騎士志望のご令息は暗躍がお得意

第3章

第144話 結局未遂

俺の召還獣の魔ネズミたちに図書委員一人一人を見張らせていたのだ。
そうしたら、ゼラルド伯爵令息を見張っていたチューニーが動きがあった事を知らせてくれた。
その知らせを受けて、木の上で待機させていたピーハチにゼラルド伯爵令息を追いかけるように指示を出した。
俺が「晩秋の夕べ」の会場でピーハチと感覚共有をした時、ゼラルド伯爵令息が特進科の女子寮の庭先に忍び込んで行く光景が見えた。
だから寮の中に忍び込んで捕まるんじゃないかと思っていた。誰か忍び込んだら即捕まえられるように中には女性騎士が待機していたのだ。
だが、ゼラルド伯爵令息は忍び込まなかったようだ。

ヴィルヘルムさんが残念そうに俺に告げた。

「ゼラルドにはちょっと窓枠の位置が高すぎたらしいんだよ。」
「‥‥あー‥‥。」

確かにゼラルド伯爵令息は小柄だった。せっかく潜り込んでくださいとばかりに一階の窓の一つを少しだけ開けておいたのに。

「届かなかったみたいだけどよ。やろうと思えば踏み台でもなんでも持ってくれば良かっただろう。多分あまり乗り気じゃなかったじゃねえかな。」
「‥‥なるほどね。」

ゼラルド伯爵令息は気が弱そうだったし、女子寮に忍び込むなんて大胆な事をしそうには見えない。
まあ、気が弱いから女子寮に忍び込めなんて言いつけられてるんだろうけどさ。

「結局、女子寮と特進科の教室の間を何度か往復して、終演時間の頃に会場に向かったんだと。」

ゼラルド伯爵令息は作戦が失敗したことを伝えたかったようだが、ラウム伯爵令息は彼が作戦が成功した事を伝えに来たと思い込んだようだ。
それでクラーラさんへの糾弾に踏み切ったらしい。

ヴィルヘルムさんはその後の取り調べの結果について教えてくれた。
ラウム伯爵令息達はペンダントを盗んだ事は否認しているそうだ。拾ったと言い張っているとのこと。そして拾ったペンダントを利用してエルマーさんとクラーラさんが別れるようにしむけたかったと主張しているそうだ。
何故、エルマーさん達を別れさせたかったかについても「ロセウス子爵令嬢の方がふさわしいから」とか曖昧なことを言っているだけだという。

ペンダントを盗んだという証拠は挙げられないかもしれない。
しかし今回彼らは、高位貴族の子息子女とプロの演奏家の前で騒ぎを起こしたので、
学園から何らかの処分があるかもしれない。それにクラーラさんを侮辱したことについての抗議も行われるだろう。

「エルマーのボンクラぶりは今に始まった事じゃないが‥‥あの場でクラーラを庇わなかったら，こっちから婚約破棄‥‥いや、叩き斬ってたわ。
中途半端なんだよなぁ、あいつ‥‥。弟の方に変更できないかな～。だめかな～‥‥。」

ヴィルヘルムさんがブツブツと呟きだした。
エルマーさんの弟は来年学園に入学予定だけど、結構しっかりした性格なんだそうだ。
クラーラさんの一つ年下ということなので、婚約を結び直すとしても無理な年齢差ではなさそうに思う。。
もしも今、エルマーさんの弟さんが学園に在籍していたとしたら、ここまで騒動になる前に止めてただろう。
‥‥もしかして、弟さんが入学する前を狙って仕掛けたのかもしれないな。

エルマーさん的にはラウム伯爵令息やロセウス子爵令嬢達の事を「良い仲間」とか「友達」とか思っていたらしい。
‥‥エルマーさん、友達いなさすぎじゃね？