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第3章

第69話 ザシュザシュ

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頭に一本角が生えた黒豹が姿を現した。
カサンドラが弓を構える。

「私が足を狙って、弱らそう。」

そういってすぐ弓を引いて、角黒豹の左前足を矢で射抜いた。

「ギャオ!」

クラーラ嬢達に向かって来ていた角黒豹は足に矢が刺さって、よろけて、うなり声を上げたが、すぐにまた、三人に向かって行く。
しかし、動きは鈍くなっている。

「もう一つ!」

イリーが角黒豹の右前足を射抜く。
角黒豹の動きが止まった。

「今よ!クラーラ!」

イリーが声をかけると、クラーラ嬢がショートソードを引き抜いて、角黒豹に斬り掛かった。

ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!

魔法の時と違って、剣を振る動きはちょっとぎこちない。斬り口が浅く、すぐに止めを刺せずに何度も斬り掛かっている。

ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!

「ちょ!クラーラ!」

ザシュ!ザシュ!キィーン!

光の粒になりかけても斬りつけているクラーラ嬢にイリーが声をかけたが、クラーラ嬢は、光の粒が消えるまで剣を振り続けた。
最後に、粉々になった魔石が転がった。
ドロップした魔石まで斬ってしまったようだ。

「‥‥クラーラ、オーバーキルが過ぎる‥‥。」
「わ、わたくし、仕留めきれていないか不安で‥‥。」

イリーに言われてしゅんと項垂れるクラーラ嬢。カサンドラがポンポンと背中を叩いた。
クラーラ嬢は、じっとしているときはおしとやかな令嬢の雰囲気なんだけど、魔獣に斬り掛かっているときは、かなり迫力があった。
多分皆気がついているけど、そこには誰も触れない。

クラーラ嬢はそれから何回か剣で戦ってみたけど、どうしても過剰に斬りつけてしまうようだ。
少ししたら息が上がってしまって、安全地帯を探して休憩することになった。
ヘンリーも、大分魔獣との戦いに慣れてきたようだったけど疲労が溜まっていたらしくて、安全地帯に到着したら、ごろんと横になってしまった。

「はぁ~、ここまで猫の目魔石一個もなしかぁ~」

一度起き上がって、肩掛け鞄から外套を引っ張りだしてきて畳んで枕代わりにしてもう一度横になるヘンリー。
ジョセフィンはすぐ湯を沸かし始めた。
結界石に興味があるらしいアレクシスとフェリクスは、入り口に結界を張る作業を手伝ってくれる。
第三階層の安全地帯は入り口が広いので、念のため結界石と、魔獣避けの香を焚く。
ジョセフィンが湯を沸かしているところから、フェリクスが火を分けてもらってきて、香炉に入った魔獣避けの香に火を移した。

「手際がいいな。」

ヴィルヘルムさんは、火を湧かしているジョセフィンや、結界を張っている俺達を眺めて言った。どかっと敷物なしに壁際に座り込み、剣の状態確認を始めた。
ダンジョンでは、倒した魔獣は血も残らないので、剣が血まみれになることはないのだが、切れ味は鈍くなるらしい。それに刃が欠けていないかの確認も必要だ。
カサンドラは、敷物を敷いたところに、クラーラを座らせる。イリーは、カップに水を注いでクラーラに差し出した。

無事に結界と魔獣避けの香の設置ができたので、ジョセフィンの傍まで行って、鞄から包みを取り出した。
ドライフルーツとナッツを固めた菓子だ。魔蜂の蜂蜜入り。魔蜂の蜂蜜は魔力と体力の回復に効くと言われていてポーションの材料にもなるものだ。
ジョセフィンが木皿を差し出してくれたので、人数分の個数を並べた。
湯の沸く音がしてきたら、イリーがカップを集め始めた。
集まったカップにジョセフィンがお茶を注ぐと、各自でカップを受け取りに行き、菓子も一つずつ持って行く。

「ああ、お茶が美味しいです。ほっとします。」

お茶を一口飲みクラーラ嬢が微笑んだ。それからドライフルーツの菓子を一口食べてにっこりする。

「お菓子も美味しい!」
「それはよかった。」

ジョセフィンがニコリと笑った。
俺もお茶を飲んで一息ついた。器具とか手順とか普段よりずっと省略しているのに、ジョセフィンが煎れたお茶は美味しいんだよな。
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