自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹

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第4章

第150話 瞳の色の腕輪

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そして今、僕らは一つの馬車に乗っている。
成績を争うっていうのだから、別行動をするのかと思ったんだけど、そもそも冒険者ギルドが用意した馬車は一つだけだったらしくて4頭立ての一つ馬車の中に2チームが詰め込まれている。
ちゃんと定員内らしくて、ギュウギュウとかではないんだけど、中の空気がピリピリしていて気まずい。

馬車の中は、王子チーム、オリーヴィアさんチーム、見習い冒険者チームという感じで固まっていた。
見習い冒険者の参加者の中には、ギュンター君もいた。

ラルフ君達と冒険者パーティを解散して、誘拐事件後に会って以来らしくて、ちょっと気まずそうだ。
他に居たのは、ベルンハルト君という赤毛の男の子と、最初来た時に王子チームに引っ張られていた銀髪のギルベルト君だ。
別チームに別れたけど、お兄さんお姉さんの争いに巻き込まれちゃった者同士、一体感がある。
お互い災難だねって言うのが共通認識にあるんだけど、同じ馬車の中なので、愚痴を言うと、聞こえちゃうので当たり障りのない会話を選んでいる。

「久しぶりだな。‥‥冒険者活動してたか?」

ギュンター君が、遠慮がちにラルフ君達に言った。

「僕ら、しばらくお休みしてたんだ。活動再開しようとしたら、ギルドの人に育成サポート企画があるって案内されてさ。ギュンター君は?」
「俺も似たようなもんだよ。少し前から活動再開したけど、一人だと受けられる依頼があまりなくて。ギルドの人にいい企画が有るとか言われて。」

冒険者ギルドの職員って、確か、彼らの家柄を知って専任の受付をつけたんじゃなかったっけ。
それでこの企画ってことは、分かってて貴族同士で組み合わせてるんだよね。

ベルンハルト君が、装備の点検をして、革の篭手を身に付けたり、剣帯をつけ直したりしている。

「なあ、その剣、格好いいね。」

ラルフ君が、ベルンハルト君の剣を見ていった。
ラルフ君達は短剣を身に付けているんだけど、ベルンハルト君の剣は、大人の冒険者がもつような剣だ。
見習い冒険者は、通常は王都の外に出ないから、大きな剣を持っているのはめずらしいようだ。

「ああ、これ。」

ベルンハルト君は腰に差している剣に目をやって、嬉しそうに笑った。

「ちちう‥‥、父さんにもらったんだ。誕生日プレゼントで。」

「へえ、いいね。僕も誕生日プレゼントにリクエストしようかな。次の誕生日で12歳。正規冒険者だし。」

ラルフ君がそういうとロルフ君も僕も僕もと手を挙げた。

「‥‥。」

ギルベルト君は、さっきから黙って俯いている。
左手首を右手で覆っているのを、ベルンハルト君が見て言った。

「ギルベルト、その腕輪、君の瞳と同じ色なんだね。」
「わ、本当だ!綺麗な色じゃん!」

ラルフ君達も覗き込む。

「な、なんだよ!」

ギルベルト君は左手を抱え込むようにして隠した。

「こ、子供っぽいだろ。瞳の色の贈り物って。」
「そんな事ないよ。いい色だしデザインも格好いいよ。もっと見せてよ。」

子供の健康と成長を祈って瞳の色の品を贈る週間からか、瞳の色の物を贈られるのは子供、という考えもあるらしい。
それで一定の年齢以上になると贈られなくなり、成人前後くらいから、今度は恋人から瞳の色のものを贈られるようになるんだって。
ギルベルト君はちょっとむくれた顔をしながら、渋々と言った様子で左腕を出した。緑がかった青い腕輪だ。見覚えがあるな。

「いいじゃん。プレゼント?」
「うん、まあ。父さんから‥‥。」

ギルベルト君の頬がちょっと赤くなった。

「‥‥誕生日の前日まで仕事で遠くに行っていてさ。当日の朝に戻って来たと思ったら、これ渡してきて、そのまままた仕事で遠くにいっちゃったんだ。
何が欲しいとか、リクエストする暇もなかったよ。」

「そっかー。でも、忙しいのに、わざわざ準備して渡してくれたんでしょ。いいお父さんじゃん。」
「‥‥まあ‥‥。俺も剣とかがよかったけど‥‥。忙しいのわかってるし‥‥。」

ギルベルト君は、腕輪のプレゼント、あまり喜んでなかったんかな。
でも、ちゃんと身に付けているし。嫌だというわけではないんだよね。
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