半分異世界

月野槐樹

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第10章 瑛太4

第140話 初日完売

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じっと俺の手元を見ているヤンキーさんに問いかけた。

「二人で分けられるように切り分けます?」
二人が頷くのでまずは、丸パンを半分に切る。カリカリと音を立てた後、スッとナイフが入って行く。

「うぉ?やわらけぇ?」
赤髪ヤンキーさんが声を上げた。
スルーして、長パンも半分に切る。こっちはどっしり重めの切れ味だ。そして丸パンをさらに半分に切って行く。
半分の丸パンと1/4になった丸パンを、二つの山にしてヤンキーさんの前に置いた後、残りの1/4の丸パンをさらに半分に切った。
1/8の丸パンを二切れずつ、二人の前に差し出した。

「あ、これ試食です。良かったら食べてみてください。」
「!」

ヤンキーさん二人が顔を見合わせた後、伺うように俺を見て、そっとパンの欠片に手を伸ばした。

「ふわふわ?」
「旨?」

パクパクとあっという間に二切れを口に放り込んで、モグモグしたまま、それぞれパンを持って何度もお礼を言いながら去って行った。

ヤンキーさん二人の後ろ姿を見送り、遠ざかったのを確認してからふぅっと肩の力を抜いた。
トスっと膝かっくんされた。

「うっ?」
「瑛太~格好つけて~。」
膝かっくんされてよろめいた隙を狙って、尾市さんに脇をくすぐられる。

「格好付けじゃないよ~。だいぶテンパってたんだから。」
「優しい対応だったけど~。それなら最初から2個売ってあげてもよかったんじゃないの?」
「それは咄嗟に‥‥。難癖付けてきたのにまけてやるの癪だなって思ったり‥‥。でも、腹減ってそうだったし‥‥。」
「甘~い!」

尾市さんが俺にじゃれついて来ている間に次のお客さんが来たので、二人して脇に追いやられた。
店頭に藍ちゃんとワイちゃんが並んで接客していてその真後ろにボディーガードのように緒方さんが立っている。

俺は真希さんに尋ねた。

「緒方さんって、怒ると怖い人なんですか?」
「うふふ。どうかしら。」

真希さんは動じたりせずにいたから、意外な一面というわけでもなさそうだ。

高校生ともなるとあの位は普通なのかと考えていたら、ディーン君が近寄って来た。

「この街は国境が近くて、他所から人が流れてくるから、ああいった輩は少なくないよ。
彼らはすぐに引いたけど、武器を持って暴れる奴のいるから気をつけてね。」
「あ、うん‥‥。」

慣れてくるとつい油断しそうになるけど、男の俺でさえ一人で出歩くなって言われているくらいだから、治安はあまり良く無いんだよな。
今まで何事もなかったのは、たまたまなんだよな。まあ、一人で出歩かないとかの注意事項は守ってたけど。
午前中はそれ以降特に何事も起きずに過ぎ、昼時にそこそこ売れた。そして午後に急に人が集まりだしたと思ったら、あっという間に品切れになってしまった。

どうやら、午前中と昼に来たお客さんがリピートしてきてくれたようだった。

「おつかれー!」
「初日完売おめでとー!」

屋台を片付けた後、広場で薬草水で乾杯した。味は冷たいミントティーだ。
スーッとした空気が鼻に抜ける感じを楽しみながら、広場側から他の屋台の様子を眺めた。こうして見るとお祭りに参加したみたいな感覚になる。

「良い売れ行きだったね!」
「あの感じだと明日はもっと売れるんじゃない?」
「いや、まとめ買いの人は明日の分くらい買ってったよね。」

皆、良い感触が得られたみたいで満足そうだった。
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