半分異世界

月野槐樹

文字の大きさ
219 / 305
第22章 広田3

第218話 勇者と聖女

しおりを挟む
「やあ、レラン地区から来た井伊だよ。手続きよろしく。宿舎はどこ?」
「おい!無視すんなよ!」

本木が向かって行こうとした時、レラン地区から来たというその人物と本木の間に、身体の大きな兵士が数人割り込んで来た。
目の前に急に壁が出来て、本木の足が止まった。

「やだぁ~!本木君ったら。」

松井がキャラキャラと笑った。

「勇者様に喧嘩を売ったら大変よぅ~。」
「勇者様‥‥?」

俺は松井の言葉を聞いて、その人物をマジマジとみつめた。
勇者と呼ばれたその人物は、頬にかかった前髪を払うようにさっと首を動かした。

「『勇者様』という程立派じゃないよ。職業が『勇者』なだけさ。」
「勇者様は強いのよぉ~。」

松井はちょっとドヤ顔でそう言うと「勇者様」の腕にしがみついた。本木は不機嫌そうに「勇者様」を睨みつけている。
「勇者様」は松井が腕にしがみついていても、本木が睨みつけていても気にした様子なく、爽やかな笑みを浮かべた。

「僕は井伊秀彦。君達も日本人のようだね。エルの同級生かな。」
「そうよぉ~。本木君とぉ~、広田君っていうの~。」
本木と俺が反応する前に松井が答えてしまう。

武井さんが言っていた「勇者」というのがこの井伊さんの事らしい。
目鼻立ちははっきりしている。外国人の血が混じっているかもしれないけど日本人なんだろう。周りに兵士が沢山いるので、簡単な挨拶くらいしかできない。
「勇者」という立場は優遇されているのか、余裕のある笑みを浮かべている。
挨拶程度では会話が続かないしどうしようと思っていたら、ふと、松井達の後方に誰か立っているのが見えた。
黒髪、色白の人形のような顔立ちの大人しそうな女の子だ。彼女も日本人のようだ。

「お、マミちゃん。」

勇者、井伊さんがマミちゃんと呼ばれた女の子に手を差し出した。マミちゃんは、俺達を見回してぺこりと頭を下げた。

「越前麻美です。」
「マミちゃんはねぇ。聖女様なんだよ。」

井伊さんがそう言うと、マミちゃんはピクリと肩を撥ねさせた。俯いてモジモジとする。

「そ、そんな大した者では‥‥。」
「職業がぁ『聖女』なのよねぇ~。」

松井が、口を挟んで来た。マミちゃんはコクリと頷いた。

「そ、そうです‥‥。職業が『聖女』って出ただけで、あの‥‥っ」

マミちゃんはオドオドした様子だった。俺も一応名乗った方が良いだろうと思って、自己紹介をした。

「広田桜威です。松井と本木の同級生です。」
「はい‥‥。」
「‥‥。」

‥‥広がらない。また気まずい状態になったと思ったら井伊さんが補足してくれた。マミちゃんは、実は俺達より一つ年上らしい。
栃木で行方不明になっていた中学生の一人のようだ。井伊さんは、千葉の高校生だった。

話が弾まないまま、少しして井伊さん達は宿舎に向かって行った。

「マミちゃん、行こう。じゃあねぇ。」

井伊さんがマミちゃんに手を差し出すと、マミちゃんは井伊さんの手の上に自分の手を重ねた。もう一方の手を振ってから二人で手を繋いで宿舎の方に歩いて行った。

「勇者様」と「聖女様」の二人はもしかして付き合っているんだろうか。
そんな事を考えていたら、松井が不満そうな声を上げた。

「もう~、職業『聖女』ってだけじゃない。あんな地味な娘なのに~。」
松井はほっぺたを膨らませてそう言った後、ちらりと俺の顔を流し目で見た。

「ねぇ~、広田君。広田君はぁ~。華やかな方が良いと思わない?」
「え?‥‥っ!」

戸惑って聞き返してたら、ドンッと本木に体当たりされた。

「広田!おめぇ、絵琉に色目つかってんじゃねぇよ!」
本木が怒りの形相を俺に向けて来た。

「は?」
「いやぁ~ん!アタシのために争わないでぇ~。」
松井は面白そうな顔をしながら身体をクネクネさせた。

「‥‥絵琉!ふざけてないで行くぞ!」
本木が松井の腕をぐいっと引っぱった。

「あ、ちょっと待ってよぅ!」
本木は松井の腕を掴んだままずんずんと宿舎の方に歩いて行ってしまった。松井は腕を引っぱられながら俺に手を振っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...