聞かずに,食堂に乗り込んでいったようだ。

「短気な一族なの?」
ローレ嬢達も最初冒険者ギルド窓口でキレてたなぁ、などと思う。

「‥‥面目ないです。」
ロビーの長椅子に腰を下ろして、肉を挟んだパンをモグモグと食べながら、ラドロ達がシュンと肩を落とした。

俺とジョセフィンと、マーギットさんとデリックさんで、ロビーの隅で彼らと話をしていた。他のメンバーは、もう部屋に戻っている。

「‥‥部屋を確保してくれって頼んでいたやつは、ちゃっかり自分は俺達が言った予算の部屋を確保していたりして苛立ってました。疲れてたし、余裕なくなっちまって‥‥。」

ラドロは、ルーベン家の次男で、ロアン君とローレ嬢の二番目の兄だそうだ。既に学園は卒業していて、卒業後は冒険者をしてあちこちに行っていたからロアン君達とは長い事会っていないらしい。

「明日の朝にでも会いに行くか‥‥。」

パンを水で流し込んで呑み込んだ後、ラドロが呟くように言った。
今から冒険者ギルドに行っても、ギルド職員に呼び出してもらう形になるし、
もう寝ているかもしれないということで、直ぐに訪ねて行く事はやめたようだ。
食事をして少し気持ちが落ち着いたのかもしれない。

「アイスリザードは討伐出来たんですか?」
魔鳥の目を通してみた光景を思い出して、聞いて見た。
ラドロ達が少し苦々しい顔をして頷いた。

「一体倒した。だが、その先に進んで行ったら続々と出てきやがった。全部倒すのは体力が持たないんで撤退してきた。
元々、調査目的で行ったんだけどな。どっから入り込んでくるのか確認が出来なかった。‥‥どこか雪の壁に穴でも空いているんだと思うんだが。」

調査した結果については既に冒険者ギルドに報告済みで、明日どう動くかは明日の朝冒険者ギルドで相談するそうだ。
魔鳥で見たときはアイスリザードは2体だけだったが、更にぞろぞろと出て来たということか。

明日、討伐出来たとしても更に原因が特定されて安全確認が終わらないと、南方面への通行止めは解除されないだろう。
馬車隊が何時出発できるか読めないな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~

ねこのにくきう
ファンタジー
これは日本に住む一人の人間と謎の異世界から来た一匹のモフモフが紡ぐ物語。 現代日本に生きる一人のしがない人間と、そこに突然現れた一匹?のモフモフが出会うとき、一つの物語が動き出す。 どうやらこのモフモフはタイジュ様とやらに言われてここに来たらしい。えっ、なんで、モフモフがしゃべってるの?新種の生物発見なの!?どうやら目的は口にくわえて持ってきた木の枝を育てることとある場所を訪れることらしい。なんか、厄介ごとの匂いがプンプンなんですが・・・。 司が出会ったモフモフの正体とは?謎の異世界に待ち受ける真実とは?そして、司はそれを知った時にどんなことを思い、考え、どんな行動をとるのだろうか。モフモフ系ほのぼのファンタジー開幕です。 ※お気に入り登録ありがとうございます。読んでいただいている方々に感謝いたします。応援頂けると励みになります。 ※あらすじ、タイトルについては変更する可能性があります。R15は保険です。1話おおよそ1500~2000文字としています。更新は基本的に2日に1回ほど、19時を目安に更新します。 ※小説家になろうさんでも掲載しています。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

処理中です...