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第4章
第137話 初コール
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もうそろそろ夏が終わり秋の気配を感じさせる肌寒い空気の中、規則正しい手拍子が響いているその場所だけ、少し空気が暑かった。
「はい、そこでターン。はい、もう一度。」
向かい合ってダンスを踊る兄様と姉様の額に汗がキラキラと輝いている。くるりとターンをしたときに、兄様の目が一瞬、僕の方を見た。
ターンをして止まって、シュタイン先生が「はい、もう一度」と言ったタイミングで、兄様がシュタイン先生の方に向き直って言った。
「シュタイン先生、お時間のようです。」
「え、もうそんな時間。でも、今ちょうどステップが上手く行ったところだし、もう少しだけ‥‥。」
「申し訳有りません。次の予定が。」
「あらぁ、じゃあ、しょうがないわねぇ」
腕組みをしていたシュタイン先生が、人差し指を頬に当て、首を傾げた。兄様と姉様の目線に気がついて、僕の方を振り返った。
「あらぁ、ソーマちゃん。ダンスに来たの?」
「こんにちは、シュタイン先生。僕は兄様達をお迎えにきたんです。」
「そお?貴方ももっとレッスンにいらっしゃい。」
「僕、今のペースで十分です‥‥。」
学園の入学を控えた兄様は、週3回ダンスのレッスンを受けている。ダンスのパートナー役として、姉様も一緒にレッスンを受けている。
僕は妹のマーリエと一緒に週1回くらい。学園入学はだいぶ先だし、まだ受けなくていいかなーと思っていたんだけど、
ちょうど兄様のレッスンの為に先生が来てくれているし、王都にいる間に受けておいた方がいいってことになって、週に一度だけ受ける事になったんだ。
パートナー役は姉様がやるのかなと思ったら、マーリエもやりたいと言い出したので、結局マーリエとレッスンを受ける事になった。
マーリエはかなりダンスのレッスンが気に入ったみたいだから、エルストベルク領に戻っても、ダンスの先生が雇えたら、ダンスレッスンが続くかもしれない。
‥‥そういえば、いつまで王都にいることになるのかな。
王都は賑やかで楽しいけど、辺境ものびのびできて好きなんだよね。
移動に時間がかかるから、気軽に行き来できないから何ヶ月か王都に滞在して、父様が領に帰るタイミングで一緒に帰るのかな、と思っている。
領地にいるお祖父様とお祖母様に会いたいなぁ。こっそり行っちゃだめかなぁ。
でも、今日はお話しが出来る予定なんだ。
「ソーマ、嬉しそうだね。」
廊下を一緒に歩いていた兄様が僕の顔を覗き込んだ。
「だって、お祖父様、お祖母様とお話し出来ると思ったら嬉しくって。」
僕がニコニコしながら応えると、隣で姉様が、冷めた口調で言った。
「すぐ成功するかわからないんでしょう?あまり期待してるとがっかりしちゃうかもしれないわよ。」
「きっと大丈夫だよ。」
エルストベルクに基地局の魔道具と、通信の魔道具が運ばれ、今日は初めて、向こうからこちらに接続をしてくる予定なんだ。
昨日現地に機材が到着したのは、鷹便というやつで連絡がきている。
設置作業をして、今日のお昼に記念すべき最初のコールがされる予定。
最初は、作業する人が、ちゃんと通話が出来ることを確認できてから、家族みんなを呼ぶって話だったんだけど、
皆、エルストベルクとの記念すべき最初の遠隔通話を見届けたいっていうことになって、皆で父様の執務室に向かっているんだ。
こっそり、現地の様子は確認してみたら、設置は特に問題なくできたみたいだったから、上手く行くと思っている。
通信の魔道具の使い方は、王都から機材を運んで行ったエルスト商会の技師さんが、レクチャーしてくれているはずだ。
父様の執務室のドアをノックして、部屋に入ると、既に父様、母様、叔父様、マーリエがいた。
父様は、執務机の上に置いた通信の魔道具の目の前に座っていて既に待機中だ。
叔父様は、その傍に立っている。
母様はマーリエと並んでソファーに座っている。
「そろったな。」
父様が僕達を見て、満足そうに頷いた。壁にかかった時計の時刻は、約束の時間の10分前だった。
室内には、僕達家族の他に、エルスト商会の技師さんとかもいて緊張した様子で立っていた。
姉様はマーリエの隣りに座り、僕と兄様は別のソファーに隣り合って腰を下ろした。
「なんだかドキドキするわね。」
母様が、ワクワクした様子で言った。
「ねえ、本当におじいちゃま、おばあちゃまとおはなしができるの?」
マーリエは、周囲をキョロキョロと見回して、それから母様の顔を見上げ、不思議そうにしている。
「そうよ、楽しみね。」
母様がにっこり笑って、マーリエの髪を撫でた。
姉様は、何か言いたげな表情をしていたが、母様が楽しそうだったからか、特に何も言わなかった。
「はい、そこでターン。はい、もう一度。」
向かい合ってダンスを踊る兄様と姉様の額に汗がキラキラと輝いている。くるりとターンをしたときに、兄様の目が一瞬、僕の方を見た。
ターンをして止まって、シュタイン先生が「はい、もう一度」と言ったタイミングで、兄様がシュタイン先生の方に向き直って言った。
「シュタイン先生、お時間のようです。」
「え、もうそんな時間。でも、今ちょうどステップが上手く行ったところだし、もう少しだけ‥‥。」
「申し訳有りません。次の予定が。」
「あらぁ、じゃあ、しょうがないわねぇ」
腕組みをしていたシュタイン先生が、人差し指を頬に当て、首を傾げた。兄様と姉様の目線に気がついて、僕の方を振り返った。
「あらぁ、ソーマちゃん。ダンスに来たの?」
「こんにちは、シュタイン先生。僕は兄様達をお迎えにきたんです。」
「そお?貴方ももっとレッスンにいらっしゃい。」
「僕、今のペースで十分です‥‥。」
学園の入学を控えた兄様は、週3回ダンスのレッスンを受けている。ダンスのパートナー役として、姉様も一緒にレッスンを受けている。
僕は妹のマーリエと一緒に週1回くらい。学園入学はだいぶ先だし、まだ受けなくていいかなーと思っていたんだけど、
ちょうど兄様のレッスンの為に先生が来てくれているし、王都にいる間に受けておいた方がいいってことになって、週に一度だけ受ける事になったんだ。
パートナー役は姉様がやるのかなと思ったら、マーリエもやりたいと言い出したので、結局マーリエとレッスンを受ける事になった。
マーリエはかなりダンスのレッスンが気に入ったみたいだから、エルストベルク領に戻っても、ダンスの先生が雇えたら、ダンスレッスンが続くかもしれない。
‥‥そういえば、いつまで王都にいることになるのかな。
王都は賑やかで楽しいけど、辺境ものびのびできて好きなんだよね。
移動に時間がかかるから、気軽に行き来できないから何ヶ月か王都に滞在して、父様が領に帰るタイミングで一緒に帰るのかな、と思っている。
領地にいるお祖父様とお祖母様に会いたいなぁ。こっそり行っちゃだめかなぁ。
でも、今日はお話しが出来る予定なんだ。
「ソーマ、嬉しそうだね。」
廊下を一緒に歩いていた兄様が僕の顔を覗き込んだ。
「だって、お祖父様、お祖母様とお話し出来ると思ったら嬉しくって。」
僕がニコニコしながら応えると、隣で姉様が、冷めた口調で言った。
「すぐ成功するかわからないんでしょう?あまり期待してるとがっかりしちゃうかもしれないわよ。」
「きっと大丈夫だよ。」
エルストベルクに基地局の魔道具と、通信の魔道具が運ばれ、今日は初めて、向こうからこちらに接続をしてくる予定なんだ。
昨日現地に機材が到着したのは、鷹便というやつで連絡がきている。
設置作業をして、今日のお昼に記念すべき最初のコールがされる予定。
最初は、作業する人が、ちゃんと通話が出来ることを確認できてから、家族みんなを呼ぶって話だったんだけど、
皆、エルストベルクとの記念すべき最初の遠隔通話を見届けたいっていうことになって、皆で父様の執務室に向かっているんだ。
こっそり、現地の様子は確認してみたら、設置は特に問題なくできたみたいだったから、上手く行くと思っている。
通信の魔道具の使い方は、王都から機材を運んで行ったエルスト商会の技師さんが、レクチャーしてくれているはずだ。
父様の執務室のドアをノックして、部屋に入ると、既に父様、母様、叔父様、マーリエがいた。
父様は、執務机の上に置いた通信の魔道具の目の前に座っていて既に待機中だ。
叔父様は、その傍に立っている。
母様はマーリエと並んでソファーに座っている。
「そろったな。」
父様が僕達を見て、満足そうに頷いた。壁にかかった時計の時刻は、約束の時間の10分前だった。
室内には、僕達家族の他に、エルスト商会の技師さんとかもいて緊張した様子で立っていた。
姉様はマーリエの隣りに座り、僕と兄様は別のソファーに隣り合って腰を下ろした。
「なんだかドキドキするわね。」
母様が、ワクワクした様子で言った。
「ねえ、本当におじいちゃま、おばあちゃまとおはなしができるの?」
マーリエは、周囲をキョロキョロと見回して、それから母様の顔を見上げ、不思議そうにしている。
「そうよ、楽しみね。」
母様がにっこり笑って、マーリエの髪を撫でた。
姉様は、何か言いたげな表情をしていたが、母様が楽しそうだったからか、特に何も言わなかった。
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