自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹

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第4章

第132話 スゴルー

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無事用事を終えて、帰ろうと、3階の商談室から、一階のロビーに降りて来たら、大きな慌ただしい声がロビーに響いた。

「急いでいるんだ!『スゴルー』とか言う物を売ってほしい」
「『スゴルー』‥‥でございますか?それはどのような物でしょうか。」
「この店に有ると聞いたのだ!」
「大変申し訳ございませんが、当商会では『スゴルー』と名のつく商品は取り扱っておりません。」
「何だと!」

そおっと、階段の壁の陰から除くと、背が高くでガタイのよい騎士姿の男性が、受付の前に立っていた。ひげ面で、オールバックにした青銀色の髪を後ろに束ねている。
腰に大きな剣を差していて、今すぐにでも戦いに行きそうな雰囲気だ。なんだろう、武器でも探しにきたんだろうか。
覗いていたら、騎士姿の男性と目があってしまった。灰色の瞳がパッと見開かれた。

「そこの子供!」
「ひゃぁ!」

いきなりこちらに向って声をかけて来た。見つかっちゃった。隠密モードにしておけばよかった。
いや、ここ叔父様の商会だよね。危険はないよね?

「君だ!君!」

騎士姿の男性が僕に向って一歩踏み出してくる。なんか目がギラギラしていて怖いんですけど。
どうしよう。知らない人、だよね。
すっと僕の前に人影が出て来た。大きな背中に隠される。
あ、護衛のリヒャルトさんだ。商会まで連れて来てくれて、1階で待ってくれていたんだった。
少しタイミング遅れて、もう一人の護衛のインゴさんも、僕の前に立った。

「うん?君達は‥‥。」

騎士姿の男性の声が聞こえる。でも二人の陰になっているから見えない。

「坊ちゃまに何か御用でしょうか。」

リヒャルトさんが、騎士姿の男性に向って言った。

「‥‥。失礼した。」

騎士姿の男性の声のトーンが弱くなった。

「私は、ヴィルヘルム・アイヴリンガー。子供向けの商品を買いに来ていて‥‥、そこのご令息ならその商品について何か知っているのではないかと思って
つい声をかけてしまったのだ。驚かせて申し訳なかった。」
「アイヴリンガー‥侯爵家の方でしたか‥‥。申し訳ございませんが、商品の事については、商会の従業員の方にお尋ねいただけますか?」

アイヴリンガー侯爵家の人か。当主の人の名前とは違った気がする。侯爵令息、なのかな。
僕はまだ、一部の貴族家当主の人の名前くらいまでしか覚えてないんだよね。次期当主かどうかとか知っておかないといけないよね。ちゃんと勉強しないとなぁ。

リヒャルトさんがちらりと、受付の方に顔を向けた。
受付の方から、駆け足が聞こえる。僕の視界には二人の後ろ姿しか見えないけど。

「お客様。こちらで承りいたします!」
「しかし、『スゴルー』を知らんと言っていたではないか。」
「違う商品名で登録されているのかもしれません。念のため探してみますので、どのようなものか特徴を言っていただけますか。
どうぞこちらに御座り下さい。」

従業員の人の言葉の後、足音が遠ざかって行く。足音がしなくなって、騎士姿の男性と従業員の人が、戻ったのを確認したくらいのタイミングでリヒャルトさんが、ゆっくりとこちらに向き直った。

「ソーマ様。ここはマーカス様のお店の中ではございますが、1階は、色々な方が来られるのです。
部屋をお出になる場合は、3階までお呼び下さい。」
「はぁい」

リヒャルトさん達は最初は商談室の前に立って護衛するって言ってくれていたんだけど、今日は僕に合わせて平民っぽい格好をしていたから
他の商談室に来るお客さんの目があるので、一階で待ってもらっていたんだ。

僕が後で街中も歩き回りたいから、街歩き用の格好にしていたんだよね。

ヴィルヘルムさんと従業員の人の声が、1階のフロアに響く。

「子供に人気と聞いたのだ!」
「ぬいぐるみでしょうか。絵本でしょうか。」
「知らん!」
「それでは、このお人形はいかがでしょうか。なんと、まぶたを閉じることができるのです。」
「男の子向けなのだ。」

「然様でしたか。それでは、こちらのパズルはいかがでしょうか。人気ですよ。」
「それが『スゴルー』なのか?」
「『スゴルー』という商品名ではございませんが、パスルができあがると『スゴスギルー』と言われるでしょう。これの事かもしれません。」
「‥‥『スゴルー』とは違うのではないか?」
「『スゴルー』という商品はございませんので、おそらく正式名ではなく使用された方が呼ばれた名前ではと推測いたします。
こちら騎士の物語の絵本などいかがでしょうか。すべての絵に着色がされておりまして、『スバラシスギルー』と呼ばれるでしょう。これの事かもしれません。」

「‥‥さすがにそれは違うんじゃないか?」
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