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第3章

第211話 オンブ便との交渉

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翌朝早く、街の乗降広場から2ブロック程離れた場所にある宿のロビーに出向いた。オンブ便の馬車隊の御者のロドンとお話しだ。

ドルートルさんとユロールさん。俺とジョセフィンと、クレイリー君。付き添いでマーギットさんとデリックさんで対面していた。

「はあ。この街以降は商業旅団の馬車に乗るんですかい?結構でやすねぇ。キャンセル料は無理ですねぇ。既に馬車旅を開始しちゃっていやすんで。」

ロドンは、小柄でずんぐりむっくりとした体型の男だった。神経質そうに指を動かして視線を彷徨わせている。

「料金は日数分で決まっているのでしょう。ですから残りの日数分を返却してください。乗り合い馬車組合では返却されますよ。」

俺はロドンの真正面に腰をおろし、じっとロドンを見ながら言った。ロドンは、口の端を上げてニヤリとした。

「うちは乗り合い馬車組合とは関係ないんで。」

ロドンの言葉にクレイリー君が哀しそうな顔をしてうつむいた。
俺はロドンの様子を観察した後、ゆっくりとドルートルさんの方を向いて言った。

「ドルートルさん。やっぱり、彼らの馬車隊は乗り合い馬車組合とは関係ないらしいです。ということは、商業旅団の馬車隊とも全く関係ないということですかね。」
「‥‥そうなるねぇ。」

俺達の会話にロドンが少し視線を揺らし、落ち着かなそうに動かしていた指の動きを止めた。パチパチと瞬きをしてドルートルさんの方を見た。
俺は続けた。

「旅団に関係ないってことは、旅団の除雪魔導士が除雪するかどうかも全く関係ないってことですよね?」
「‥‥そうなるねぇ。」

「じゃあ、旅団が通った後は、やっぱり除雪跡を元に戻しましょう。氷の壁だって邪魔になることもありますし。」
「う‥‥。‥‥‥そうだねぇ。」

俺が氷の壁の事を口にしたら、ドルートルさんが一瞬渋い顔をした。
ロドンが目をぱちくりしてキョドキョドとドルートルさんと俺を交互に見た。

「ちょ、ちょっと待ってくだせぇよ。除雪跡を元に戻すって‥‥、そう言いやしたかい?」
「ええ、言いましたよ。」

俺がそう答えると、ロドンはカッと目を見開いて前のめりになって声を張り上げた。

「や、そ、それは困る!それは営業妨害じゃねえですかい。」
「いえ、旅団が通る前の状態に戻すだけですよ。寧ろ通ったときのままにすることで何か影響がある方がまずいでしょ。」

実際のところ、旅団が通って除雪したままの状態にしているから、オンブ便が横行して、正規で旅している人達まで宿不足で困っているのだ。
オンブ便に乗った人達だって、普通の乗り合い馬車と変わらないかの様に言われて、除雪料分の上乗せ料金も支払わされている。
そして、除雪跡を元に戻されたら途端に足止めを食ってしまう危うい状況に立たされるのだ。

ロドンは、みるみる顔色を悪くして、わなわなと唇を震わせた。指先も震えている。

俺は少し身を乗り出して声を低くしてロドンに言った。

「ねえ。乗り合い馬車組合とは全くの無関係なんでしょう?だったら、商業旅団が通らなかった状態に戻った所で関係ないじゃないですか。」

俺がそういうと、ロドンはまた目をキョロキョロと動かした後、懐から革袋を取り出して、テーブルに置いた。カチャリと硬貨がぶつかる音がした。

「キャンセル料?残り日数分払いやすよ!それでいいでしょ!」

ジャラジャラと小金貨と銀貨を革袋から取り出して、テーブルの上に重ねて置き、前に押し出した。
クレイリー君に数える様に言って金額を確認してもらう。クレイリー君が頷いたところで、ドルートルさんの方を見た。

「キャンセル料は確かに受け取りました。それでどうしますか?
王都から一日程度だから、引き返してもらうというのもありではありますけど。他のお客さんも予定が狂っちゃうだろうし、ちょっと気の毒ですよねぇ。」
「‥‥そうだねぇ。」

ドルートルさん、さっきから相づちしか打っていないなぁ。ビシッと言って欲しいんだけど‥‥。
ロドンが、ギョッとした顔をしてドルートルさんの方を見た。

「え?こ、これで勘弁してもらえるんじゃ‥‥。」
「それとこれとは、別の話でしょう?ねえ,ドルートルさん。」
俺はドルートルさんに話を降った。
「‥‥そうだねぇ‥‥。」

ドルートルさんはまた相づちしか打たないかと思ったけど、太い眉を持ち上げて、ロドンを見つめて口を開いた。

「そちらの馬車に乗った人たちが、この街で足止めになっても気の毒ですからねぇ。除雪した場所を元に戻すというのは、今回だけはしないでおきましょう。」
「こ、今回だけ?」
「ええ。除雪料を負担していただければ、目をつぶりますよ。」
「じょ、除雪料?」
「客からは除雪料を徴収しているでしょう?それとですね。次回以降、旅団の後ろつきたい場合は商業ギルドか、乗り合い馬車組合を通して申請してください。
申請がない場合は、除雪跡を戻すようにしますので。」
「ちょ、ちょっ‥‥。」

ロドンは、動揺した様子で、ユロールさんがすっと差し出した申請用紙を凝視した。
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