208 / 324
第3章
第207話 魔導科の先輩
しおりを挟む
マルロイ君達の話によると、宿探しをしていたら時に、宿に入ろうとしたフォーゲル君が他の人と入り口でぶつかったらしい。
雪で足下が滑る為に転倒。そして転倒している間に、新たに来た客に宿の残りの部屋を取られてしまったそうだ。
「怪我したの?」
「大怪我はしてないみたいだっぺ。でも、宿に入るのをわざと邪魔しただろうとか、揉めてるっぺ。相手も学園の生徒だっぺ。」
「先輩なら仲裁してもらえるかもと思っただす。」
マルロイ君とシン君が一斉にマーギットさんの方をみた。魔導科の先輩だから頼ろうと思ったようだ。
二人に期待の目で見られて、ピクリとマーギットさんが肩を震わせた。
「ふむ‥‥。我が話を聞きに行くのは構わないであるが、揉めている間にも宿探しをした方が良いのではないか?」
「今、三人くらいはまだ探しに出てるっぺ。‥‥でも厳しそうだっぺ。」
揉めている現場にはフォーゲル君と女子二人が残っていて、残りの女子二人男子一人で宿探しを続けているらしい。
揉めている場所は、マルロイ君達が部屋を2部屋取った宿の3ブロック程離れた宿だった。
相手が学園の生徒だというので何となく予想していたが、フォーゲル君と揉めている相手は、初代クレクレ君、‥‥クレイリー君だった。
宿のロビーの小さいテーブルを挟んで、アメリー嬢、フォーゲル君、メイサ嬢が長椅子に並んで座っていて、その向かいにクレイリー君が不機嫌そうに座っている。
というか、クレイリー君の左頬が晴れていて口の端が切れているじゃないか。まさか殴り合い?
マーギットさんはすっと彼らの近くに立って、低い声で言った。
「学園の生徒がここで揉めていると聞いたである。事情を聞かせてもらうである。」
ビクッとして少し驚いた顔でマーギットさんを見上げた彼らは、口々に言った。
「こいつがぶつかってきたんです。宿に入ろうとしたから、きっとわざとなんだ。」
「わざとなんかじゃないさぁ。そっちが前を見てなかっただよぅ。」
「ぶつかったせいで宿が取れなかったのですわ!」
「そうですわ。せっかく空室があったのに!」
四人がワーワー言っているのを腕組みしながら暫く聞いていたマーギットさんは、ゆっくりと右手を上げて顔の前に運んだ。
「‥‥封印せし我が右眼が、不毛と言っているかのようである。ます、どちらに非があろうと、宿の部屋は埋まっているのである。それはわかるであるな。」
「‥‥しかし‥‥。」
反論しかけたフォーゲル君に、マーギットさんが強めの口調で言った。
「この宿の部屋は埋まっているということに異論があるであるか?」
「それはない‥‥ですが‥‥。」
「ですが?」
ぐいっとマーギットさんが顔を寄せたら、フォーゲル君が少し仰け反った。
「いえ‥‥そこには異論はないです。はい‥‥。」
「そうであろう。」
マーギットさんは姿勢を戻してまた腕組みをした。
「であれば、部屋さえ取っていない宿のロビーで騒いでいることこそ問題である。学園の生徒として品位が疑われるであるぞ。」
「はい‥‥。」
シュンとして、フォーゲル君達三人が俯いた。
「君も‥‥、うん?殴り合いでもしたであるか?」
マーギットさんが、クレイリー君の顔を覗き込んだ。クレイリー君は気まずそうに目をそらせた。
「‥‥転んだ時に打っただけですぅ~。」
「ふむ。冷やした方がよいのではないか?」
マーギットさんがこちらを振り向いた。
「雪を取ってくるでござるか?」
「応急薬ならあるよ。」
外に雪を取りに行こうとするユリウスを止めて、ジョセフィンに応急薬を出してもらった。
蓋部分に刷毛がついたごく小さい小瓶で、中に液体の薬が入っている。
「あ、いや。たいした事はぁ‥‥。あ‥‥痛くなくなったぁ?」
ジョセフィンがクレイリー君に近付いて手早く薬を塗ってしまった。クレイリー君は戸惑った様子だったが、抵抗する間もなく薬を塗られて唖然としていた。
ジョセフィンが薬の小瓶をクレイリー君に差し出した。
「これは使い切りの物なので、他に傷めた場所とかあったら使って。」
「あ、はい‥‥。ありがとうですぅ‥‥。」
「え?」
急に、クレイリー君が瞳を潤わせてポロリと涙を流したので、ジョセフィンがビックリして動きを止めた。
クレイリー君は急いで指で涙を拭った。
「うぅ。宿は取れないし、ぶつかるし、転んで怪我するし、怒鳴られるしでちょっと凹んでたとこなんで‥‥親切にされたからぁ。」
クレイリー君は、涙を拭った後、少し唇を引き結んでフォーゲル君を見た。
「ぶつかったのはわざとじゃないよぅ。こっちだって、宿探しで必死だったんだ。」
「‥‥うん‥‥。そうだな‥‥。いいがかりだった。悪かった。」
フォーゲル君もちょっと落ち着いたのか、非を認めたようだ。
マーギットさんは腕組みをしたまま大きく頷いた。
「ふむ。落ち着いたかね。まずは騒いだ事を宿の人に詫びよう。」
場所をマルロイ君達が最初に部屋を取った宿に移すことにした。フォーゲル君やクレイリー君が宿の人にお詫びをした。その後でマーギットさんが受付にチップを渡していた。
雪で足下が滑る為に転倒。そして転倒している間に、新たに来た客に宿の残りの部屋を取られてしまったそうだ。
「怪我したの?」
「大怪我はしてないみたいだっぺ。でも、宿に入るのをわざと邪魔しただろうとか、揉めてるっぺ。相手も学園の生徒だっぺ。」
「先輩なら仲裁してもらえるかもと思っただす。」
マルロイ君とシン君が一斉にマーギットさんの方をみた。魔導科の先輩だから頼ろうと思ったようだ。
二人に期待の目で見られて、ピクリとマーギットさんが肩を震わせた。
「ふむ‥‥。我が話を聞きに行くのは構わないであるが、揉めている間にも宿探しをした方が良いのではないか?」
「今、三人くらいはまだ探しに出てるっぺ。‥‥でも厳しそうだっぺ。」
揉めている現場にはフォーゲル君と女子二人が残っていて、残りの女子二人男子一人で宿探しを続けているらしい。
揉めている場所は、マルロイ君達が部屋を2部屋取った宿の3ブロック程離れた宿だった。
相手が学園の生徒だというので何となく予想していたが、フォーゲル君と揉めている相手は、初代クレクレ君、‥‥クレイリー君だった。
宿のロビーの小さいテーブルを挟んで、アメリー嬢、フォーゲル君、メイサ嬢が長椅子に並んで座っていて、その向かいにクレイリー君が不機嫌そうに座っている。
というか、クレイリー君の左頬が晴れていて口の端が切れているじゃないか。まさか殴り合い?
マーギットさんはすっと彼らの近くに立って、低い声で言った。
「学園の生徒がここで揉めていると聞いたである。事情を聞かせてもらうである。」
ビクッとして少し驚いた顔でマーギットさんを見上げた彼らは、口々に言った。
「こいつがぶつかってきたんです。宿に入ろうとしたから、きっとわざとなんだ。」
「わざとなんかじゃないさぁ。そっちが前を見てなかっただよぅ。」
「ぶつかったせいで宿が取れなかったのですわ!」
「そうですわ。せっかく空室があったのに!」
四人がワーワー言っているのを腕組みしながら暫く聞いていたマーギットさんは、ゆっくりと右手を上げて顔の前に運んだ。
「‥‥封印せし我が右眼が、不毛と言っているかのようである。ます、どちらに非があろうと、宿の部屋は埋まっているのである。それはわかるであるな。」
「‥‥しかし‥‥。」
反論しかけたフォーゲル君に、マーギットさんが強めの口調で言った。
「この宿の部屋は埋まっているということに異論があるであるか?」
「それはない‥‥ですが‥‥。」
「ですが?」
ぐいっとマーギットさんが顔を寄せたら、フォーゲル君が少し仰け反った。
「いえ‥‥そこには異論はないです。はい‥‥。」
「そうであろう。」
マーギットさんは姿勢を戻してまた腕組みをした。
「であれば、部屋さえ取っていない宿のロビーで騒いでいることこそ問題である。学園の生徒として品位が疑われるであるぞ。」
「はい‥‥。」
シュンとして、フォーゲル君達三人が俯いた。
「君も‥‥、うん?殴り合いでもしたであるか?」
マーギットさんが、クレイリー君の顔を覗き込んだ。クレイリー君は気まずそうに目をそらせた。
「‥‥転んだ時に打っただけですぅ~。」
「ふむ。冷やした方がよいのではないか?」
マーギットさんがこちらを振り向いた。
「雪を取ってくるでござるか?」
「応急薬ならあるよ。」
外に雪を取りに行こうとするユリウスを止めて、ジョセフィンに応急薬を出してもらった。
蓋部分に刷毛がついたごく小さい小瓶で、中に液体の薬が入っている。
「あ、いや。たいした事はぁ‥‥。あ‥‥痛くなくなったぁ?」
ジョセフィンがクレイリー君に近付いて手早く薬を塗ってしまった。クレイリー君は戸惑った様子だったが、抵抗する間もなく薬を塗られて唖然としていた。
ジョセフィンが薬の小瓶をクレイリー君に差し出した。
「これは使い切りの物なので、他に傷めた場所とかあったら使って。」
「あ、はい‥‥。ありがとうですぅ‥‥。」
「え?」
急に、クレイリー君が瞳を潤わせてポロリと涙を流したので、ジョセフィンがビックリして動きを止めた。
クレイリー君は急いで指で涙を拭った。
「うぅ。宿は取れないし、ぶつかるし、転んで怪我するし、怒鳴られるしでちょっと凹んでたとこなんで‥‥親切にされたからぁ。」
クレイリー君は、涙を拭った後、少し唇を引き結んでフォーゲル君を見た。
「ぶつかったのはわざとじゃないよぅ。こっちだって、宿探しで必死だったんだ。」
「‥‥うん‥‥。そうだな‥‥。いいがかりだった。悪かった。」
フォーゲル君もちょっと落ち着いたのか、非を認めたようだ。
マーギットさんは腕組みをしたまま大きく頷いた。
「ふむ。落ち着いたかね。まずは騒いだ事を宿の人に詫びよう。」
場所をマルロイ君達が最初に部屋を取った宿に移すことにした。フォーゲル君やクレイリー君が宿の人にお詫びをした。その後でマーギットさんが受付にチップを渡していた。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました
上野佐栁
ファンタジー
前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。
聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。
「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」
裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。
「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」
あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった!
、、、ただし責任は取っていただきますわよ?
◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる