自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹

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第7章

第344話 騒動の後

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笑い合っていたら、何だか厳しい視線を感じた。振り向いてみたらサミュエル君、ニコラちゃん、ミリーちゃんが立っていた。
目に一杯涙を溜めて、僕達を睨んでくる。

「え?ど、どうしたの?」
ラルフ君が話しかけると、キッと顔を上げてサミュエル君が言った。

「姉上が婚約破棄されたのがそんなに面白いかよ?」
「え?そんなわけないでしょ。」

そうか、サミュエル君はエッダ嬢の弟さんだった。お姉さんが目の前で婚約破棄の宣言なんてされたらショックだよね。
ニコラちゃんとミリーちゃんも半べそ状態だ。

「クラウス様はどうしてあんな酷いことをするのかしら。」
「エッダお姉様は何も悪くないのに‥‥。」

しくしくと泣いている令嬢二人と、半泣きで怒っている令息一人を目の前して戸惑ってしまった。

こういう時はどうしたらいいんだろう。温かい飲み物でも渡す?
あ、ハンカチかな。

僕はマジック財布の中に手を突っ込んだ。確かハンカチは常備していたはず!マジック財布から取り出してみたら、立派な木箱入りのハンカチが出て来た。
平べったい木の箱の中に、綺麗に折り畳んだハンカチが4枚並んで入っている。

「あ、あの!これで涙拭いて!」
僕が、木箱を三人に差し出すと、三人の目線が木箱で固まった。

「‥‥え?」
サミュエル君が視線を木箱から上げて僕を不思議そうに見た。

「あの、ハンカチ、どうぞ。」
「あ、どうも。」

サミュエル君が手を木箱に手を伸ばしてハンカチを一つ手にとった。良かった!受け取ってもらえた。
ニコラちゃんとミリーちゃんにも順番に差し出した。二人もちょっと戸惑ったような不思議そうな顔をしてハンカチを手にした。

「‥‥ぷ。ソーマ君。装飾の入った木箱入りって。用意良過ぎ。」
ギルベルト君が吹き出した。

「え?箱入りダメだった?」
「ダメじゃない、とは思うけど‥‥。」

クスクスとラルフ君とロルフ君も笑っている。ラオウル君は笑っていないけど、ちょっと困ったような顔をしていた。

「‥‥多分‥‥こういうところで差し出すには木箱が立派すぎるんじゃないのか‥‥?」
「そうなの?」

ハンカチが入っていた木箱は確か、植物の柄が彫られていて綺麗な箱だった。だめなの?ボロボロより失礼はないと思うけどな。ハンカチは縁に葉っぱの模様が白い糸で刺繍されたものだ。シンプルだけど、そんなに変な物じゃないよ?

「だって三人泣いてたら、ハンカチはまとめて差し出すしかなくない?」
「うん。間違ってはいないんだ。」

ラルフ君が言うと、今度はサミュエル君が「ふ」と笑いだした。
俯きながらハンカチで顔を擦っているけど、口元が何だか笑っている。

「‥‥こんなときに何で笑ってるんだよって腹立ったのに、僕まで笑っちゃったじゃないか。」

ニコラちゃんとミリーちゃんもハンカチで目元を拭いているけど、もう涙は止まったみたいだ。なんだか口角が上がっている。
ラルフ君が、少し身を屈めてサミュエル君の顔を覗き込んだ。

「まずは落ち着こう?お祭りをメチャクチャになったままだと、さっきの人達がお祭りをぶち壊したってことになるんだよ。君の姉君も含めてね。」

ラルフ君の言葉にサミュエル君が目を見開いて眉を吊り上げた。

「‥‥!姉上は悪くないのに!」
「悪くなくても騒ぎの中心になっちゃってたでしょ。貴族の間で噂に成っちゃうよ。ここって結構沢山貴族の人達がいるんだし。」
「‥‥。」

サミュエル君の瞳が揺れた。ラルフ君が続けた。

「さっきの事は、もう起きてしまったから、多少は噂になっちゃうかもしれないけど。更に『騒いで貴族も集まるイベントを中止にさせせた』なんて事までくっつくと大変だよ。
ギルドマスターが用意した猪魔獣のお肉だとか、領主夫人が提供したお酒だとかさ、全部無駄にした中心人物にしたい?」
「‥‥う‥‥。」

サミュエル君がプルプルと首を横に振った。ニコラちゃんとミリーちゃんも顔を見合わせている。

「だからさ。」
ロルフ君がポンとサミュエル君の肩に手を置いた

「嫌な事が有って、もう楽しむ気分じゃなくなったのは判るけど、ちょっと落ち着こうね。他の人にも楽しむなっていうのは違うと思うよ。
‥‥姉君の心配するならさ、姉君のところに行った方がいいんじゃない?」
「あ!」

サミュエル君はハッとして、広場の出入り口付近に目をやった。

「姉上はどこへ‥‥。」
「サミュエル!エッダお姉様を探しに行きましょう!」
「そうだわ!追いかけなくちゃ。」

ニコラちゃんとミリーちゃんが、サミュエル君の腕を掴んだ。
そして去り際に僕にハンカチのお礼を言ってバタバタと駆けて行ってしまった。
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