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第20章 広田2
第213話 見えない展望
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‥‥方針としては合理的、なんだろうけど。その度実験に駆り出される側は辛いよな。
「魔導士のお偉いさんの、『頑張ってますアピール』かもね。‥‥あ、内緒ね。」
武井さんは、諦めたような笑みを浮かべてそう言った。
それから、ふと思い出した様子で眼をきょろっと動かした。
「もしかしたら同級生に会えるかもよ。『試み』の中に『これまで召還して来た者を集める』っていうのがリストに書かれてたんだ。」
「同級生‥‥。『人形』にされちゃったんですよね‥‥。」
国境警備に連れて行かれたという彼らを、呼び戻してくれるのだろうかと思った。しかし、どうもそうではないようだ。
「あー、『勇者』とかそっち系。『有能』とかある程度評価されたメンバーの方だと思うよ。
もしかして、その方針で何か成果が出そうだったら、全員呼び戻すとかするかもしれないけど。」
「そう‥‥ですか‥‥。」
そうなると、同級生の中では本木くらいだろうか。
本木とは気が合う方ではないので、再会しても懐かしむというような感じにはならない気がする。だが、近況だとか情報収集は出来るかもしれない。
武井さんの方は、同級生の中で、「やや有能」以上は、武井さんだけだったので、会えそうな人ないないのだと少し残念そうだった。
武井さんとはその後、知った顔を見かけなかったか等の情報交換をして、その日は別れた。翌日から次の召還準備でまた会うだろう。
騎士達が寝泊まりをしているエリアの隅で俺は小さいテントの中に寝転ぶ。
他の騎士達は、俺みたいに逃亡防止の腕輪などは付けていなさそうな感じに見える。訓練で厳しくされたりするけど、理不尽な暴力を振るわれたりはしない。
召還の儀式の時にふらついたりしたら罰を与えられたりはするけどな。気軽に会話した事もなく、敵とも味方とも何とも言えない感じだ。
俺が召還者だと認識していて、少し距離を置かれているようなところがあり、宿泊テントは凄く小さいものを一人で使う様に与えられていた。宿舎として使われている建物もあるのだが、下っ端はテントだ。一人用はマシな方だと思う。
布を丸めて枕代わりにして身体を丸めて横になる。
一人になると、不安だとか辛い気持ちだとかが強くなる。
なんでこんな目に合っているんだろう‥‥。
ある日突然知らない所に連れて来られて、こき使われて、そして戦いたくもないのに戦わされて、死んで行くんだろうか。
ジワリと涙がにじんで来た。
誰も助けてくれないのは判っているけれど、「助けてくれ」と叫びだしたい。
やっと会えた日本人の武井さん。会えてまともにしゃべる事が出来た事は嬉しいけれど、彼も俺を助けてくれる訳でも助ける術をもっているわけでもない。
「‥‥。」
何だか気持ちが揺れていて、すぐに寝付ける気がしなかった。
革鎧の内側に密かに身に付けていた携帯を取り出した。何処にも繋がるはずがないのだが、手放せないでいる。
今日みたいに日本人と会う事がなかったら、俺はこの世界の中で自分が地球人であるとか日本人であるとかを段々忘れて、埋もれて、そして消えて行ってしまうような気がして明らかにこの世界の物でない品に、どこかで縋っているのだ。
ずっと電源を切ったままにしていたのだが、思い切って電源を入れてみた。パッと画面が光ったので慌てて毛布で覆い隠した。
まだバッテリーは残っていたようだ。メモリを見ると残り少ないけれど。
当たり前だが圏外の表示。メールを開くと、その日も次の日も何事もない日が続くと少しも疑わないやりとり。
メッセージアプリを開いてみると、あの日、永見にメッセージを送ったところが最後だった。
召還されたあの日、朝早くに教室に集まったりしなければ、こんな事にはならなかったんだろうか。
それとも、召還の条件かなにかで、別の時間帯でも変わらなかったのだろうか。
バッテリーの表示が赤くなっているので、電源を落とした。溜め息をつき目を閉じる。
「‥‥ずっとこのままなのかな‥‥。」
呟いたが、テントに吹き付ける風の音しか答えてくれなかった。
「魔導士のお偉いさんの、『頑張ってますアピール』かもね。‥‥あ、内緒ね。」
武井さんは、諦めたような笑みを浮かべてそう言った。
それから、ふと思い出した様子で眼をきょろっと動かした。
「もしかしたら同級生に会えるかもよ。『試み』の中に『これまで召還して来た者を集める』っていうのがリストに書かれてたんだ。」
「同級生‥‥。『人形』にされちゃったんですよね‥‥。」
国境警備に連れて行かれたという彼らを、呼び戻してくれるのだろうかと思った。しかし、どうもそうではないようだ。
「あー、『勇者』とかそっち系。『有能』とかある程度評価されたメンバーの方だと思うよ。
もしかして、その方針で何か成果が出そうだったら、全員呼び戻すとかするかもしれないけど。」
「そう‥‥ですか‥‥。」
そうなると、同級生の中では本木くらいだろうか。
本木とは気が合う方ではないので、再会しても懐かしむというような感じにはならない気がする。だが、近況だとか情報収集は出来るかもしれない。
武井さんの方は、同級生の中で、「やや有能」以上は、武井さんだけだったので、会えそうな人ないないのだと少し残念そうだった。
武井さんとはその後、知った顔を見かけなかったか等の情報交換をして、その日は別れた。翌日から次の召還準備でまた会うだろう。
騎士達が寝泊まりをしているエリアの隅で俺は小さいテントの中に寝転ぶ。
他の騎士達は、俺みたいに逃亡防止の腕輪などは付けていなさそうな感じに見える。訓練で厳しくされたりするけど、理不尽な暴力を振るわれたりはしない。
召還の儀式の時にふらついたりしたら罰を与えられたりはするけどな。気軽に会話した事もなく、敵とも味方とも何とも言えない感じだ。
俺が召還者だと認識していて、少し距離を置かれているようなところがあり、宿泊テントは凄く小さいものを一人で使う様に与えられていた。宿舎として使われている建物もあるのだが、下っ端はテントだ。一人用はマシな方だと思う。
布を丸めて枕代わりにして身体を丸めて横になる。
一人になると、不安だとか辛い気持ちだとかが強くなる。
なんでこんな目に合っているんだろう‥‥。
ある日突然知らない所に連れて来られて、こき使われて、そして戦いたくもないのに戦わされて、死んで行くんだろうか。
ジワリと涙がにじんで来た。
誰も助けてくれないのは判っているけれど、「助けてくれ」と叫びだしたい。
やっと会えた日本人の武井さん。会えてまともにしゃべる事が出来た事は嬉しいけれど、彼も俺を助けてくれる訳でも助ける術をもっているわけでもない。
「‥‥。」
何だか気持ちが揺れていて、すぐに寝付ける気がしなかった。
革鎧の内側に密かに身に付けていた携帯を取り出した。何処にも繋がるはずがないのだが、手放せないでいる。
今日みたいに日本人と会う事がなかったら、俺はこの世界の中で自分が地球人であるとか日本人であるとかを段々忘れて、埋もれて、そして消えて行ってしまうような気がして明らかにこの世界の物でない品に、どこかで縋っているのだ。
ずっと電源を切ったままにしていたのだが、思い切って電源を入れてみた。パッと画面が光ったので慌てて毛布で覆い隠した。
まだバッテリーは残っていたようだ。メモリを見ると残り少ないけれど。
当たり前だが圏外の表示。メールを開くと、その日も次の日も何事もない日が続くと少しも疑わないやりとり。
メッセージアプリを開いてみると、あの日、永見にメッセージを送ったところが最後だった。
召還されたあの日、朝早くに教室に集まったりしなければ、こんな事にはならなかったんだろうか。
それとも、召還の条件かなにかで、別の時間帯でも変わらなかったのだろうか。
バッテリーの表示が赤くなっているので、電源を落とした。溜め息をつき目を閉じる。
「‥‥ずっとこのままなのかな‥‥。」
呟いたが、テントに吹き付ける風の音しか答えてくれなかった。
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