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第2章
第60話 ジークヴァルドとお話
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秋が深まった頃には、カシュー先輩もすっかり落ち着いた。
ニーナは退学となり、学園を去っていった。
トリシア嬢は、謹慎期間を少し過ぎた頃に、復学した。
ジークヴァルドとは、婚約を解消したが、和解をしたそうだ。
ジークヴァルドがトリシア嬢に対して誠実ではない態度を取り続けていた事を謝罪したんだそうだ。
でも、不貞行為は働いていないと主張していたとか。
トリシア嬢も、エドワードを傷つけた事を、エドワードに謝ったのだそうだ。
一時期、トリシア嬢は修道院に行くという話も出ていたらしい。しかし、元は自分も悪かったのだからと、ジークヴァルドがブランシュ侯爵を説得したのだという。
そして俺とジョセフィンは週2回。昼休みを全学科共通のカフェテリアで過ごしている。
昼休みが始まり、カフェテリアに向かう廊下の窓から、赤や黄色に染まった木々から葉がハラハラと落ちるのが見える。
それをちらりと見てからジョセフィンが言った。
「すっかり懐かれちゃいましたね。」
「仲良いのは悪い事じゃないだろ。」
エドワードが、昼食を一緒に食べたいというので、週2回カフェテリアで待ち合わせをするようになった。
エドワードは、もっと回数を増やしたいようなんだけど、俺達は、騎士科のメンバーとの付き合いがあるし、エドワードだって、クラスの人達と交流した方がいいと
説得した。
エドワードは、クラスに馴染めていないという程ではないけれど、付き合いは表面的、と本人は言っていた。
カフェテリアに入ると、大きな窓の近くの席で、エドワードが笑顔で手を振って来た。
手を振り返すと、エドワードの傍に、見覚えの有る人影が現れた。
背の高い男。逆行で見づらいけど、エドワードの兄のジークヴァルドだ。
何故ここに? と思ったけど、立ち止まらずにとりあえず、近づいて行った。
「エドワード、お待たせ。」
エドワードに話しかけてから、ジークヴァルドにお辞儀をする。
「僕も今来たところだよ。今日、兄上が話したいっていうから連れて来たんだけど、いい? ダメなら帰ってもらうよ。」
エドワードは、ニコニコして言う。「帰ってもらう」とか、お兄さんに対してあまり遠慮がなくなったのかな。
「いや、ダメではないよ。‥‥マーカス・プリメレモンです。」
「ジョセフィン・サリエットです。」
ジークヴァルドとは何回か顔を合わせるような場面があったけれど、正直、しゃべるのは始めてだ。
名乗って、ジョセフィンと並んで、改めてお辞儀をした。
「ジークヴァルド・アインホルンだ。‥‥。事件の時は弟が世話になった。礼を言うのが遅くなってすまない。」
「ああ、特に何かしたという程のことはないので、気にしないでください。」
頭を下げてくるジークヴァルドに、ちょっと慌てる。
そもそも、本当にほとんど何もしてない。衛兵を呼ばせたことと、父と兄に相談したくらい。
「それでも‥‥だ。弟が明るくなったのは君たちのおかげだろう。」
ジークヴァルドはもう一度頭を下げた後、エドワードの頭をくしゃっとなでた。
エドワードはくすぐったそうな顔をしている。
以前は張りつめたような、雰囲気があったのに、本当に表情が柔らかくなった。
ジークヴァルドは周囲を見回した。
学科の隔てなく食事をする、という人が少ないのか、カフェテリアは、空いている。俺達のテーブルの周りには誰もいなかった。
「俺もランチをご一緒してもいいだろうか。」
ジークヴァルドが言った。
「ええ、勿論。」
答えると、ジークヴァルドの口元に笑みが浮かんだ。椅子に腰を下ろし、給仕を呼び寄せた。
「内密な話がある。」
給仕に注文をした後に、ジークヴァルドが俺を見ていった。これは消音魔法を使ってくれということか。
注文通り、テーブルの周囲を消音魔法の壁で囲んだ。
後から給仕の人が料理を持ってくるけど、人は通れるから問題ないはずだ。
ジークヴァルドは、ちらりと、右、左と目を動かしてから、ふぅっと息を吐いた。
「エドワードから聞いていたが、想像以上に魔法の展開が早いんだな。」
「便利なんで沢山練習しました。」
「ふ。」
俺が答えると、ジークヴァルドが、少し笑った。それから、ジョセフィンの方を見た。
「ルドルフ・サリエット男爵‥‥。」
ジークヴァルドが、ジョセフィンの父の名前を口にした。ジョセフィンが、目をぱちくりとさせた。
「‥‥父が、何か?」
ジョセフィンは訳が分からず答えた。
「‥‥やはり、サリエット男爵の息子なのか‥‥。父は、『サリエット』という名を覚えていた。」
「ワイン吹いちゃったんだよ。」
ジークヴァルドが言うと、エドワードがふふふと笑いながら付け足した。ワイン?
「僕が仲良くなった人の名前を言ったらね。『サリエット』って聞いて、父上がワインを吹き出したの。
あんな慌ててる父上見たの初めてだったよ。」
エドワードがケラケラ笑う。
「学生時代、ボコボコにされたそうだ。‥‥当時の第二王子だったセロ殿下の侍従を勤めていたルドルフ卿に。」
ジークヴァルドは、そういうとじっと、ジョセフィンを見た後、俺を見つめた。
‥‥うん、素性が知られたってことかな。
ニーナは退学となり、学園を去っていった。
トリシア嬢は、謹慎期間を少し過ぎた頃に、復学した。
ジークヴァルドとは、婚約を解消したが、和解をしたそうだ。
ジークヴァルドがトリシア嬢に対して誠実ではない態度を取り続けていた事を謝罪したんだそうだ。
でも、不貞行為は働いていないと主張していたとか。
トリシア嬢も、エドワードを傷つけた事を、エドワードに謝ったのだそうだ。
一時期、トリシア嬢は修道院に行くという話も出ていたらしい。しかし、元は自分も悪かったのだからと、ジークヴァルドがブランシュ侯爵を説得したのだという。
そして俺とジョセフィンは週2回。昼休みを全学科共通のカフェテリアで過ごしている。
昼休みが始まり、カフェテリアに向かう廊下の窓から、赤や黄色に染まった木々から葉がハラハラと落ちるのが見える。
それをちらりと見てからジョセフィンが言った。
「すっかり懐かれちゃいましたね。」
「仲良いのは悪い事じゃないだろ。」
エドワードが、昼食を一緒に食べたいというので、週2回カフェテリアで待ち合わせをするようになった。
エドワードは、もっと回数を増やしたいようなんだけど、俺達は、騎士科のメンバーとの付き合いがあるし、エドワードだって、クラスの人達と交流した方がいいと
説得した。
エドワードは、クラスに馴染めていないという程ではないけれど、付き合いは表面的、と本人は言っていた。
カフェテリアに入ると、大きな窓の近くの席で、エドワードが笑顔で手を振って来た。
手を振り返すと、エドワードの傍に、見覚えの有る人影が現れた。
背の高い男。逆行で見づらいけど、エドワードの兄のジークヴァルドだ。
何故ここに? と思ったけど、立ち止まらずにとりあえず、近づいて行った。
「エドワード、お待たせ。」
エドワードに話しかけてから、ジークヴァルドにお辞儀をする。
「僕も今来たところだよ。今日、兄上が話したいっていうから連れて来たんだけど、いい? ダメなら帰ってもらうよ。」
エドワードは、ニコニコして言う。「帰ってもらう」とか、お兄さんに対してあまり遠慮がなくなったのかな。
「いや、ダメではないよ。‥‥マーカス・プリメレモンです。」
「ジョセフィン・サリエットです。」
ジークヴァルドとは何回か顔を合わせるような場面があったけれど、正直、しゃべるのは始めてだ。
名乗って、ジョセフィンと並んで、改めてお辞儀をした。
「ジークヴァルド・アインホルンだ。‥‥。事件の時は弟が世話になった。礼を言うのが遅くなってすまない。」
「ああ、特に何かしたという程のことはないので、気にしないでください。」
頭を下げてくるジークヴァルドに、ちょっと慌てる。
そもそも、本当にほとんど何もしてない。衛兵を呼ばせたことと、父と兄に相談したくらい。
「それでも‥‥だ。弟が明るくなったのは君たちのおかげだろう。」
ジークヴァルドはもう一度頭を下げた後、エドワードの頭をくしゃっとなでた。
エドワードはくすぐったそうな顔をしている。
以前は張りつめたような、雰囲気があったのに、本当に表情が柔らかくなった。
ジークヴァルドは周囲を見回した。
学科の隔てなく食事をする、という人が少ないのか、カフェテリアは、空いている。俺達のテーブルの周りには誰もいなかった。
「俺もランチをご一緒してもいいだろうか。」
ジークヴァルドが言った。
「ええ、勿論。」
答えると、ジークヴァルドの口元に笑みが浮かんだ。椅子に腰を下ろし、給仕を呼び寄せた。
「内密な話がある。」
給仕に注文をした後に、ジークヴァルドが俺を見ていった。これは消音魔法を使ってくれということか。
注文通り、テーブルの周囲を消音魔法の壁で囲んだ。
後から給仕の人が料理を持ってくるけど、人は通れるから問題ないはずだ。
ジークヴァルドは、ちらりと、右、左と目を動かしてから、ふぅっと息を吐いた。
「エドワードから聞いていたが、想像以上に魔法の展開が早いんだな。」
「便利なんで沢山練習しました。」
「ふ。」
俺が答えると、ジークヴァルドが、少し笑った。それから、ジョセフィンの方を見た。
「ルドルフ・サリエット男爵‥‥。」
ジークヴァルドが、ジョセフィンの父の名前を口にした。ジョセフィンが、目をぱちくりとさせた。
「‥‥父が、何か?」
ジョセフィンは訳が分からず答えた。
「‥‥やはり、サリエット男爵の息子なのか‥‥。父は、『サリエット』という名を覚えていた。」
「ワイン吹いちゃったんだよ。」
ジークヴァルドが言うと、エドワードがふふふと笑いながら付け足した。ワイン?
「僕が仲良くなった人の名前を言ったらね。『サリエット』って聞いて、父上がワインを吹き出したの。
あんな慌ててる父上見たの初めてだったよ。」
エドワードがケラケラ笑う。
「学生時代、ボコボコにされたそうだ。‥‥当時の第二王子だったセロ殿下の侍従を勤めていたルドルフ卿に。」
ジークヴァルドは、そういうとじっと、ジョセフィンを見た後、俺を見つめた。
‥‥うん、素性が知られたってことかな。
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