上 下
79 / 324
第3章

第78話 晩秋の虫採り

しおりを挟む
早朝お茶会を終えて、一度部屋に戻る為、ジョセフィンと並んで歩きながら、赤く色づいた木々が冷たい風に揺れるのを見上げた。

「ねぇねぇジョスジョス。」
「なんです?急に変な呼び方やめてください。」
「もうすぐ冬だろ。エドワードの召還練習用の魔黄金虫って、集められると思う?」
「‥‥うーん‥‥。寒いからこそ魔力溜まりに集まってるかもしれないですよ?」

そう言いながらもジョセフィンは難しそうな顔をした。

「どうかな。まあ、本格的に冬になる前に行ってみないとな。」
「エドワードも誘ったら喜ぶんじゃないですかね。」
「ああ、それはいいかも。」
晩秋の虫採り計画が決まった。


放課後、日が沈みかけている中、古代の神殿の柱が建ち並ぶ公園を歩く。
もっこもこに着込んだエドワードが、興味深げに、辺りを見回しながらついてくる。

「へぇ。王都にこんなところがあるんだね。この辺に魔力溜まりがあるの?」
「柱の近くにはないよ。もう少し外れたところ。」

そういって俺は、柱が並ぶ道を抜けた先の、細い木がいくつか生えている辺りを指差した。
枯れた色の草が風に揺れている中、丸太が転がっている。

「この丸太付近を調べるんだよ。はい、虫籠持って。手袋もしたほうがいいよ。」

虫かごと布手袋を手渡す。手袋は、虫に触るのを躊躇して、取り逃がしたりするのを避けるためだ。
丸太は、俺達が以前運んで来手置いておいたものだ。
何回か魔黄金虫を採取していたんだけど、木や丸太に魔蜂の蜂蜜を塗っておいたりすると、魔黄金虫が集まりやすくなるんだ。
ここにくるのは久しぶりだから、蜂蜜はまだ塗っていないけど、今日、魔黄金虫が見つからなかったら、
蜂蜜を塗っておいて後日また来る予定だ。

「見つかったらすぐ虫かごにいれなよ。」
「こんな寒い時期に見つかるかな。」
「魔黄金虫は、一応魔獣で魔力があるからか、普通の虫よりずっと長生きなんだよ。冬を越すならどこかに身を潜めているはずだろ。」

そういって、そおっと丸太を動かしてみると、艶のある丸い姿が見えた。

「いた!」
「え、本当?」
「一匹だけ。」

ささっと虫かごに放り込むと、エドワードがうらやましそうに覗き込んだ。

「丸太の陰とか見てごらんよ。」
「うん!やってみる!」

丸太をひっくり返してみたり、小枝を拾ってそれで、土をほじってみたり、慣れない作業なのか、その都度叫び声のような声をあげながらも
エドワードは結構楽しそうに魔黄金虫を採取できた。
5匹程捕まえた頃には、日がすっかり沈んで辺りが暗くなってしまったので、虫獲りイベントは終了した。

「5匹か。練習にはちょうどいいかもね。念のため、集まってくるように木に魔蜂の蜂蜜は塗っておくけど。」
「ありがとう!練習楽しみ!」

エドワードは、虫かごを抱えて、嬉しそうに笑った。マフラーで首の周りをグルグルに巻いているけど、鼻の頭だけちょっと赤くなってる。

「寒いよな。屋台でホットレモネードでも買って飲む?」
「え、何それ美味しそう!屋台?行ってみたい!」

俺の提案に、テンションが上がった様子で応えたエドワードは、ふと、手の中の虫かごに目を落とした。

「あー‥‥。僕虫触ったよ‥‥。虫触った手だとちょっと‥‥。」
「いや、もちろん手は洗うでしょ。」

ふふふと、ジョセフィンが笑った。

「公園脇にある教会の井戸を使わせてもらえるよ。」
「そ、そうなんだ。よかった。」
「水、めちゃくちゃ冷たいけどね。」
「えー?」

教会で少し大きめの桶をかりて、桶の中の井戸水を魔法で温めた。
柄杓で各自手を洗ってから、三人で一斉に両手を桶につっこんだ。

「あったかい!気持ちいい!」

エドワードの声が響いたのか教会で働いている人達が、興味深げにこちらを見た。
暫くの間手を温めて、桶を片付けようとしたら、そのままでいいからお湯を洗い物用に使わせて欲しいと言われて、お湯の入った桶をそのまま渡した。

桶と井戸を貸して貰ったお礼に、他の人が持っていた桶の水もお湯に変えた。
魔法を何度も使ったせいか、途中で貴族だと、気がつかれて恐縮されてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ハニィ

ももくり
ファンタジー
ある日突然、異世界へ召喚されてしまった女子高生のモモ。「えっ、魔王退治はしなくていいんですか?!」あうあう言っているうちになぜか国境まで追いやられ、隙あらば迫ってくるイケメンどもをバッサバッサとなぎ倒す日々。なんか思ってたのと違う異世界でのスローライフが、いま始まる。※表紙は花岡かおろさんのイラストをお借りしています。※申し訳ありません、今更ですがジャンルを恋愛からファンタジーに変更しました。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...