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第3章
第191話 雪の壁
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「店の前に雪を盛るのは営業妨害ですよね。商業ギルドに訴えたほうがいい。」
「う、訴える、ですか?」
パン屋の店の前に大きくそびえ立つ雪の壁を見て俺が言うと、クグロフさんは当惑した様子だった。
「訴えるなら今だね。行こう。ジョス。クグロフさんも。あ、釜の火は絶やさないようにしておいて。」
クグロフさんを促して、商業旅団の馬車隊の方に向かった。なぜか後ろにマーギットさんとデリックさんも付いて来た。
馬車の周辺に木箱で台座を作り、布を敷いて商品を並べて、ちょっとした市が開催されていた。
ニコニコしてその様子を眺めているやや派手な外套を着た年配の男性に声をかけた。
「ドルートルさん、こんにちは。」
「お、おお‥‥。これは、これは。エルスト商会の‥。」
大きな身体をしていて鷲鼻でふくよかな商業旅団の旅団長、ドルートルさんに声をかけると、俺の顔に見覚えがあったようで、振り返って少し驚いた顔をした後
すぐに格好を崩した。
「ええ、マーカスです。こちらこの街でパン屋を営んでいるクグロフさんです。」
俺がクグロフさんを紹介するとクグロフさんはちょっと、おどおどした様子で挨拶をした。
「ほう。この街のパン屋さんですか。」
「ええ。それでですね。クグロフさんが営業妨害の件で商業ギルドに訴えを出したいらしいんですが、訴える相手を商業旅団にすべきか街の商工会にすべきかご相談したくてですね。」
「は? 営業妨害? 商業旅団をっておっしゃいまいましたか?」
ドルートルさんは驚いて大きな身体をゆすった。頬がプルンと揺れ動き眉がピクピクとしている。
俺は、パン屋の前の雪の壁を指し示した。
「あれですよ。見えます? あの雪の壁、この街の商工会から商業旅団が依頼を受けて作ったんですよね。あれでは営業できないでしょう?どう思います?」
「あ、あれは‥‥。除雪の依頼を受けて‥‥あの店の前は除雪の範囲ではないと‥‥。」
「それじゃあ,店の前に雪の壁をつくったのは、商工会の依頼ではなくて、商業旅団が雇った魔導士が自主的に作ったということですかね。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ‥‥。状況の確認に‥‥ユロール!ユロール、除雪魔導士を呼んで来てくれ!至急だ!」
ドルートルさんが秘書のユロールさんに声をかけた。ユロールさんが先頭馬車まで駆けて行って、魔導士を二人連れて戻って来た。
魔導士は疲れた表情だ。魔導士のうち一人が機嫌悪そうに言った。
「なんすか?出発時間までは休憩をしないと魔力が回復しないっすけど。」
「ちょ、ちょっと確認をだね‥‥来てくれないか、シャイン君。コンラート君も一緒に来てくれ!」
ドルートルさんや除雪魔導士達を引き連れて、パン屋の店の前までやってきた。ドルートルさんは店の入り口を完全に塞ぐ形で詰み上がった分厚い雪の壁を見て顔を青ざめさせた。
震える指で雪の壁を指さして除雪魔導士達に訪ねた。
「こ、この雪の壁は、君達の除雪魔法でできたものかね。」
「ええ、そうっすよ。除雪魔法で雪を集めたらそうなるっしょ。」
除雪魔導士のうちの一人、シャインさんが悪びれない様子で答えた。
「こ、これはこうするように、商工会長から依頼を受けたのかね。」
「こうするように、とは?」
「この雪の壁をこの店の前に作る形で除雪してくれと頼まれたのか、それとも単に広場の決められた範囲を除雪してくれと頼まれたのか。」
「決められた範囲の除雪っすね。ちゃんと除雪できてるっしょ。雪の壁の位置は特に指定されていなかったすよ。」
「あああ‥‥‥。」
トルートルさんの唇がプルプルと震えた。
そしてキッと眉を吊り上げて、除雪魔導士二人に向かって声を張り上げた。
「雪の壁の位置は指定されていなくてもだね!邪魔にならない場所に作るという決まりがあったはずだが? これでは営業妨害になるとわからんかね?
即刻!即刻この壁を除雪してくれ!」
「ええー?魔力回復していないし無理っすよー。なぁ。」
シャインさんがもう一人の除雪魔導士コンラートに同意を求めた。コンラートさんも困った様子で頷いた。
「除雪魔法でできた雪の壁を壊すのは、普通の除雪より魔力が多くかかるんです。その‥‥、この後の除雪のともありますけど、それ以前に今は魔力的に無理っていうか‥‥。」
「ああーー。」
ドルートルさんが頭を抱えた。声のトーンを落として秘書のユロールさんに声をかける。
「ユロール‥‥、他の除雪魔導士も呼んで来てくれないか。」
「あ、はい‥‥。」
ユロールさんが頷いて馬車の方に向かおうとするのをシャインさんが呼び止めた。
「いや、無理ですって。無理して全員でやったとして、その後、魔力回復が必要っすよ。除雪出来なくなるっすよ。出発一日遅らせるっすか?」
「そ、それは‥‥。」
ドルートルさんがオロオロしていた。
「う、訴える、ですか?」
パン屋の店の前に大きくそびえ立つ雪の壁を見て俺が言うと、クグロフさんは当惑した様子だった。
「訴えるなら今だね。行こう。ジョス。クグロフさんも。あ、釜の火は絶やさないようにしておいて。」
クグロフさんを促して、商業旅団の馬車隊の方に向かった。なぜか後ろにマーギットさんとデリックさんも付いて来た。
馬車の周辺に木箱で台座を作り、布を敷いて商品を並べて、ちょっとした市が開催されていた。
ニコニコしてその様子を眺めているやや派手な外套を着た年配の男性に声をかけた。
「ドルートルさん、こんにちは。」
「お、おお‥‥。これは、これは。エルスト商会の‥。」
大きな身体をしていて鷲鼻でふくよかな商業旅団の旅団長、ドルートルさんに声をかけると、俺の顔に見覚えがあったようで、振り返って少し驚いた顔をした後
すぐに格好を崩した。
「ええ、マーカスです。こちらこの街でパン屋を営んでいるクグロフさんです。」
俺がクグロフさんを紹介するとクグロフさんはちょっと、おどおどした様子で挨拶をした。
「ほう。この街のパン屋さんですか。」
「ええ。それでですね。クグロフさんが営業妨害の件で商業ギルドに訴えを出したいらしいんですが、訴える相手を商業旅団にすべきか街の商工会にすべきかご相談したくてですね。」
「は? 営業妨害? 商業旅団をっておっしゃいまいましたか?」
ドルートルさんは驚いて大きな身体をゆすった。頬がプルンと揺れ動き眉がピクピクとしている。
俺は、パン屋の前の雪の壁を指し示した。
「あれですよ。見えます? あの雪の壁、この街の商工会から商業旅団が依頼を受けて作ったんですよね。あれでは営業できないでしょう?どう思います?」
「あ、あれは‥‥。除雪の依頼を受けて‥‥あの店の前は除雪の範囲ではないと‥‥。」
「それじゃあ,店の前に雪の壁をつくったのは、商工会の依頼ではなくて、商業旅団が雇った魔導士が自主的に作ったということですかね。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ‥‥。状況の確認に‥‥ユロール!ユロール、除雪魔導士を呼んで来てくれ!至急だ!」
ドルートルさんが秘書のユロールさんに声をかけた。ユロールさんが先頭馬車まで駆けて行って、魔導士を二人連れて戻って来た。
魔導士は疲れた表情だ。魔導士のうち一人が機嫌悪そうに言った。
「なんすか?出発時間までは休憩をしないと魔力が回復しないっすけど。」
「ちょ、ちょっと確認をだね‥‥来てくれないか、シャイン君。コンラート君も一緒に来てくれ!」
ドルートルさんや除雪魔導士達を引き連れて、パン屋の店の前までやってきた。ドルートルさんは店の入り口を完全に塞ぐ形で詰み上がった分厚い雪の壁を見て顔を青ざめさせた。
震える指で雪の壁を指さして除雪魔導士達に訪ねた。
「こ、この雪の壁は、君達の除雪魔法でできたものかね。」
「ええ、そうっすよ。除雪魔法で雪を集めたらそうなるっしょ。」
除雪魔導士のうちの一人、シャインさんが悪びれない様子で答えた。
「こ、これはこうするように、商工会長から依頼を受けたのかね。」
「こうするように、とは?」
「この雪の壁をこの店の前に作る形で除雪してくれと頼まれたのか、それとも単に広場の決められた範囲を除雪してくれと頼まれたのか。」
「決められた範囲の除雪っすね。ちゃんと除雪できてるっしょ。雪の壁の位置は特に指定されていなかったすよ。」
「あああ‥‥‥。」
トルートルさんの唇がプルプルと震えた。
そしてキッと眉を吊り上げて、除雪魔導士二人に向かって声を張り上げた。
「雪の壁の位置は指定されていなくてもだね!邪魔にならない場所に作るという決まりがあったはずだが? これでは営業妨害になるとわからんかね?
即刻!即刻この壁を除雪してくれ!」
「ええー?魔力回復していないし無理っすよー。なぁ。」
シャインさんがもう一人の除雪魔導士コンラートに同意を求めた。コンラートさんも困った様子で頷いた。
「除雪魔法でできた雪の壁を壊すのは、普通の除雪より魔力が多くかかるんです。その‥‥、この後の除雪のともありますけど、それ以前に今は魔力的に無理っていうか‥‥。」
「ああーー。」
ドルートルさんが頭を抱えた。声のトーンを落として秘書のユロールさんに声をかける。
「ユロール‥‥、他の除雪魔導士も呼んで来てくれないか。」
「あ、はい‥‥。」
ユロールさんが頷いて馬車の方に向かおうとするのをシャインさんが呼び止めた。
「いや、無理ですって。無理して全員でやったとして、その後、魔力回復が必要っすよ。除雪出来なくなるっすよ。出発一日遅らせるっすか?」
「そ、それは‥‥。」
ドルートルさんがオロオロしていた。
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