自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹

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第7章

第338話 湖畔でピクニック

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酒場の中からは何人かの人達がガリオンさんに向かって「頼んだぞ」なんて声をかけていた。

「こっちの村の方が冒険者が多いのに、アタムスンの方にギルドの支部を作るの?」
「まあ、そういう話になっているな。」

ガリオンさんは特に理由を応えずに、ちょっと肩を竦めた。それから僕達の顔を見回して言った。

「今日はユガーランに宿を取るつもりか? こっちの宿は冒険者向けだぞ。」
「あ、湖見ようと思って遊びに来ただけです。宿はアタムスンのままで。」
「なるほど。楽しめよ!よい一日を!」

ガリオンさんはそう言って、白い歯をキラリと光らせて笑った後、通りを歩いて行った。
ガリオンさんの後ろ姿を見送ってから、僕達はお互い相談するように顔を見合わせた。

「そろそろ湖の畔に行こうか。」
「賛成!」

冒険者ギルド窓口の前を通り過ぎた先に、湖が有る方角に抜ける小道があった。小さい案内板が出ていたんだ。
ダンジョンに行くにもその道を通って行くらしい。
小道を抜けると、湖が見渡せる場所に出た。そこから左に進むとダンジョンに向かうらしくて、右に進むと、ピクニックができそうな湖畔がある。

僕達は迷わず右に進んだ。
左に進む道は、冒険者っぽい格好をした人が何人も歩いていた。湖畔に進む右の道には誰もいない。
日の光を反射してキラキラと光る湖面を眺めて歩きながらラルフ君が言った。

「こっちは冒険者の村で、アタムスンは貴族の保養地みたいになっていて全然雰囲気違うね。
湖綺麗だから、こっちにも貴族向けの施設とか作っても良さそうなのに。」
「ダンジョンがあるからじゃない?」
「だね。魔獣溢れとかあったら、ヤバいから貴族の保養地には向かないのか。」
「それは仕方ないかもね。」

ダンジョンの魔獣溢れはもう起きないと思うけど。プニョン君が張り切ってたから、ダンジョンの規模はもうちょっと大きくなるもしれない。
そうなるとやっぱりこっちの村には冒険者が更に集まってくるかもしれないよね。

「冒険者ギルドの支部をユガーランじゃなくて、アタムスンの方に作るのはなんでなんだろうね。」
ギルベルト君が言うと、ラルフ君とロルフ君がシンクロした動作で肩を竦めた。
「アタムスンの発展に力を入れようとしてるからじゃない?」
「誰が?」
「誰がって、領主様がだよ。」
「あ、父様か。‥‥母様が希望したのかも‥‥。」
「かもね。」

ガリオンさんがギルド支部の場所の事について応えなかったのって、「領主が」とは言えなかったからなのかな。
うわぁ。僕から母様に言った方がいいのかな。
状況だけ報告したら、考えてくれるかな。

「まあ、でも領主だけで決めるんじゃなくて、冒険者ギルドの本部と話し合ったりするんだと思うよ。」
「まあ、そうか。」

冒険者が多い方にギルド支部を作った方が良さそうに思ったけど、ギルド窓口はあるんだし普段はそれで用は足りてるのかもしれない。
必要ならユガーランにもギルド支部を作る事を、冒険者ギルド本部が検討するんだろう。
まあ、あまり考えても仕方ないか。

湖の畔の、広い場所に出た。ちょっとごつごつした小石が多い。ホカペを敷いただけだと、小石のでこぼこがきになっちゃうかな。
ちょっと考えて、厚めの敷き布の上にシーサーペントのホカペを敷いた上に、クッションをいくつかだして並べた。
真ん中のは、お弁当が入ったバスケット。湯沸かしセット。水は湖から汲んで来ようかと思ったけど、水質の確認とかをする手間もあるので
ひとまずはマジック財布に入れておいた水瓶の水を使う。
カップを並べて、ポットに茶葉を入れてってやっていたら、ラルフ君達が意外そうな顔をした。

「野営っぽくするのかと思った。」
「ピクニックだから。」
「お茶淹れる手際良いね。」
「そーお?」

手順とかは結構適当なんだ。カップにお茶を注いだら、リヒャルトさんとインゴさんがカップを配ってくれた。
ヒュゥと吹いて来た風で、敷いていた布がはためいた。ちょっと風除けしておこう。
ホカペの周辺に風魔法で外からの風を遮断した。

「はぁ~。ゆったり~。温かいし。」
足下のシーサーペントのホットカーペットを手で撫でて、ギルベルト君が和やかに微笑んだ。

「ね。景色良いところで、暖まりながらお茶とお弁当。いいよねぇ。」
紅茶を一口飲み、ロルフ君が湖の方を見やってホゥッと息を吐いた。
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