半分異世界

月野槐樹

文字の大きさ
上 下
177 / 305
第14章 尾市1

第176話 椎名と会う

しおりを挟む
「大人ですね。二人とも。俺、開拓村に行ったこと馬鹿にされただけでムカついちゃって。」
「ああ、多分誘われなかったのが癪で三輪があれこれ言ってたからだと思うよ。気にすんな。」
「やっぱり、三輪が言ってたんですか‥‥。」

何か気持ちが沈むなぁ。
ツェット領行きへの声がかからなかったのは、タイミング的にまだこの国に来たばかりで、ちゃんとやっていけるか判断が出来ない時だったからじゃないか。
何ヶ月後かに様子を見にくるって話もしてあったはずなのに、恨むとかよくわからないよ。

少し凹んだ気分のまま挨拶をして彼らのアパートを出た。ツェット領に戻る前にはもう一度会う約束はしておいた。
通りに出て、教えられた椎名の住居に向かう。
ふと思い出してシグマさんを振り返って謝った。

「すみません。付き合わせちゃって。」
「気にしないでいいヨ。」

こういう街では自衛の為に連れ立って歩くのは普通の事なので、気にする必要はないという。そうは言っても無料で護衛を雇っているみたいな状況で申し訳なく思う。
そう言ったら、領主様から往復の護衛費用以外に滞在中のサポートも料金が支払われているから、その一環だと思えと言われた。
いいんだろうか。

疑問に思っても断ったら一人で出歩かざるを得なくなるし、そのまま一緒に椎名の住むアパートに向かった。
このアパートも入り口の扉をノックすると管理人らしいひとが小窓から顔をのぞかせた。今度はお爺さんだ。
椎名の名前を告げたが、どうも不在らしい。でも住所はあっているみたいなので、伝言メモを預けておくことにする。

『元気か?三日後まで前泊まってた宿にいる。B』

狩猟ギルドで書いた内容と変わらないことしか書いていない事に気がついた。でもだからって伝言で書く事はあまりないので仕方ない。
伝言メモをドアの小窓から差し入れてお爺さんに渡して、その場を立ち去った。

そのまままっすぐ宿に戻って来て、宿で夕食を済ませた後に椎名が訪ねて来た。
椎名は狩猟ギルドの依頼をこなしたばかりといった感じの格好だった。一緒に柊さんもいた。
ギルドで伝言を受け取って,その足で来たらしい。アパートにも伝言をしておいたことを伝えた。

「椎名、ちょっと背、伸びたか?」
「尾市も‥‥というか日焼けしたな。」

久しぶりに会った椎名は、ツェット領に旅立つ直前に会った時に比べて随分表情がすっきりしてみえた。
宿の部屋に招いて話をする。

「どうしてるか気になってたからさ。商隊に付いて来たんだ。」
「そうだったか。心配かけたな。今はこの通り元気にしてるよ。狩猟ギルドで依頼受けてる。柊さんと組んで魔獣狩りもしてるんだぜ。」
「うん。元気そうなら良かった。」

俺達がツェット領に向かった後の事を話してくれた。
四人用の女子部屋にいた石倉が部屋に一人となったので、小さい部屋に移ることになったんだけど、宿泊費用がないという。
一人部屋は高い。1~2泊分くらいはあるがそれ以降の費用がないと、不安そうに泣き出したそうだ。

それって‥‥2日のうちに働けばいい話じゃね?

話を聞いて俺が思った事を椎名も思ったらしいんだけど、男子の中で女子一人だったのもあって、厳しいことを言うのを躊躇っていたそうだ。

そうしたら、三輪が同室になろうと名乗り出た。

「じゃあ、俺と同室になろう。二人部屋の方が一人当たり安くあがるし。」

椎名は、その言葉にあっさり頷く石倉を見て、何となく事前に二人で打ち合わせてたな、と思ったそうだ。

「なんかそれ見て、すーっと冷めたよ。泣き演技ばっかりで宿代稼ごうとしないし。三輪と同室になるなら、さっさとそうすればいいのに、金がないアピールして、うまくすればカンパも貰えるって踏んでたんだと思う。」

石倉と椎名が同室の時も宿代は椎名が負担していたそうだ。考えてみたら石倉が働いているのほとんど見たことない気がする。

1~2泊分の宿代を持っていたのも、実は椎名が稼ぎの中から時々渡していた生活費の分だろうとのこと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

処理中です...