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第5章
第181話 逃走
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「おい、御前!」
不意に声がかかった。
顔を上げると、路地の角に僕よりちょっと年上くらいの感じの男の子が立っていて、こちらを見ていた。
ぼさぼさした灰色の髪。鋭い眼光。
「‥‥。」
何か言ってくるのかな、と思って待ってみた。
男の子が近づいて来た。濃いグレーの瞳が、じっと、僕と僕が抱えているプティの方に動いた。
「‥‥転んだのか?」
血が出ている僕の膝小僧を見て言った。僕は、頷いた。
「見せてみ?」
男の子は、僕の傍まで来て、しゃがみ込んだ。
プティがするりと、僕の腕をすり抜けて降りて、僕の隣りに並んだ。
男の子は、腰にぶら下げていたバッグから布と革製の水筒らしきものを取り出した。
「砂とか石とか落としておいたほうがいいぜ。‥‥これ、水な。」
布を水で濡らして、ポンポンと僕の膝小僧の傷の上を、そっと、砂を払い落とすようにした。
ちょっと痛くて、ぴくんと肩を震わせてしまった。
掌の砂も同じように落としてくれる。
プティは隣りで心配そうに見上げていた。
男の子は左手だけ手袋をつけていた。手袋と服の袖の隙間から、紫色になった皮膚が見えた。
僕の目線に気づいたのか、男の子はさっと、左手を後ろに隠した。
「‥‥応急処置はこのくらいしかできないけど‥‥、後でちゃんと傷口洗っておけよ。」
「ありがとう‥‥。あの、僕ソーマ。この子はプティ。」
「ラオウルだ。こっちこそ、さっきは助かった。」
「え?」
何言ってるんだ?と思ってたら、路地の奥の方から人の声と足音が響いて来た。
「いたか!?」
「あっちじゃねえか?」
「捜せ!!」
ラオウル君は、声がした方をちらりと見て舌打ちをした。
「やべぇ。逃げるぞ。御前も逃げた方がいい。なんか悪い連中なんだ!」
「え?」
ラオウル君が僕の腕を掴んだ。僕はもう一方の手で、プティを抱えた。
声がする方と逆方向に走り出す。
迷路のような路地をいくつか曲がって、物陰に隠れてしゃがみ込んだ。
「巻き込んで悪かったな。表通りまで連れて行くから、そしたら一人で逃げな。」
息を弾ませながら、ラオウル君が言う。
「‥‥悪い人に追われてる?」
そのくらいしか、理解できない。
「ああ。ちょっと面倒な連中なんだ。さっき、捕まりそうになった時、御前が‥‥ソーマが間に飛び込んで来たから、なんとか逃げれた。
だけど、それで、ソーマも俺の仲間だと思われているかもしれない。‥‥そうじゃなくても、小さい子を攫うくらいはしそうだった。」
さっき? 路地を曲がった時に、人が沢山いたような気がしたけど、その時かな。
どんな人がいたのか全然覚えてないけど。
意識すると、あちこちに飛ばしている偵察君が、走り回っている人達を検知しているのが分かった。映像は見れないけど、大体の位置が把握できる。
一人二人、こちらの方に近づいて来ている。
「近くに来てるみたい。」
「うん?」
ラオウル君は、僕が見た方向に、振り向いた。耳を澄ますようにして、それから僕の方に向き直った。
「走るぞ。」
「うん。」
近づいてくる人達と反対方向に走り出した。
表通りに出た方がいいみたいだったから、偵察君で検知して、誘導してもらって表通りを目指した。
不意に声がかかった。
顔を上げると、路地の角に僕よりちょっと年上くらいの感じの男の子が立っていて、こちらを見ていた。
ぼさぼさした灰色の髪。鋭い眼光。
「‥‥。」
何か言ってくるのかな、と思って待ってみた。
男の子が近づいて来た。濃いグレーの瞳が、じっと、僕と僕が抱えているプティの方に動いた。
「‥‥転んだのか?」
血が出ている僕の膝小僧を見て言った。僕は、頷いた。
「見せてみ?」
男の子は、僕の傍まで来て、しゃがみ込んだ。
プティがするりと、僕の腕をすり抜けて降りて、僕の隣りに並んだ。
男の子は、腰にぶら下げていたバッグから布と革製の水筒らしきものを取り出した。
「砂とか石とか落としておいたほうがいいぜ。‥‥これ、水な。」
布を水で濡らして、ポンポンと僕の膝小僧の傷の上を、そっと、砂を払い落とすようにした。
ちょっと痛くて、ぴくんと肩を震わせてしまった。
掌の砂も同じように落としてくれる。
プティは隣りで心配そうに見上げていた。
男の子は左手だけ手袋をつけていた。手袋と服の袖の隙間から、紫色になった皮膚が見えた。
僕の目線に気づいたのか、男の子はさっと、左手を後ろに隠した。
「‥‥応急処置はこのくらいしかできないけど‥‥、後でちゃんと傷口洗っておけよ。」
「ありがとう‥‥。あの、僕ソーマ。この子はプティ。」
「ラオウルだ。こっちこそ、さっきは助かった。」
「え?」
何言ってるんだ?と思ってたら、路地の奥の方から人の声と足音が響いて来た。
「いたか!?」
「あっちじゃねえか?」
「捜せ!!」
ラオウル君は、声がした方をちらりと見て舌打ちをした。
「やべぇ。逃げるぞ。御前も逃げた方がいい。なんか悪い連中なんだ!」
「え?」
ラオウル君が僕の腕を掴んだ。僕はもう一方の手で、プティを抱えた。
声がする方と逆方向に走り出す。
迷路のような路地をいくつか曲がって、物陰に隠れてしゃがみ込んだ。
「巻き込んで悪かったな。表通りまで連れて行くから、そしたら一人で逃げな。」
息を弾ませながら、ラオウル君が言う。
「‥‥悪い人に追われてる?」
そのくらいしか、理解できない。
「ああ。ちょっと面倒な連中なんだ。さっき、捕まりそうになった時、御前が‥‥ソーマが間に飛び込んで来たから、なんとか逃げれた。
だけど、それで、ソーマも俺の仲間だと思われているかもしれない。‥‥そうじゃなくても、小さい子を攫うくらいはしそうだった。」
さっき? 路地を曲がった時に、人が沢山いたような気がしたけど、その時かな。
どんな人がいたのか全然覚えてないけど。
意識すると、あちこちに飛ばしている偵察君が、走り回っている人達を検知しているのが分かった。映像は見れないけど、大体の位置が把握できる。
一人二人、こちらの方に近づいて来ている。
「近くに来てるみたい。」
「うん?」
ラオウル君は、僕が見た方向に、振り向いた。耳を澄ますようにして、それから僕の方に向き直った。
「走るぞ。」
「うん。」
近づいてくる人達と反対方向に走り出した。
表通りに出た方がいいみたいだったから、偵察君で検知して、誘導してもらって表通りを目指した。
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