自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹

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第7章

第343話 気を取り直し

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「やめろよ!二人とも!カイル、落ち着け!」
両手を広げてカイルさんを阻止しようとするイーサンさんをカイルさんが睨みつけた。

「イーサン!こんな奴の味方するのかよ!」
「落ち着けってば。」

イーサンさんにも殴り掛かりそうな勢いのカイルさんに、レナードさんが近付いて行って、ちょっとのんびりした声をかけた。

「イーサンに賛成~。皆見てるぜ~。やばくねぇ?クラウスもカイルも。」

はっとして、周囲を見回すカイルさん。殴られた頬の辺りに手を触れながらふてくされた様子でいるクラウスさん。
一瞬の間の後、エッダ嬢が「わっ」っと泣きながら広場から駆け出した。

「エッダ嬢!」

カイルさんがはっとしてエッダ嬢が走り去って行くのを目で追った。

「はぁ~。そういうことかよ!」

クラウスさんが立ち上がった。そして、前に立ちはだかるイーサンさんを押しのけて、カイルさんの胸ぐらを掴んだ。

「カイル、お前、エッダに気があるんじゃないのか?」
「っ‥‥!なんだと?」
カイルさんが動揺した様子で顔を赤らめた。

「はっ!偉そうに説教して実は他人の婚約者を狙ってるなんて笑える!」
「はぁぁ!? 決めつけて変な事言ってるんじゃねえよ!」

カイルさんもクラウスさんの胸ぐらを掴み返した。至近距離で睨み合っているところに、煙と灰が降り掛かった。誰かが風魔法で、肉を焼いていた所から吹き付けたみたいだ。

「!!?? ケホッ!」
「コホッ‥‥。‥‥な!?」

咳き込みながら周囲を見回した二人は騎士達に取り囲まれていた。

「お前達、場所を考えろ。」
「こんな場所で騒がれては迷惑なんだよ。別の場所でお話しようか。」

クラウスさんとカイルさんが、騎士達に首根っこを掴まれて、広場から連れ出されて行った。
後に残った広場は、ザワザワと落ち着きない様子。見回すと、貴族の婦人達が集まっている辺りで、母様が村長らしき人と話をしているのが見えた。
村長が母様に深々と頭を下げた後、他の人達に何か指示を出した。

カランカランカラン

肉を配っていた辺りから、ベルを激しくならす音が響いて来た。村長らしき人が大きな声で言った。

「エルストベルク領主夫人であるエマ・エルストベルク様から、追加のお肉とお酒のご提供の申し出がありました~!お酒は酔い過ぎないように節度を持って祭りの続きを楽しんでください~。」
わあっと歓声が上がった。気を取り直して楽しめってことなのかな。

音楽隊も演奏を再開し、祭りの賑やかな雰囲気に戻って行った。

「ひゃ~。びっくりしたねぇ。」
「まさかこんな所で婚約破棄とか聞くと思わなかったよ。」
「気分変えて、これ飲んでみない?美味しいらしいよ。」

ラルフ君とロルフ君が、大きな水差しのような物とグラスを持って来てくれた。
冷たい温泉水にちょっと柑橘系のシロップを混ぜたものらしい。飲んでみたら、炭酸だった。サイダーだ、これ。

「わ。美味しい!」
「シュワシュワ。」

追加の肉の提供もあって、お肉が村の人にもう行き渡ったみたいなので、僕達も猪魔獣の串焼きを食べ始めた。

「お肉とシュワシュワが合う。」
猪魔獣の肉は味付けは塩がほんの少し振ってあるだけだけど、ジューシーで臭みがない。
油っぽくなる口の中を、冷えたサイダーで洗い流すとサッパリして至福だ。

「はふ。外で食べると何だか余計美味しく感じるよね。」
「確かに。」

焼きたての串焼きを、皆で頬張った。確かにこういう所で食べると余計に美味しく感じる。
夢中で食べた後、最後にまたサイダーを飲んでスッキリ。ふぅーとギルベルト君が息を吐いた。

「凄い盛り沢山な日だよ。湖畔でピクニックからのレイクサーペントでしょ。更にお祭り、婚約破棄、串焼き!」
「お祭りと串焼きはセットじゃない?でも気持ちは判る。」

ロルフ君が、サイダーをもう一口飲んで笑った。

「ピクニックとお祭りは、まあ判るけど。レイクサーペントと婚約破棄が非日常すぎない?」
「いや、婚約破棄は過去に何度か見かけたような。」
「じゃあ、一位はレイクサーペント!」
「僕的には楽しかった順が良いよ。一位、ピクニック。二位、串焼きとか。」
「食べることばっかりになってるよ。」

アハハと笑い合う。
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