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第3章

第150話 オズ兄

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まあ、クラーラさんの婚約の事とかは、ヴィルヘルムさんがちゃんと考えているだろうから俺は気になる情報を提供するだけで余計な手出しはしなくていいと思う。
ヴィルヘルムさんは妹想いだから、家同士の繋がりよりクラーラさんの幸せを考えそうな気がする。家同士の繋がりを重視するにしてもエルマーさんではダメとなったら、エルマーさんの弟との婚約を検討するんだろう。
まあ、エルマーさんの弟さんの人柄とかは知らないけどさ。


そんな事を考えながら午前中を過ごして、昼休みにカフェテリアに向かったら意外な人物に遭遇した。

「やあ、マー君、ジョス君久しぶり!」
「!」

慌ててカフェテリアのフロアの真ん中で消音魔法を発動した。
相手は、特進科3年、オズワルド・アドラー公爵令息、通称オズ兄だった。

オズ兄は俺の消音魔法の効果範囲を測るように周辺を見回した。

「へえ、相変わらず魔法の展開が早いよね。」
「オズ兄、久しぶり‥‥。」
「ホント久しぶりだよねー。入学して来たはずなのにちっとも挨拶にも来てくれなくてさ!」

サラサラした銀髪に冷たい輝きをもった蒼い瞳。密かに氷の貴公子って噂されているだけある。冷酷そうで、それでいてちょっと悪戯っぽい瞳で俺の顔を覗き込んだ。

「『晩秋の夕べ』でジョス君の姿を見かけてさ。よーくみたら、隣にいるのマー君だったんでびっくりだよ。髪の色と眼鏡だけで印象違うんだね!」

やっぱり、「晩秋の夕べ」で姿を見られていたのか。
オズ兄とは兄同士が同級生だったから子供の頃からよく知っている相手ではあったけど、俺は高位貴族の間のごたごたとした状況を避ける為に特進科に行かなかったので
オズ兄にも連絡を取っていなかったんだよね。

「‥‥兄が特進科は面倒だっていうから近付かなかったんだよ。ごめん。連絡もしないで。」
「正解だよ。まあ、マー君の性格じゃあ合わないだろうね。僕も騎士科に行けばよかったなぁ。」

背が高く色白でほっそりとしたオズ兄は、剣なんて持った事ありませんよって言われたら信じそうなくらい腕も指も細い。騎士科への進学とか考えた事もなさそうだけどなと思う。
いくら消音魔法と目くらましの壁を作っていてもカフェテリアのフロアの真ん中で立ち話をしていると目立つので昼食に誘った。
昼食は個室でエドワードとジークヴァルドさんと待ち合わせをしていたのだ。

俺が誘うとオズ兄は初めて嬉しそうに笑った。オズ兄の後ろで従者のモーリスさんがぺこりとお辞儀をした。

個室に行くとジークヴァルドさんとエドワードがオズ兄を見てちょっと動揺した様子だった。俺はごめんと二人に謝った。

「ちょっとそこで会っちゃって。一緒の昼食でもいいかな。」
「そ、それは勿論‥‥。アドラー公爵令息と知り合いだったんだね。」

ジークヴァルドさんがちょっと気まずそうな顔をした。オズ兄とジークヴァルドさんは特進科の同じクラスのはずだけど、仲は良くなかったのかもしれない。
誘ってしまって失敗だったかな。

「やあ、アインホルン君。マー君達と仲良しならそう言ってくれればいいのに。」
「ま、マー君?」
「マーカスだからマー君だよ。僕の弟のようなものだよ。‥‥ちょっと薄情な弟だけどね!」

オズ兄は入学してから今まで会いに行かなかった事をまだ根に持っているっぽい。
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