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第5章

第180話 グルグルグル

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「え?」

ミラ嬢は兄様を見ていた視線を、ちらりと僕の方に動かした。

「あ」

兄様は僕の方を見て、「しまった」という顔をした。あ、僕お邪魔?

その時、今朝、アリサ姉様に言われた事を思い出した。

『そろそろ兄様を頼らないようにしないと、ご負担になってしまうわよ。もう兄様離れしなさいな。』

兄様のお邪魔になってる‥‥。兄様のご負担になってる‥‥?

ふと、前世で、両親を失い親戚の間をたらい回しにされていた頃の記憶が蘇った。
家計が大変。お荷物。穀潰し。負担。御前がいなければ‥。色々言われ、目立たないように小さくおとなしくしていても、お手伝いをしていても、
やっぱり迷惑そうな顔をされて、少しすると別の親戚のところに連れて行かれた‥‥。最後は、施設に入った。

僕はその時と同じなの?兄様にもご負担なの?

僕が兄様といると、兄様はミラ嬢と二人でお祭りも大市も回る事ができないんだ。

僕、ご負担なんだ‥‥。ううん。ご負担になっちゃいけないんだ‥‥。

僕はぎゅっと両手の拳を握りしめた。唇を引き結ぶ。思い切って顔を上げて兄様を見た。

「兄様!僕の事は気にしないで、ミラ嬢と回ってください!」
「ソーマ?」
「僕!ご負担になりませんから!」
「ちょっ‥‥!ソーマ!」

兄様の手が僕の方に伸びて来たけど、僕は踵を返して走り出した。
兄様のご負担になっちゃいけない。
兄様のご負担になっちゃいけない。

親戚達みたいに迷惑そうな顔で兄様に見られたくない。

人と人の間をすり抜けて、闇雲に走った。道路横断すると、馬が騒いだり何か怒鳴り声のような声が聞こえた気がする。
でも、立ち止まらない。兄様のご負担になっちゃいけないんだから。

どこに向かっているか自分でもわからないけど、目についた路地に、適当に入って行った。

路地の角を曲がったら、何か人が沢山いた。でも急には停まれないから、間をすり抜けて行く。何か騒いでる声が後ろから聞こえて来たけど
ぶつかってないよ!
そのまま駆けていって、目についた路地を曲がって曲がって、めちゃくちゃに走った。

「あぅ!」

何かに躓いて転んだ。路地は、石畳が崩れているところが多い。割れた石畳に膝を打ち付けて、血が流れた。
地面についた両手も痛い。

「痛い‥‥、痛いよう‥‥。」

立ち上がろうとしたけど、僕、どこに向かってるんだっけ?
行くとこあるんだっけ?

「痛いよう‥‥。」

どうしたらいいかわからなくなって、蹲ってしまった。
涙が出てくる。

グルグルグル‥‥
微かな音とともに、柔らかい感触が足に触れた。フワフワしていて、表面がひんやり。

「ぷてぃ‥‥。」

プティが、いつの間にか傍に来て、そっと寄り添ってきてくれた。

(颯真にゃん。泣かないでにゃん。大好きにゃん。)
「ぷてぃ‥‥。」

ぐいっと頭を押し付けてきたプティ。僕は袖で涙を拭いて、プティを抱っこした。
グルグルグル‥‥。
響いてくる、プティが喉を鳴らす振動が心地よい。

「プティ、僕、兄様のご負担になりたくないんだ。」
(ケニーにゃんは、颯真にゃんのこと大好きにゃんよ)
「うん。僕も兄様大好き。プティも大好き‥‥。」
(プティも颯真にゃんのこと、大好きにゃん)
「うん‥‥。」

グルグルグル‥‥。
ふわふわ柔らかくて暖かい、少しの重み。喉をならす音を聞いていたら少しずつ落ち着いて来た。
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