自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹

文字の大きさ
上 下
191 / 466
第5章

第191話 さらば王都よ

しおりを挟む
「ソーマ、これ‥‥凄いね‥‥。」

王都からエルストベルクに戻るその日、王都を出発してから、王都郊外にあるスタツィオン村に立ち寄った。
スタツィオン村には、以前スタンビートの被害に遭い、崩壊していた村を、新たに再建したときに、エルストベルク家の施設が作られていた。
大きな魔道具の実験をしたり、騎士の訓練に使用しているんだ。

そこで用意した別の馬車に乗り換える。
馬車の見た目は、あまり変わらないけど、御者席に密かにハンドルやら、ハンドブレーキがある。馬車の内部の席は浮遊魔法を使って浮いた状態となっていて、
揺れや振動をほとんど感じない構造だ。それに重さが軽減される。
馬をつないで一周。馬車が軽いからか、さくさくと進む。

その後一度止まってから、御者席で、御者がスイッチを押すと、ふわっと、馬の足下に微かに蒸気のような物があがった。
馬達は、浮遊魔法で地面から浮かされた状態になる。馬が混乱して暴れないように沈静の魔法がかかり、更に拘束魔法で動かないようになっている。

そのまま、御者が、ハンドル操作をして進むと、馬が浮いたまま馬車が進む。
馬が動かない状態で、馬車が進み半周。
そこから、御者が、別のボタンを押した。幻影で馬が走っているように見えるようになる。
傍目から見ると、全く普通に馬が馬車を引いているように見える状態で半周。
でも馬の足音が聞こえないから、凄く不思議な感じになる。
今度は、別のスイッチを押す。もう一度走り出すと、馬の足音が響く。
そのままスピードアップ。
「馬を乗せたまま」まるで、普通の馬車が走るように、馬車が進むのだ。しかも速度はトップスピードが可能。

普通の馬車だと馬を休ませながら進むので、一日にあまり距離を進める事ができないけれど、これなら、御者が交代すれば、ずっと走っていられる。
まあ、馬もストレスが溜まるしずっと乗せているだけでも疲れるだろうから、普通に走らせたり、夜は休ませるとかした方がいいと思うけど。

叔父様は、馬が浮いてそのまま馬車が走り出した辺りから、なんか呆れたような顔になった。
そして幻影と音で、馬が馬車を引いているように見えるようになったのを見て、笑い出した。

「ソーマ。ふふっ‥‥。すばらしいね。ふふ‥‥。ずっとこの状態で走って馬が大丈夫なのかが気になるけど‥‥。」
「幻影があるから、眠らせちゃってもいいと思うけど。」
「もはや馬車じゃないね。」

叔父様は笑いながら僕をハグした。

「替え馬で乗り継いで飛ばしていく位には早く移動できそうだね。3日‥‥。馬の様子を見ながら進めた方がいいから、5日位かな。それでもかなり短縮だね。」

辺境伯一家の移動なので、騎馬の騎士もいるんだけど、騎馬用の馬も、交代で浮遊させて、進む。
馬車は、何台も連なって移動するけど、荷物は、マジックバックに入っていて、運ぶのは人と馬だけ。

「ちょっと!これ、私も乗りたいんだけど!」

見送りに来た姉様が言う。

「アリサは王都に残るでしょう。」

母様が、冷ややかに言った。

「う、そうだけど。揺れないとかお尻に響かないとか、すごくよさそう。しかもシート自体、フカフカじゃない!」

止まっている馬車に乗り込んで、シートの座り心地を確認してきた姉様が、頬を膨らませた。

「マーリエも乗る~」

マーリエが、兄様に馬車に乗せてもらって、座席の上で、きゃっきゃとはしゃいでいる。

ぽふっと、父様の大きな手が、僕の頭に乗っかった。

「ソーマ。ありがとう。」

ぽふぽふ。頭を撫でられた。頬がちょっと熱くなる。

「えへへ。」

自動車も普及させる準備を密かに進めているから、この「馬車もどき君」は自動車が広まるまでかもしれないけど、役に立つなら嬉しいな。

叔父様や姉様が王都から移動できるように、一台は、スタツィオン村に預けておくことにした。

「ソーマ、これなら、ソーマにすぐ会いに行けるね。」

叔父様は、ひょいと僕を抱え上げて馬車に乗せてくれた。

「何かあったらすぐ呼んでね。」

左腕を上げて通話の魔道具を見せて言う。僕は、うん、と頷いた。叔父様と離れちゃうの寂しいな。

準備の時間がなかったので、馬車は全部ウーニャンに作ってもらって、エルスト商会でも作れるように構造とか魔法陣を叔父様に伝えた。
叔父様は、僕がどうやって用意したか、聞かないんだよね。
僕が何か見せてもビックリはするけど、面白がって喜んでくれる。

「にゃーん」

プティが、ピョンと馬車に乗り込んだ。叔父様はプティの頭を撫でた。

「プティ。ソーマを頼むね。お願い。」
「にゃーん」

(神力が上がったにゃ)
プティは、嬉しそうにグルグルと喉を鳴らした。

叔父様と姉様に見送られて馬車が走り出した。
馬車から身を乗り出して、二人の姿が見えなくなるまで、僕は手を振った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

世界樹を暴走させたマッドサイエンティスト、死刑だけは嫌だとごねる!

アメノヒセカイ
ファンタジー
カクヨムにも掲載しております。 これは世界樹の花粉を浴びて老いることがなくなったラメッタと、捨て子として騎士団に拾われ生きてきたクレーエンが、一国の英雄となり、ともに生きると決めるまでの物語である! <語句> エアデ王国:クレーエン、ラメッタが住んでいた国。 バオム国:エアデ王国の従属国。魔王軍との前線を仕切る。資源がほとんどなく、魔王軍と戦うことでエアデ王国から支援を受けている。治安が悪い。 世界樹:人々に魔法を授けている。ラメッタが研究のために魔法薬をかけてから、魔法が大幅に弱体化してしまった。 ラメッタ:見た目は子供、中身は七十八才。老いることはない。魔法薬や魔道具の開発をする。己の好奇心を満たすためだけに世界樹に魔法薬をかけたとして死刑判決が出るのだが……。なお、魔王軍と戦うことで処刑が延期される約束を国王らとしている。 クレーエン:捨て子ゆえに騎士団に拾われて育てられたものの騎士団に正式に加入できず、しかしその強さゆえに騎士団の仕事を何度も手伝っていた。自身のことを強さから騎士団で面倒を見るしかない人間と考え、厄介者であると思っているが……。 バオム国の三姫:国王である父が前線に出ているため、三人で統治しているがほぼ機能していない。 長女ディーレ、次女ベリッヒ、三女チルカ。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...