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第3章

第207話 魔導科の先輩

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マルロイ君達の話によると、宿探しをしていたら時に、宿に入ろうとしたフォーゲル君が他の人と入り口でぶつかったらしい。
雪で足下が滑る為に転倒。そして転倒している間に、新たに来た客に宿の残りの部屋を取られてしまったそうだ。

「怪我したの?」
「大怪我はしてないみたいだっぺ。でも、宿に入るのをわざと邪魔しただろうとか、揉めてるっぺ。相手も学園の生徒だっぺ。」
「先輩なら仲裁してもらえるかもと思っただす。」

マルロイ君とシン君が一斉にマーギットさんの方をみた。魔導科の先輩だから頼ろうと思ったようだ。
二人に期待の目で見られて、ピクリとマーギットさんが肩を震わせた。

「ふむ‥‥。我が話を聞きに行くのは構わないであるが、揉めている間にも宿探しをした方が良いのではないか?」
「今、三人くらいはまだ探しに出てるっぺ。‥‥でも厳しそうだっぺ。」

揉めている現場にはフォーゲル君と女子二人が残っていて、残りの女子二人男子一人で宿探しを続けているらしい。
揉めている場所は、マルロイ君達が部屋を2部屋取った宿の3ブロック程離れた宿だった。

相手が学園の生徒だというので何となく予想していたが、フォーゲル君と揉めている相手は、初代クレクレ君、‥‥クレイリー君だった。
宿のロビーの小さいテーブルを挟んで、アメリー嬢、フォーゲル君、メイサ嬢が長椅子に並んで座っていて、その向かいにクレイリー君が不機嫌そうに座っている。
というか、クレイリー君の左頬が晴れていて口の端が切れているじゃないか。まさか殴り合い?

マーギットさんはすっと彼らの近くに立って、低い声で言った。

「学園の生徒がここで揉めていると聞いたである。事情を聞かせてもらうである。」

ビクッとして少し驚いた顔でマーギットさんを見上げた彼らは、口々に言った。

「こいつがぶつかってきたんです。宿に入ろうとしたから、きっとわざとなんだ。」
「わざとなんかじゃないさぁ。そっちが前を見てなかっただよぅ。」
「ぶつかったせいで宿が取れなかったのですわ!」
「そうですわ。せっかく空室があったのに!」

四人がワーワー言っているのを腕組みしながら暫く聞いていたマーギットさんは、ゆっくりと右手を上げて顔の前に運んだ。

「‥‥封印せし我が右眼が、不毛と言っているかのようである。ます、どちらに非があろうと、宿の部屋は埋まっているのである。それはわかるであるな。」
「‥‥しかし‥‥。」

反論しかけたフォーゲル君に、マーギットさんが強めの口調で言った。

「この宿の部屋は埋まっているということに異論があるであるか?」
「それはない‥‥ですが‥‥。」
「ですが?」

ぐいっとマーギットさんが顔を寄せたら、フォーゲル君が少し仰け反った。

「いえ‥‥そこには異論はないです。はい‥‥。」
「そうであろう。」
マーギットさんは姿勢を戻してまた腕組みをした。

「であれば、部屋さえ取っていない宿のロビーで騒いでいることこそ問題である。学園の生徒として品位が疑われるであるぞ。」
「はい‥‥。」
シュンとして、フォーゲル君達三人が俯いた。

「君も‥‥、うん?殴り合いでもしたであるか?」
マーギットさんが、クレイリー君の顔を覗き込んだ。クレイリー君は気まずそうに目をそらせた。

「‥‥転んだ時に打っただけですぅ~。」
「ふむ。冷やした方がよいのではないか?」

マーギットさんがこちらを振り向いた。

「雪を取ってくるでござるか?」
「応急薬ならあるよ。」
外に雪を取りに行こうとするユリウスを止めて、ジョセフィンに応急薬を出してもらった。
蓋部分に刷毛がついたごく小さい小瓶で、中に液体の薬が入っている。

「あ、いや。たいした事はぁ‥‥。あ‥‥痛くなくなったぁ?」

ジョセフィンがクレイリー君に近付いて手早く薬を塗ってしまった。クレイリー君は戸惑った様子だったが、抵抗する間もなく薬を塗られて唖然としていた。
ジョセフィンが薬の小瓶をクレイリー君に差し出した。

「これは使い切りの物なので、他に傷めた場所とかあったら使って。」
「あ、はい‥‥。ありがとうですぅ‥‥。」
「え?」

急に、クレイリー君が瞳を潤わせてポロリと涙を流したので、ジョセフィンがビックリして動きを止めた。
クレイリー君は急いで指で涙を拭った。

「うぅ。宿は取れないし、ぶつかるし、転んで怪我するし、怒鳴られるしでちょっと凹んでたとこなんで‥‥親切にされたからぁ。」

クレイリー君は、涙を拭った後、少し唇を引き結んでフォーゲル君を見た。

「ぶつかったのはわざとじゃないよぅ。こっちだって、宿探しで必死だったんだ。」
「‥‥うん‥‥。そうだな‥‥。いいがかりだった。悪かった。」

フォーゲル君もちょっと落ち着いたのか、非を認めたようだ。
マーギットさんは腕組みをしたまま大きく頷いた。

「ふむ。落ち着いたかね。まずは騒いだ事を宿の人に詫びよう。」

場所をマルロイ君達が最初に部屋を取った宿に移すことにした。フォーゲル君やクレイリー君が宿の人にお詫びをした。その後でマーギットさんが受付にチップを渡していた。
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