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第2章

第58話 カシュー先輩の哀しみ

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衛兵を呼んだのと同時に、父と兄にも連絡を入れておいた。
昨日のうちに父から、転売の件について、アインホルン侯爵へは魔鷹の便が飛んでいる。

ーーーーうちの商会の商品を、君のところのご子息が買った翌日に転売しているんだが、どういうこと?
 婚約者でもない女性を連れて来て買い与えているし、その女性、別の店で、詐欺まがいの違法な売り方しようとしてたよ。
うちの商品の品位を下げかねないんで、気分悪いんだけど。

そんな内容の手紙を出したらしい。あと、ファシナの媚石の件についても伝えたそうだ。
アインホルン侯爵は、父からの手紙を受けて、アインホルン侯爵領から替え馬を駆使して、王都の向かって、一晩で王都まで着いたそうだ。
アインホルン侯爵領は、王都からそこまで離れてはいないけど、馬車で三~四日くらい?結構無理していそうだな。

なので、トリシア嬢からの扇子殴打事件の知らせが、王都のアインホルン侯爵邸に届いたときには、アインホルン侯爵は王都に到着していた。
到着後も、休む間もなく、アインホルン侯爵は行動した。

ブランシュ侯爵家に対して、ジークヴァルドの不誠実な態度については詫びつつ、でも、エドワードに何度も暴行や暴行未遂を繰り返した事については、アインホルン侯爵家に対する侮辱行為だとして、暴行による被害届と、婚約破棄と慰謝料請求を訴え出た。
その日のうちに法務局に申請を出した。
さらに、エルストベルク邸にも謝りに来た。

エドワード達の父親、アインホルン侯爵が、シンプルに次男エドワードに対する暴行行為に腹を立てたからなのか、
それとも、ブランシュ侯爵家から、ジークヴァルドの態度の責任を追及しての婚約破棄を申し出られるのを予測してなのかは、不明だけど
領地に居て、知らせを受けるのが遅れたブランシュ侯爵よりも、先に行動を取れた事になる。

トリシア・ブランシュ侯爵令嬢は、学園は一ヶ月の謹慎処分となった。
法務局に訴えられた暴行行為については、罰金と、アインホルン侯爵家への慰謝料の支払いということになったようだ。
事件から数日後に王都に到着したブランシュ侯爵は、ジークヴァルドの不貞行為が原因だと主張したが、
当人ではないエドワードに暴行を加えた理由としての正当性は認められなかった。
示談としてジークヴァルドの不誠実な態度について慰謝料の一部を相殺することになったようだ。

諸悪の根本原因のようなピンク巻き毛については、罠が張られていた。
スキップしそうな勢いで、宝石店に入って行くニーナ・バーデン男爵令嬢の姿を、物陰からそっと見つめる、青い髪の青年は青い顔をしながらブツブツとつぶやいていた。

「嘘だ‥‥。嘘だよね‥‥。ニーナ‥‥。」
「文具店に売りに出された羽根ペンだって見たでしょう。さあ、確認に行きましょう。」

あらかじめ王都の2番街に宝石店のすべてに、手を回していた。
カシュー先輩は、文具店に売りに出されたという羽根ペンが、自分がニーナに贈ったものだということを確認しても、まだニーナを信じているようだった。
そこで、もう一度確認をするということで、宝石のついた髪飾りを、ニーナに贈って様子を見る事にしたのだ。
贈った翌日、ニーナを尾行すると、想定通りに宝石店に入って行く姿を見る事になった。

「宝石を買いにいったんだよ。きっと‥‥。」

自分に言い聞かせるように言うカシュー先輩を引っ張って、宝石店の裏口から、店の中に入った。
店内には既に衛兵も張り込んでいる。魔力が使用された事を判定する特殊技能持ちの騎士も待機していた。

ニーナが案内されたテーブルの傍には小窓があった。
小窓の向こう側は従業員の待機場所となっていたが、そこに、衛兵や騎士が詰めている。
既に室内には消音魔法が施されていた。

「きっと違う、きっと違う‥‥。」

ぶつぶついいながらカシュー先輩は促されて、小窓の向こうを覗き込んだ。
ニーナいるテーブルの上に乗せられたトレーの上に、宝石のついた髪飾りが置かれていた。さらに別のペンダントもある。

髪飾りはまさしく、カシュー先輩がニーナに贈ったものだった。特徴のあるデザインで、一点物の商品であることは、あらかじめカシュー先輩に説明してある。

「うう、嘘だ嘘だ‥‥。」

カシュー先輩が、小窓にしがみついた。
消音魔法はしてあるけど、小窓から動く影に気づかれるかもしれない。それに、衛兵達が様子を監視するのに邪魔となってしまうので、無理やり引きはがした。

「カシュー先輩。落ち着いてください。ちゃんと現実をみてくださいよ。」
「でも‥‥、でも‥‥。」

小窓の向こう側では、テーブルに書類をもった従業員の男性が到着した。
手袋をした手で髪飾りとペンダントを、一つずつ手にとり、丁寧に確認してから、書類に何か書き込んで、値段を記入した紙を、ニーナに差し出した。
ニーナは、少し身を乗り出して、従業員の手を両手で包んだ。
大きな胸を差し出すようにしながら上目遣いで従業員の男性を見上げた。
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