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第2章

第37話 転売人

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母は、魔獣をあまり触りたくないというので、とりあえず、保留だ。魔黄金虫はもちろんだが、魔ネズミも、近寄りたくないらしい。
魔鳥ならギリギリ何とかなりそうだけど、実験中は頻繁に触る事になるので、やり方が確立してからだな。

インクのついたペンを布で拭き、筆記具を片付けてから、ジョセフィンに預けていた手綱を受け取った。

「‥‥僕も召還練習します!」

少し考え込んでいたジョセフィンが、決意したようにキッと唇を引き結んだ。
ジョセフィンも報告だとかで使えれば役立つ場面が多そうだ。

「おう、便利だろ。」
「こういう計画があるなら魔黄金虫で遊んでいる時点で、教えてくださいよ!」
「実験だって言っていたじゃないか。」

わいわい言い合いながら馬を進める。次の休憩場所は多分何かテイムできそうな場所になるだろう。

王都に戻って来て、商会の居住部屋と、エルストベルク家の屋敷の両方に、ティムした魔獣を運び込んだら、最初微妙な顔をされたけど、目的を説明したらすんなり受け入れてもらえた。
王都の屋敷と商会との間でも実験と練習を繰り返す予定だ。
王都から戻る道では、馬に栄養ポーションを与えていたからか、予定より数日早めについたので、王都の街を、ジョセフィンと一緒にうろうろする。
市場調査を兼ねてるので、日によって、貴族服、庶民服と着替えて、色々な店に顔を出して見ている。

その日は、青を基調とした貴族用の服を着込んで2番街の貴族向けの店を覗いてみる事にした。

一軒目は宝石商に来てみた。
ドアマンが、予約が有るかを確認してくる。
特に予約が無いというと、入店可能かを一度店内に確認してくるという。

2番街は、1番街に比べると、普段遣いのような店が多い。
なので、今日は、どのお店にも予約なしで行ってみるつもりだ。
宝石店はドアに鍵がかかっているし、予約を推奨しているようだが、予約に空きがあれば入店できそうだ。

「お待たせいたしました。どうぞ。」

少しだけ待つと扉が開いて、店内にいた従業員が顔をのぞかせた。ドアマンが頷いて、扉を大きく開け、そういって俺とジョセフィンを店内に導いてくれた。

調度品が並ぶ店内にはテーブルがいくつか有り、接客は各テーブルで行われるようだ。一組だけ先客がいた。
ピンクゴールドの巻き毛をした女性が、従業員の男性と向かい合って座っていた。その横を通り過ぎるとき、テーブルの上に、見覚えの有るアクセサリーが並んでいるのが目に留まった。

真っ青な石を、シルバーで装飾したネックレス。

見間違いではないか、おもわずじっと見てしまった。
何しろ、つい最近、俺の商会で販売を開始したはずのネックレスだ。
俺がエルストベルクに帰省した際に、以前ダンジョンで採取して来た石を使って、工房でいくつかアクセサリーを作らせた。
王都に戻って来た時に商品として、商会で売り出したはずだ。工房の人が試しでデザインしたものだったのでどれも1点ものだった。

それがどうして、別の宝石店で売られているんだ?

宝石店の従業員が案内してくれたテーブルについても、どうしても気になって耳を澄ませてしまう。

「えー?もっと高くてもいいはずよぉ。」

女の声が響いた。売りに来ているのか。数日前に販売したものを? そんなに気に入らなかったの?

「見事なカットのブルーサファイヤです。デザインも美しいですので、これでも相場より勉強したお値段を提示させていただいておりますよ。」
「買ったばかりのものよぉ。それも考慮して欲しいわ。購入価格はもっと高かったはずよ。」
「然様でございますか‥‥。失礼ながら、このような素敵なネックレスを何故お売りになりたいのでしょうか。」

買ったばかり、と聞いて、従業員も、何故売ろうとしているのか気になったようだ。そうだよな。下手すると窃盗品の可能性もあるし。

「高く売れると思ったからよぉ。お金が必要なの。」
「然様でございますか。」
「ねえ‥‥‥。お願い。もう少し高くならない?」

女の声が甘くなる。ちらりと見ると、かなり少し身を乗り出して、従業員の両手を掴んでいた。ボリュームの有る胸を近づけている。

「‥‥んん‥‥コホン。そうはおっしゃられてもですね。ああ‥‥ちょっと失礼いたしますね。」

従業員の男性は、そういうと立ち上がった。少し顔が赤い。

俺が、別のテーブルに注目していたからか、俺達を担当している従業員の女性から声がかかった。

「何か、お気になる物がございましたか?」
「ああ‥‥。うん。」

従業員の女性の方に向き直った時、むわっと首に嫌な空気を感じた。殺気とかじゃないけど、植物系の魔物の近くを通った時に感じる雰囲気に近い。
まあ、辺境の森で感じるほどでは全然ないけど。
あの女性が何かやった?
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