半分異世界

月野槐樹

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第10章 瑛太4

第133話 屋台でパン屋

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俺達がビックリしている様子を見て、イーリアさんがふふっと笑った。ライアンさんが穏やかな口調で続けた。

「もちろん無理強いはしないよ。俺の生まれた国の人間が君達に多大な被害を加えたんだ、何かを強要する気はないんだよ。
ただ、一緒に旅しているときにとても珍しい食べ物を沢山食べさせてもらった。筆記具も非常に優れたものだった。
パンの知識だけでなく、君達はおそらくこの国の文化をひっくり返しそうなくらい知識を持っているんじゃないかと思う。
だからもしも君達が領地改革に協力してくれるというならとても嬉しい。
繰り返し言うが無理に押し通そうとはしないから安心して欲しい。」

「そう‥でしたか‥‥。」

圭の弁当を食べていた時には気がつかなかったけど、この国もあの国も食生活がかなり質素だ。
干し肉、スープ、固いパン。豪華な時は肉のローストとかが出るけど、普段はスープだってないときもある。
俺達が色々な料理技術を知っているなら、取り込みたいっていうことみたいだ。でも強要はしないって言ってくれている。
あの国から助け出したんだから、手をかせよって強制してきたって不思議に思わないのに。良い人だよな。
イーリアさんは、扇子で口元を隠しながら優雅な笑みを浮かべている。

「貴方達は真面目に生活基盤を築こうとしているようだし、何かするときも慎重で堅実だわ。それでいて色々な知識を持っている。
きっと私達の領地でも活躍出来ると思うの。
そういう道筋もあるということを考えてみて欲しいわ。」

「考える」というのはライアンさん達がこの地を離れる前までにどうするか決めろという事みたいだ。
でも、ライアンさん達の行く先がどんな土地なのかも知らないんだよな。
まあ、そもそもこの国がどんな所かすら知らずに来たわけだけど。

商業ギルドに提出すると交渉が早くなる書類というものをもらったので、それを持って商業ギルドに行く事にした。
「交渉が早くなる書類」とは、ざっくり言うと「困ったらイーリアさん家が手助けします。」っていう保証のようなものらしい。

お試しで短期間、無理ない範囲で出来るならやってみようと思っていたのに、
すぐにでも開業する流れになってきてしまっている。
悪い事じゃないし、嫌なら抵抗すればいいだけなんだけど、ちょっと戸惑う。

さらに、ディーン君が着いて来ていて戸惑う。

「使用人について行かせようとしていたんだけどね。僕も少し興味があったから。」
そんな事を言っているけど結局使用人の人も一緒に来るようだ。

「変な書類にサインしたりしないように僕がちゃんと見守るからね!」
任せて!と、ディーン君が笑う。そうか、世間知らずの俺達を心配して着いて来てくれているらしい。
確かに、難しい言い回しの文章が書かれていたら読めないまま署名しちゃうかもしれない。怖!

ディーン君はディーン君で世間慣れしているかといったら、それほどではないという。
それでも、最近字を覚えた俺達よりはずっと頼りになるだろうな。
俺と同い年のディーン君。パッと見は映画に出てきそうな美少年でちょっと幼く見える。話をすると結構しっかりしていて、貴族っぽい雰囲気がある。
でも身分をひけらかすみたいな感じはない。
さすが、ライアンさんの長男。いい人っぽい。

屋台のレンタルは1週間単位。設置場所も決まっていて,場所代を含んだ金額らしい。
文字が読めるようになってからは、文字にも言語補正が機能するのか書いてある内容は読めるようになった。
でも難しい言い回しは、翻訳されても難しいわけで‥‥。
じっくり文章を読んでいると、ギルド職員がせかしてくる雰囲気になってちょっと焦る。その時ディーン君がニコニコしながらフォローしてくれる。

「ちゃんと全部目を通したほうがいいから、ゆっくり読んでいい。それと内容が分かり難いところは質問した方がいいよ。」

そう言われて質問してよかったんだと思い当たる。緊張してたのかな。
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