39 / 324
第2章
第38話 ファシナの媚石
しおりを挟む
「あの‥‥。」
俺は、ポケットから紙と炭筆を取り出して、書いた。
ーーーーあちらのテーブルの女性、何かしたかもしれません。担当を替えた方がいいかも。
従業員の女性‥‥名前まだ聞いてなかったな‥‥は、一瞬目を見開いて、それからちらりと、ピンクの巻き毛の女性がいるテーブルの方に目をやった。
見ると、店の奥から、先ほどの従業員が大きめの革袋を抱えて出て来ようとしているところだ。
「‥‥失礼いたします。」
従業員の女性が、立ち上がって、ささっと店の奥の方に向かって歩き出した。
「ロコさん、ちょっと急ぎで確認したいことがあるのですけど、今良いですか?」
「マーラ? い、今接客中で‥‥。ああ‥‥、うん‥‥。」
やや強引に店の奥の扉の向こうに、ロコさんが連れて行かれた。
そしてあまり待たないうちに、別の年配の女性従業員が出て来た。一瞬ちらりとこちらを見た。
穏やかな表情をしているけど、怖そうなタイプに見える。
年配の女性従業員は、ニコニコした微笑みを浮かべながらピンクの巻き毛の女性の元へと近づいた。
「お客様。大変失礼いたしました。従業員に急用が出来ましたので担当代わります。」
「え?あ、あの?」
ピンクの巻き毛の女性は、戸惑った様子だったが、女性従業員がさくさくと手続きを進めていく。
結局ピンクの巻き毛の女性の少し不満げな顔を見ると、増額はしなかったようだが、ネックレスは買い取られていったようだ。
ピンクの巻き毛の女性が、店を出てから、ジョセフィンが俺に言った。
「あれ、あのまま帰しちゃうんですね。衛兵でも呼ぶのかと思った。あの女性、何かしたんでしょう?」
「そうだよね。俺もそう思った。」
従業員の男性は顔を赤らめていた後、まだ価格交渉が終わっていない段階だったようなのに、お金が入っているらしい皮袋を持って来ようとしていた。
何か、魅了の類のようなことをされた可能性は高いと思った。
魅了は違法だ。もし魅了の魔道具か何かで魅了されていたなら買い取りもせずに、衛兵を呼んで逮捕させるのが普通だと思う。
「お客様、この度は、大変助かりました。私、主任のリシェルと申します。」
先ほどの年配の従業員の女性が、俺達のところにやって来た。
あのピンク巻き毛の女性は、確かに何かをしたらしい。ロコさんの様子が明らかにおかしいと判断して、リシェルさんが代わりに接客をした。
鑑定鏡を使って、ネックレスを見るときに、同時に、ピンク巻き毛の女性が身に付けている物も確認をした結果、違法ではないが、かなり怪しい物を身に付けていたようだ。
「ファシナの媚石? 違法物ではないけど、所有するのには許可が必要でしたよね。」
「おや、よくご存知ですね。」
リシェルさんが、糸のように細い眉を動かした。
「赤っぽい色の指輪をしてましたよね。それでしょう?」
ファシナの媚石は、媚薬の原料に使われるダンジョン産の鉱石だ。
魅了というよりも、催淫作用をもたらすと言われている。ファシナの媚石の石に触れさせて魔力を魔力を流せば、媚薬程ではないがそれなりに効力をもたらす。
ちりっとした感じがしたのは、あの瞬間に魔力を流したんだろう。
媚薬や媚石は、それ自体は違法とはされていないが、購入や所有は制限されているはずのものだった。
「今回は、買い取り後ではなかったことですし、店としてもトラブルを避けたかったのです。お客様もどうか、ご内密にお願いできませんでしょうか。」
リシェルさんはそう言うと、小さい革袋をテーブルの上に差し出した。
口止め料かな。
従業員が媚石を使われたということを、噂されたくないのかもしれない。
「口外するつもりはないですけど‥‥。そうですね、受け取っておきます。」
リシェルさんの目の圧にやられたわけではないが、口止め料を受け取っておいた方が店としても安心ならそれでいいだろうと思う。
結局、何も買わず、金貨だけを受け取って宝石店を後にすることになってしまった。
俺は、ポケットから紙と炭筆を取り出して、書いた。
ーーーーあちらのテーブルの女性、何かしたかもしれません。担当を替えた方がいいかも。
従業員の女性‥‥名前まだ聞いてなかったな‥‥は、一瞬目を見開いて、それからちらりと、ピンクの巻き毛の女性がいるテーブルの方に目をやった。
見ると、店の奥から、先ほどの従業員が大きめの革袋を抱えて出て来ようとしているところだ。
「‥‥失礼いたします。」
従業員の女性が、立ち上がって、ささっと店の奥の方に向かって歩き出した。
「ロコさん、ちょっと急ぎで確認したいことがあるのですけど、今良いですか?」
「マーラ? い、今接客中で‥‥。ああ‥‥、うん‥‥。」
やや強引に店の奥の扉の向こうに、ロコさんが連れて行かれた。
そしてあまり待たないうちに、別の年配の女性従業員が出て来た。一瞬ちらりとこちらを見た。
穏やかな表情をしているけど、怖そうなタイプに見える。
年配の女性従業員は、ニコニコした微笑みを浮かべながらピンクの巻き毛の女性の元へと近づいた。
「お客様。大変失礼いたしました。従業員に急用が出来ましたので担当代わります。」
「え?あ、あの?」
ピンクの巻き毛の女性は、戸惑った様子だったが、女性従業員がさくさくと手続きを進めていく。
結局ピンクの巻き毛の女性の少し不満げな顔を見ると、増額はしなかったようだが、ネックレスは買い取られていったようだ。
ピンクの巻き毛の女性が、店を出てから、ジョセフィンが俺に言った。
「あれ、あのまま帰しちゃうんですね。衛兵でも呼ぶのかと思った。あの女性、何かしたんでしょう?」
「そうだよね。俺もそう思った。」
従業員の男性は顔を赤らめていた後、まだ価格交渉が終わっていない段階だったようなのに、お金が入っているらしい皮袋を持って来ようとしていた。
何か、魅了の類のようなことをされた可能性は高いと思った。
魅了は違法だ。もし魅了の魔道具か何かで魅了されていたなら買い取りもせずに、衛兵を呼んで逮捕させるのが普通だと思う。
「お客様、この度は、大変助かりました。私、主任のリシェルと申します。」
先ほどの年配の従業員の女性が、俺達のところにやって来た。
あのピンク巻き毛の女性は、確かに何かをしたらしい。ロコさんの様子が明らかにおかしいと判断して、リシェルさんが代わりに接客をした。
鑑定鏡を使って、ネックレスを見るときに、同時に、ピンク巻き毛の女性が身に付けている物も確認をした結果、違法ではないが、かなり怪しい物を身に付けていたようだ。
「ファシナの媚石? 違法物ではないけど、所有するのには許可が必要でしたよね。」
「おや、よくご存知ですね。」
リシェルさんが、糸のように細い眉を動かした。
「赤っぽい色の指輪をしてましたよね。それでしょう?」
ファシナの媚石は、媚薬の原料に使われるダンジョン産の鉱石だ。
魅了というよりも、催淫作用をもたらすと言われている。ファシナの媚石の石に触れさせて魔力を魔力を流せば、媚薬程ではないがそれなりに効力をもたらす。
ちりっとした感じがしたのは、あの瞬間に魔力を流したんだろう。
媚薬や媚石は、それ自体は違法とはされていないが、購入や所有は制限されているはずのものだった。
「今回は、買い取り後ではなかったことですし、店としてもトラブルを避けたかったのです。お客様もどうか、ご内密にお願いできませんでしょうか。」
リシェルさんはそう言うと、小さい革袋をテーブルの上に差し出した。
口止め料かな。
従業員が媚石を使われたということを、噂されたくないのかもしれない。
「口外するつもりはないですけど‥‥。そうですね、受け取っておきます。」
リシェルさんの目の圧にやられたわけではないが、口止め料を受け取っておいた方が店としても安心ならそれでいいだろうと思う。
結局、何も買わず、金貨だけを受け取って宝石店を後にすることになってしまった。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
悪魔退治は異世界で
tksz
ファンタジー
タカシは霊や妖を見ることができるという異能を持っている。
いつものように退魔師の友人に同行して除霊に赴いたタカシ。
いつもと見え方が違う悪霊に違和感を持つが友人とともに除霊を行うが5体の霊たちに襲われる。
友人から託されていた短剣で3体の悪霊を切り伏せたが4体目を切った瞬間に反撃を食らってしまった。
意識を取り戻した時に見たのは病室に横たわる自分の姿。
そして導かれて訪れた花畑の中の東屋で会った神様に驚くべき真実が告げられる。
悪霊と思っていた霊は実は地球の人々の邪心と悪意が生み出した悪魔だった。
タカシが食らった反撃は呪いようなものであの悪魔を倒さないとタカシは助からない。
地球の時間で3日のうちに異世界パスロに逃げた悪魔を倒すために神様の加護をもらいタカシは異世界へと旅立つ。
地球から不当に召喚された人たちも守っり、神様の加護で無双できる力は持っているけど、それでは解決できない問題の方が多いよね。
本当の力、本当に強いって何だろう。
他のサイトでも公開中の作品です。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる