半分異世界

月野槐樹

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第17章 瑛太7

第195話 氷

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母さんは、かなり若いうちに俺を生んだ後、共働きもしていたので落ち着いてから、二人目を考えていたらしいんだけど、なかなか授からなかったって聞いた。
そんなことを思い出していたら、ふと,一人っ子の俺がいなくなってしまったという状況の両親の事を想った。

いや、何人かいたら一人くらいいなくなっても良い、とかではないんだけどさ。
両親が心を痛めていると想うと、胸が苦しくなる。

「瑛太。どうしたの?果実水買って来たよ?」

考えこんでいたら、藍ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「瑛太どうした?熱中症か?」

砂浜を走り回っていた尾市さんが様子を見に来てくれた。
そうだ。皆同じ状況なんだよな。
同じ状況の人がいるから楽になるというわけじゃないけれど、一人で悲観して落ち込んでもいられない。
いつか帰れるかわからないけど、そのチャンスガ来たときに元気な状態でいないと。
地球に帰る手段があるのかは、わからない。でも、もし帰る手段がわかったとしても、もう絶対に帰る事ができない奴もいるんだ。

‥‥圭。圭の分まで俺は元気に過ごす。

圭が準備してくれていた物の助けをかりて、圭がずっと思い描いていた異世界をしっかり楽しむからね。

ザザーンと波の音が響いている砂浜で,俺は二度と会えない従兄弟の事を想った。

翌朝早く、ディーン君に案内されて、水産加工場のような所に行った。普段は干し魚を作っているところらしい。そこにその日の朝獲れたというイワシが
運ばれて来ていた。思う存分作ってよいらしい。
頭や内臓を取り除いたイワシの水気拭き取って、ニンニクと一緒に瓶の中に詰めて、オイルをひたひたに注ぎ入れて蓋をする。
大きな鍋に湯を張ってイワシが詰まった瓶を入れて沸騰しないくらいの温度で調理。

「ここから24時間‥って、丸一日待つの?」

イワシをさばいたりして、そこそこ時間がかかったけど段々慣れて来てなんとか鍋にセットする所まで完了した。。

それはよかったんだけど、24時間待つ間、どうやって過ごすかを計画してなかったんだ。

「どうしよう。魚料理でもする?」

ワイちゃんがそういうと小さいイワシが入ったバケツを運んで来た。

「これ、オイルサーディンにするには小さすぎるやつ。何か料理できないかな。」
「塩焼きとか?でも小さいね。アンチョビみたい。」
「アンチョビ?」

俺ははっとして鞄に手を突っ込んだ。あった、ありましたよ。アンチョビの作り方!魚醤もできるって。

「マジ?容器ある?ツボとかも良いのかな。」

再び水産加工モードに突入。鱗を落としてから、塩に漬ける作業をせっせと繰り返した。
早朝から作業をしていたのだけど,段々日が高く上って来て暑くなってきた。

「いわーしゅ。」

加工場の中を走り回って遊んでいたケイン君が、小さいイワシが入ったバケツを覗き込んだ。

「いわーしゅ、ひえひえ。」

ケイン君はそう言うとバケツの上に小さい両手をかざして、ドサッと何かを出した。氷だ。

「は?」

驚いてバケツの中を覗いている間に、別のバケツにも氷をどさどさと入れているケイン君。

「ちょ、ちょっと待って。ケイン君、氷だせるの?」

俺がそう聞くと、バケツと戯れているケイン君に替わって、ディーン君が答えた。

「ケイン、上手にできたよね。」
「けいん、できたー。」

ディーン君に褒められてケイン君も嬉しそうだ。

「え、氷魔法ってあるの?魔法で凍るの?」
「そりゃそうさ。さっきから氷は入ってただろう?」
「あ、そ、そうか‥‥。」

よく考えたら、イワシは氷水と一緒にバケツに入れられていたんだった。日本で氷を見慣れていたから、実際に氷を作り出す所を見るまで違和感はなかったんだ。
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