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第3章

第139話 始まった

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まだ会場の拍手が鳴り止まない中、前方側の出入り口のドアが開いた。中に入ってくる人影が一つ。
図書委員のもう一人、クルト・ゼラルド伯爵令息だ。小柄な彼はブカブカのピンクのジャケットを羽織っていた。
あのジャケットってオーダーメイドじゃなかったのか?何であんなにサイズが合っていないんだろう。袖なんて長過ぎて指が少ししか見えていないんだけど。
ゼラルド伯爵令息はおどおどした様子で会場内に入って来て、キョロキョロと周囲を見回していた。

急にラウム伯爵令息が立ち上がった。
会場は、拍手が丁度鳴り止んだところだった。

「見つけたぞ!ペンダントを盗んだ犯人を!」

すっと腕を突き出して指を差しラウム伯爵令息がそう叫んだのは、鮮血の吟遊詩人が舞台の袖から一歩踏み出して出て来たばかりのタイミングだった。

あーー!アンコールが!

ザッ!

次の瞬間、どうやって移動してきたのかと思う程の早さで、騎士達がラウム伯爵令息の両隣に立っていた。そして背中に手を添えたと思ったらストンと椅子にラウム伯爵令息座らせた。

「演奏中はお静かに。」

小さく、低い声が聞こえた。よく見ると騎士がラウム伯爵令息の肩を上からがっちりと押さえている。
騎士がスッと片手を上げて舞台の方に合図をしていた。

少しだけ間を置いて、最後に歌った吟遊詩人と鮮血の吟遊詩人が一緒に舞台に上がった。
二人とも何事もなかったように笑顔を浮かべ、二人で竜骨ノ詩の別メロディバージョンを歌いあげた。
短い曲だったけれど、微妙な空気を一気に吹き飛ばすような、壮大さを感じた。

でも、何か奴らが起こしかけていると思うとちょっと落ち着かない。

吟遊詩人の演奏の後は、出演者全員が舞台に上がって挨拶をしていた。何とかこのまま無事に終わって欲しいと祈った。
出演者達が全員でお辞儀をして退場し、舞台の灯りが消えた。

終わった!とホッと息を吐いた次の瞬間、カティス男爵令息が立ち上がって叫んだ。

「見つけたぞ!ペンダントを盗んだ犯人を!」

さっきと同じ台詞?ザワザワと会場がどよめく。

「そ、そうだぞ!犯人は‥‥クラーラ・アイヴリンガー侯爵令嬢だ!」

アンコール演奏が始まって騎士から解放されていたラウム伯爵令息が叫んだ。

ギン! クラーラさんが居る方から魔力が急激に溢れ出したのを感じた。
クラーラさんが立ち上がり、ラウム伯爵令息とカティス男爵令息を睨んだ。きゅっと両手の拳を握りしめて言う。

「わ、わたくしはそんな事はしません!」
「クラーラ‥‥。」

エルマーさんがクラーラさんの名前を呼んで立ち上がった。その腕にロセウス子爵令嬢がぶら下がっている。

ラウム伯爵令息が立ち上がって、クラーラさんを指差した。

「ふん!しらばっくれても調べればすぐに判ることだ!」
「そうだ!婚約者の所持する宝石を盗むなんて、なんて卑怯な!」

カティス男爵令息が続く。

「えー?信じられないぃ~!お金に困っていたのかしらぁ?」

ロセウス子爵令嬢が、エルマーさんの腕にしがみついたまま、追撃した。
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