自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹

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第8話 エルスト商会

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大通りを目指して歩きながらプティ神のことを考える。

プティ神がいるってことは、ここは、僕がつくったゲームの中なんだろうか。

だから、時々既視感があるのかな。でも、全然見覚えがない建物とかも多いんだよね。

もう一度、公園に行って柱を触ってみようと、決意しながら、大通りにある、大きなお店の前で立ち止まった。

大きな扉の前に、護衛らしき人が立っている。

兄様が、首に下げていた、紋章付きのペンダントを、その人に見せた。護衛の人はお辞儀をして、扉をあけた。

扉につけられていた鈴の音が響いた。

「いらっしゃいませ」

背の高い若い女性が出迎えてくれた。お店の中の人は、制服のようにそろえてはいないけど、みんな似た感じの紺色の服を着ていた。

「ケニー・エルストベルクです。叔父の、マーカスはいますか?」

兄様がもう一度紋章を見せながら言った。

「ケニー様、ソーマ様、ようこそいらっしゃいました。商会長から本日ご来店されることを伺っております。ただ、申し訳ございません。生憎、商会長が急な用事で不在となっております」

受け付けてくれた女性は、申し訳なさそうに眉を下げ、謝罪をした。

ここは、叔父様が経営しているエルスト商会の王都の店舗で、今日は僕たちがお店に行ったら案内してくれるっていっていたんだ。

叔父様も朝からご機嫌で、僕たちを待っていたらしいんだけど、ついさっき、お客様から、急に呼び出されて出かけたんだって。

叔父様は、後日にしてほしいって断ったんだけど、なんだか偉いお客様だったらしい。

「商会長からは、おもてなしをするように申しつかっております。ご案内いたします。どうぞこちらへ」

受付してくれた女性、ユリアさんが、叔父様の代わりに案内をしてくれるようだ。

お店は三階建てで、一階は、アクセサリーやポーションなどが置いてあり、二階に魔道具とかがある。

2階には僕が、手伝って作った温風の魔道具が、目立つ位置に、展示してあった。今一番人気なんだって。

フロアの天井の端っこには、黒っぽい水晶がぶら下がっているのが見える。あれは、警備用の録画の魔道具、監視カメラだね。

お湯を沸かす魔道具とか、文字を書いた紙をいれると書かれた内容を他の紙に転写してくれる魔道具とか、
旅行に行ったときに下着だけ洗ってくれる持ち運び用の魔道具とか、色々あった。

一通り説明を受けたら、三階の部屋に行った。

三階は、商談用のスペースだそうで、いくつかの部屋にわかれていた。

そのうちの一室に案内されて、長椅子に並んで座り、果実水を出してもらった。この長椅子、クッションがふかふかだ。さすが王都だね。

イチゴっぽい味の果実水。美味しい。

ユリアさんは、もう一度、叔父様が不在なことについて謝罪をしてきた。店内を案内しているうちに、叔父様が戻ってきたら、と思っていたけれど、まだ戻ってこないと。

「また来ますから、気にしないでください」

兄様も果実水を一口飲んでから、ユリアさんに微笑みかけた。

テーブルの上には、つやつやしていて丈夫そうな布の上に、筆記具が並べられていた。

兄様が学園に入学した時用に、筆記具をみせてもらっていたのだ。

インク壷にペン先をつけなくても、中にインクがはいっていて文字がかけるペンとかが並んでいる。

僕の前にも、赤と青のくれよんっぽいものが2本と、試し書き用の紙が置いてあった。

どちらも新作なんだって。僕も万年筆っぽいのを使ってみたいと思ったんだけど

クレヨンっぽいものの発色も気になるので、使ってみよう。

青いのを手に取って、紙にちょこっと丸を書いてみた。

ちょっと紙に引っかかるざらざらとした感触があった。紙のせいもあるかもしれないけど、予想よりちょっと固い書きごこちだった。

クレヨンというより、色鉛筆に砂が混じっているような感じ。

「もっと滑らかだといいな‥」

思わずぼそっとつぶやいてしまうと、ユリアさんの表情が固まった。

あれ、なにかまずいことをいっちゃったかな。

「‥‥大変貴重なご意見をありがとうございます。商会長にお伝えいたしますね」

ユリアさんは、すぐに表情をにこやかにして、何かメモしていた。

兄様も筆記具を試し書きして、感想を伝えたりしていたら、階下からなんだか騒がしい声が聞こえてきた。

もしかして叔父様が戻ってきたのかなと思って、僕は立ち上がって部屋を飛び出した。

「あ、ソーマ!」

兄様が後ろで何か言っている声を聞きながら階段を下りかけると、なんだか怒鳴り声がした。

知らない声だ。叔父様じゃなかったみたい。
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