180 / 466
第5章
第180話 グルグルグル
しおりを挟む
「え?」
ミラ嬢は兄様を見ていた視線を、ちらりと僕の方に動かした。
「あ」
兄様は僕の方を見て、「しまった」という顔をした。あ、僕お邪魔?
その時、今朝、アリサ姉様に言われた事を思い出した。
『そろそろ兄様を頼らないようにしないと、ご負担になってしまうわよ。もう兄様離れしなさいな。』
兄様のお邪魔になってる‥‥。兄様のご負担になってる‥‥?
ふと、前世で、両親を失い親戚の間をたらい回しにされていた頃の記憶が蘇った。
家計が大変。お荷物。穀潰し。負担。御前がいなければ‥。色々言われ、目立たないように小さくおとなしくしていても、お手伝いをしていても、
やっぱり迷惑そうな顔をされて、少しすると別の親戚のところに連れて行かれた‥‥。最後は、施設に入った。
僕はその時と同じなの?兄様にもご負担なの?
僕が兄様といると、兄様はミラ嬢と二人でお祭りも大市も回る事ができないんだ。
僕、ご負担なんだ‥‥。ううん。ご負担になっちゃいけないんだ‥‥。
僕はぎゅっと両手の拳を握りしめた。唇を引き結ぶ。思い切って顔を上げて兄様を見た。
「兄様!僕の事は気にしないで、ミラ嬢と回ってください!」
「ソーマ?」
「僕!ご負担になりませんから!」
「ちょっ‥‥!ソーマ!」
兄様の手が僕の方に伸びて来たけど、僕は踵を返して走り出した。
兄様のご負担になっちゃいけない。
兄様のご負担になっちゃいけない。
親戚達みたいに迷惑そうな顔で兄様に見られたくない。
人と人の間をすり抜けて、闇雲に走った。道路横断すると、馬が騒いだり何か怒鳴り声のような声が聞こえた気がする。
でも、立ち止まらない。兄様のご負担になっちゃいけないんだから。
どこに向かっているか自分でもわからないけど、目についた路地に、適当に入って行った。
路地の角を曲がったら、何か人が沢山いた。でも急には停まれないから、間をすり抜けて行く。何か騒いでる声が後ろから聞こえて来たけど
ぶつかってないよ!
そのまま駆けていって、目についた路地を曲がって曲がって、めちゃくちゃに走った。
「あぅ!」
何かに躓いて転んだ。路地は、石畳が崩れているところが多い。割れた石畳に膝を打ち付けて、血が流れた。
地面についた両手も痛い。
「痛い‥‥、痛いよう‥‥。」
立ち上がろうとしたけど、僕、どこに向かってるんだっけ?
行くとこあるんだっけ?
「痛いよう‥‥。」
どうしたらいいかわからなくなって、蹲ってしまった。
涙が出てくる。
グルグルグル‥‥
微かな音とともに、柔らかい感触が足に触れた。フワフワしていて、表面がひんやり。
「ぷてぃ‥‥。」
プティが、いつの間にか傍に来て、そっと寄り添ってきてくれた。
(颯真にゃん。泣かないでにゃん。大好きにゃん。)
「ぷてぃ‥‥。」
ぐいっと頭を押し付けてきたプティ。僕は袖で涙を拭いて、プティを抱っこした。
グルグルグル‥‥。
響いてくる、プティが喉を鳴らす振動が心地よい。
「プティ、僕、兄様のご負担になりたくないんだ。」
(ケニーにゃんは、颯真にゃんのこと大好きにゃんよ)
「うん。僕も兄様大好き。プティも大好き‥‥。」
(プティも颯真にゃんのこと、大好きにゃん)
「うん‥‥。」
グルグルグル‥‥。
ふわふわ柔らかくて暖かい、少しの重み。喉をならす音を聞いていたら少しずつ落ち着いて来た。
ミラ嬢は兄様を見ていた視線を、ちらりと僕の方に動かした。
「あ」
兄様は僕の方を見て、「しまった」という顔をした。あ、僕お邪魔?
その時、今朝、アリサ姉様に言われた事を思い出した。
『そろそろ兄様を頼らないようにしないと、ご負担になってしまうわよ。もう兄様離れしなさいな。』
兄様のお邪魔になってる‥‥。兄様のご負担になってる‥‥?
ふと、前世で、両親を失い親戚の間をたらい回しにされていた頃の記憶が蘇った。
家計が大変。お荷物。穀潰し。負担。御前がいなければ‥。色々言われ、目立たないように小さくおとなしくしていても、お手伝いをしていても、
やっぱり迷惑そうな顔をされて、少しすると別の親戚のところに連れて行かれた‥‥。最後は、施設に入った。
僕はその時と同じなの?兄様にもご負担なの?
僕が兄様といると、兄様はミラ嬢と二人でお祭りも大市も回る事ができないんだ。
僕、ご負担なんだ‥‥。ううん。ご負担になっちゃいけないんだ‥‥。
僕はぎゅっと両手の拳を握りしめた。唇を引き結ぶ。思い切って顔を上げて兄様を見た。
「兄様!僕の事は気にしないで、ミラ嬢と回ってください!」
「ソーマ?」
「僕!ご負担になりませんから!」
「ちょっ‥‥!ソーマ!」
兄様の手が僕の方に伸びて来たけど、僕は踵を返して走り出した。
兄様のご負担になっちゃいけない。
兄様のご負担になっちゃいけない。
親戚達みたいに迷惑そうな顔で兄様に見られたくない。
人と人の間をすり抜けて、闇雲に走った。道路横断すると、馬が騒いだり何か怒鳴り声のような声が聞こえた気がする。
でも、立ち止まらない。兄様のご負担になっちゃいけないんだから。
どこに向かっているか自分でもわからないけど、目についた路地に、適当に入って行った。
路地の角を曲がったら、何か人が沢山いた。でも急には停まれないから、間をすり抜けて行く。何か騒いでる声が後ろから聞こえて来たけど
ぶつかってないよ!
そのまま駆けていって、目についた路地を曲がって曲がって、めちゃくちゃに走った。
「あぅ!」
何かに躓いて転んだ。路地は、石畳が崩れているところが多い。割れた石畳に膝を打ち付けて、血が流れた。
地面についた両手も痛い。
「痛い‥‥、痛いよう‥‥。」
立ち上がろうとしたけど、僕、どこに向かってるんだっけ?
行くとこあるんだっけ?
「痛いよう‥‥。」
どうしたらいいかわからなくなって、蹲ってしまった。
涙が出てくる。
グルグルグル‥‥
微かな音とともに、柔らかい感触が足に触れた。フワフワしていて、表面がひんやり。
「ぷてぃ‥‥。」
プティが、いつの間にか傍に来て、そっと寄り添ってきてくれた。
(颯真にゃん。泣かないでにゃん。大好きにゃん。)
「ぷてぃ‥‥。」
ぐいっと頭を押し付けてきたプティ。僕は袖で涙を拭いて、プティを抱っこした。
グルグルグル‥‥。
響いてくる、プティが喉を鳴らす振動が心地よい。
「プティ、僕、兄様のご負担になりたくないんだ。」
(ケニーにゃんは、颯真にゃんのこと大好きにゃんよ)
「うん。僕も兄様大好き。プティも大好き‥‥。」
(プティも颯真にゃんのこと、大好きにゃん)
「うん‥‥。」
グルグルグル‥‥。
ふわふわ柔らかくて暖かい、少しの重み。喉をならす音を聞いていたら少しずつ落ち着いて来た。
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
元おっさんは異世界を楽しむ
たまゆら
ファンタジー
不慮の事故によって死んだ須藤ナイト(45)は16歳に若返って新たな世界に転移する。
早々に人狼の幼女達と出会ったナイトは、とりあえず幼女の村で世話をしてもらうことになる。
と、思いきや、幼女の村に強大なモンスターが襲撃してきて……。
そんなドタバタな始まりを迎えるも、元おっさんの異世界生活は順調です!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
テイマーは死霊術師じゃありませんっ!
さんごさん
ファンタジー
異世界に転生することになった。
なんか「徳ポイント」的なのが貯まったらしい。
ついては好きなチートスキルがもらえるというので、もふもふに憧れて「テイム」のスキルをもらうことにした。
転生と言っても赤ちゃんになるわけではなく、神様が創った新しい肉体をもらうことに。いざ転生してみると、真っ暗な場所に歩く骸骨が!
ひぃぃい!「テイム!テイム!テイム!」
なんで骸骨ばっかり!「テイム!テイムテイム!」
私は歩く。カタカタカタ。
振り返ると五十体のスケルトンが私に従ってついてくる。
どうしてこうなった!?
6/26一章完結しました
この作品は、『三上珊瑚』名義で小説家になろうにも投稿しています
幼馴染みが婚約者になった
名無しの夜
ファンタジー
聖王なくして人類に勝利なし。魔族が驚異を振るう世界においてそう噂される最強の個人。そんな男が修める国の第三王子として生まれたアロスは王家の血筋が絶えないよう、王子であることを隠して過ごしていたが、そんなアロスにある日聖王妃より勅命が下る。その内容は幼馴染みの二人を妻にめとり子供を生ませろというもの。幼馴染みで親友の二人を妻にしろと言われ戸惑うアロス。一方、アロスが当の第三王子であることを知らない幼馴染みの二人は手柄を立てて聖王妃の命令を取り消してもらおうと、アロスを連れて旅に出る決心を固める。
【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~
次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」
前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。
軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。
しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!?
雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける!
登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
【完結】猫化の呪い持ちを隠して嫁がされたのに何故か溺愛されています!
長船凪
恋愛
ヴィルシュテッター帝国、ゼーネフェルダ子爵家の長女にとして生まれたエリアナ・ド・ゼーネフェルダ。
満月の晩に獣に変身する(猫耳に尻尾を持つ姿)呪い持ちの子爵令嬢。
旦那様は竜族の血を引子孫のゴードヘルフ・ラ・クリストロ小公爵。
そこに嫁ぎ、子を産むと早死にすると世間では恐れられていた。
今の公爵夫人は再婚で二人目。
呪い持ちを隠して輿入れさせられたのは、父が事業に失敗したあげく、カジノで起死回生を狙うも失敗し、借金が増えた為。
そんな中、不意に届けられた竜族の血を引く一族の末裔、クリストロフ公爵家からの子爵家への求婚状。
何故か子爵家の令嬢なら誰でも良いような書き方で、しかし結婚支度金が多く、金に目が眩んだ子爵は即、娘を売り飛ばすことにした。
しかし、満月の夜にケモ耳っ娘に変身する呪い持ちのエリアナだったが、実はある特殊な権能があった。その権能はデメリットつきではあるが、夢の中の図書館にて異世界の記録、物語、知識等を得られるものであった。
*カクヨム等で先行投稿しています。
召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました
桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。
召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。
転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。
それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる