291 / 305
第32章 瑛太11
第290話 凍った葡萄
しおりを挟む
コホンと、柄舟さんが咳払いをした。
「国境付近で保護した中でも、柊はスマホ持ってたじゃないか。石倉ちゃんは持ってなかったとしても、一人位は持ってるかもしれないじゃないか。」
「だからって、どうして行こうと思うんですか?」
暫くの間黙って話を聞いていた尾市さんが柄舟さんと江角さんの顔を見つめた。不機嫌そうに言う。
「この村へと出発した日に、やつらの心配やら世話やらは止めたんだと思ってました。」
確かにそうだ。江角さんと柄舟さんは、頼りにされていたみたいだったのを振り切ってこっちに来たんだったよな。
柄舟さんが頷いた。
「他の召還者を見つけて,救い出す活動をすることは止めたよ。。
それにビーチの言う通り、自分で選んだ人生を生きたいって置いて来ちゃった時点で、もうかれらの心配だとか世話焼きとかは止めたね。
まあ、でも同郷の奴らだろ‥‥。
家族と連絡が取れるって凄く重要なことじゃないか。この世界に連れて来られた時点でもう不可能かと思ってたのにさ。
だから、もしかしてスマホの充電さえ出来れば家族と連絡が取れるかもしれないのに、知らん振りしていて良いのかって思っちゃってさ。」
「‥‥お人好しなんだよ。もう。」
緒方さんがブツブツと言った。それから、大きく溜め息をついてから、テーブルに両手をついて、ぐっと江角さんと柄舟さんの顔を覗き込んだ。
「なあ、止めた方が良いよ。やっぱり無理があると思うぜ。気持ちはわからなくもないけどさ。
全員がスマホを持っていないかもって、椎名が言ったのを聞いて気がついたよ。
彼らは彼らなりに落ち着いて生活をしているかもしれないのにさ。
そこに、家族と連絡が取れるやつと取れないやつが出て来ちゃうってことだぜ。
少なくとも石倉ちゃんはスマホを持ってなかったよな。
仲良く助け合って生活してたところが、ぎくしゃくするかもしれないじゃないか。
それとな。もし一度連絡がとれたとして、それで満足すると思うか? 彼らも、彼らの家族もさ。充電切れました。それっきりですって。」
緒方さんが俺の方をチラリと見た。
「瑛太のソーラーバッテリー寄越せとか言い出すかもしれないぞ。」
緒方さんの言葉に俺はギョッとした。
「寄越せって‥‥、まさか‥‥。」
「そうじゃなきゃ定期的に充電できるようにしろって言ってくるんじゃないか?
だって、諦めると思うか?充電すれば家族と連絡がとれるなんて知ったらさ。」
「‥‥。」
緒方さんの言葉を聞いて、俺はブルっと身震いした。
一瞬、圭が遺してくれていたソーラーモバイルバッテリーに、群がってくる人々を想像してしまった。
まさか‥‥、とは思いつつ、全くあり得ないとも言えない。
「エイター!」
動揺していた俺に、ケイン君が話しかけて来た。何か差し出して来ている。
「‥‥ケイン君、どうしたの?」
「はい!」
ケイン君が差し出した小さい手を広げると、紫色の丸い実が出て来た。葡萄だ。巨峰と断言してよいのかわからないけど、巨峰っぽい大きい実だった。
「え?俺にくれるの?」
「ん!」
おままごとみたいなやりとりだな、と思いつつ、手を出すと、ケイン君が俺の手の上に葡萄の実を置いた。
冷んやりとした感触があった。
「え?冷たい?」
葡萄を指で摘んでみるとカチカチに凍っていた。
「凍ってる!」
「ん!」
ケイン君が満足そうに頷いた。
「ありがとう。」
俺はケイン君にお礼を言うと、皮をむいて凍った実を口の中に含んだ。冷えた甘味が心地よい。
「懐かしい。子供の頃、良く凍った葡萄を食べたなぁ。」
圭の家に遊びに行くと、圭が時々おやつに凍らせた葡萄を出してくれたのを思い出した。最初の一粒を、今のケイン君みたいに差し出してくれた光景が頭をよぎった。
「国境付近で保護した中でも、柊はスマホ持ってたじゃないか。石倉ちゃんは持ってなかったとしても、一人位は持ってるかもしれないじゃないか。」
「だからって、どうして行こうと思うんですか?」
暫くの間黙って話を聞いていた尾市さんが柄舟さんと江角さんの顔を見つめた。不機嫌そうに言う。
「この村へと出発した日に、やつらの心配やら世話やらは止めたんだと思ってました。」
確かにそうだ。江角さんと柄舟さんは、頼りにされていたみたいだったのを振り切ってこっちに来たんだったよな。
柄舟さんが頷いた。
「他の召還者を見つけて,救い出す活動をすることは止めたよ。。
それにビーチの言う通り、自分で選んだ人生を生きたいって置いて来ちゃった時点で、もうかれらの心配だとか世話焼きとかは止めたね。
まあ、でも同郷の奴らだろ‥‥。
家族と連絡が取れるって凄く重要なことじゃないか。この世界に連れて来られた時点でもう不可能かと思ってたのにさ。
だから、もしかしてスマホの充電さえ出来れば家族と連絡が取れるかもしれないのに、知らん振りしていて良いのかって思っちゃってさ。」
「‥‥お人好しなんだよ。もう。」
緒方さんがブツブツと言った。それから、大きく溜め息をついてから、テーブルに両手をついて、ぐっと江角さんと柄舟さんの顔を覗き込んだ。
「なあ、止めた方が良いよ。やっぱり無理があると思うぜ。気持ちはわからなくもないけどさ。
全員がスマホを持っていないかもって、椎名が言ったのを聞いて気がついたよ。
彼らは彼らなりに落ち着いて生活をしているかもしれないのにさ。
そこに、家族と連絡が取れるやつと取れないやつが出て来ちゃうってことだぜ。
少なくとも石倉ちゃんはスマホを持ってなかったよな。
仲良く助け合って生活してたところが、ぎくしゃくするかもしれないじゃないか。
それとな。もし一度連絡がとれたとして、それで満足すると思うか? 彼らも、彼らの家族もさ。充電切れました。それっきりですって。」
緒方さんが俺の方をチラリと見た。
「瑛太のソーラーバッテリー寄越せとか言い出すかもしれないぞ。」
緒方さんの言葉に俺はギョッとした。
「寄越せって‥‥、まさか‥‥。」
「そうじゃなきゃ定期的に充電できるようにしろって言ってくるんじゃないか?
だって、諦めると思うか?充電すれば家族と連絡がとれるなんて知ったらさ。」
「‥‥。」
緒方さんの言葉を聞いて、俺はブルっと身震いした。
一瞬、圭が遺してくれていたソーラーモバイルバッテリーに、群がってくる人々を想像してしまった。
まさか‥‥、とは思いつつ、全くあり得ないとも言えない。
「エイター!」
動揺していた俺に、ケイン君が話しかけて来た。何か差し出して来ている。
「‥‥ケイン君、どうしたの?」
「はい!」
ケイン君が差し出した小さい手を広げると、紫色の丸い実が出て来た。葡萄だ。巨峰と断言してよいのかわからないけど、巨峰っぽい大きい実だった。
「え?俺にくれるの?」
「ん!」
おままごとみたいなやりとりだな、と思いつつ、手を出すと、ケイン君が俺の手の上に葡萄の実を置いた。
冷んやりとした感触があった。
「え?冷たい?」
葡萄を指で摘んでみるとカチカチに凍っていた。
「凍ってる!」
「ん!」
ケイン君が満足そうに頷いた。
「ありがとう。」
俺はケイン君にお礼を言うと、皮をむいて凍った実を口の中に含んだ。冷えた甘味が心地よい。
「懐かしい。子供の頃、良く凍った葡萄を食べたなぁ。」
圭の家に遊びに行くと、圭が時々おやつに凍らせた葡萄を出してくれたのを思い出した。最初の一粒を、今のケイン君みたいに差し出してくれた光景が頭をよぎった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
なぜか俺だけモテない異世界転生記。
一ノ瀬遊
ファンタジー
日本で生まれ日本で育ったこの物語の主人公、高崎コウが不慮?の事故で死んでしまう。
しかし、神様に気に入られ異世界クラウディアに送られた。
現世で超器用貧乏であった彼が異世界で取得したスキルは、
彼だけの唯一無二のユニークスキル『ミヨウミマネ』であった。
人やモンスターのスキルを見よう見まねして習得して、世界最強を目指していくお話。
そして、コウは強くカッコよくなってハーレムやムフフな事を望むがどういう訳か全然モテない。
バチくそモテない。
寄ってくるのは男だけ。
何でだ?何かの呪いなのか!?
ウオォォォ!!
プリーズ、モテ期ィィ!!
果たしてこの主人公は世界最強になり、モテモテハーレム道を開けるのか!?
絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります
真理亜
ファンタジー
有栖佑樹はアラフォーの会社員、結城亜理須は女子高生、ある日豪雨に見舞われた二人は偶然にも大きな木の下で雨宿りする。
その木に落雷があり、ショックで気を失う。気がついた時、二人は見知らぬ山の中にいた。ここはどこだろう?
と考えていたら、突如猪が襲ってきた。危ない! 咄嗟に亜理須を庇う佑樹。だがいつまで待っても衝撃は襲ってこない。
なんと猪は佑樹達の手前で壁に当たったように気絶していた。実は佑樹の絶対防御が発動していたのだ。
そんな事とは気付かず、当て所もなく山の中を歩く二人は、やがて空腹で動けなくなる。そんな時、亜理須がバイトしていたマッグのハンバーガーを食べたいとイメージする。
すると、なんと亜理須のイメージしたものが現れた。これは亜理須のイメージ転送が発動したのだ。それに気付いた佑樹は、亜理須の住んでいた家をイメージしてもらい、まずは衣食住の確保に成功する。
ホッとしたのもつかの間、今度は佑樹の体に変化が起きて...
異世界に飛ばされたオッサンと女子高生のお話。
☆誤って消してしまった作品を再掲しています。ブックマークをして下さっていた皆さん、大変申し訳ございません。
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる