半分異世界

月野槐樹

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第7章 瑛太3

第118話 それぞれの道

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「はあ?何でだよ。」
「何でだよじゃねぇよ。落ち着いて考え直せ。向こうの国に行ったら周りは敵だらけなんだぞ。」

尾市さんはそう怒鳴ると立ち上がった。ちらりと、石倉さんの方に目線を動かす。石倉さんは膝に手を置いて俯いて黙っていた。尾市さんは小さく溜め息をついた。

「椎名。もう一度言う。落ち着いて考え直せよ。ちゃんと出国までの手筈を考えないと絶対成功しないからな。」

尾市さんは椎名さんにそう言い残して部屋に戻って行った。
尾市さんが呆れるのはわかる。計画が杜撰すぎる。杜撰って言っていいレベルなのかもよくわからない。隣の街に行って同郷の人を探そうっていうだけの計画のように思う。

食事の終わりに大分重苦しいムードになってしまった。
東区を見に行った話もできなかった。
俺としては気持ち的に尾市さんに賛同する。今の椎名さんは、ちょっと椎名さんらしくない気がする。
いや、俺も知り合ったばかりだけどさ。一緒に旅して来て勝手にイメージを持っていただけかもしれないけどね。

自分が宿泊する部屋でもあるけど、一応ノックをして部屋の扉を開けた。尾市さんは窓際に立って窓の外を眺めていた。

「‥‥あいつ。もうだめかもしれない。」
「‥‥だめ、ですかね‥‥。」
「石倉に言わされてるじゃん。あれ‥‥。
話通じなくてちょっと怖かったし、哀しかったよ。」
「椎名さんは優しいから、石倉さんの気持ちを汲んであげてるのかもしれないですけどね。」
「優しさの方向がちょっと違うんじゃないかね。あーもう!」

尾市さんが頭に手をやって髪をぐしゃぐしゃと掻いた。そして脱力したようにしゃがみこんだ。

「椎名を見捨てたくないけど‥‥。もう別々の道を行くしかないのかもしれない‥‥。」

椎名さんが大事にしようとしているのが石倉さんのことなら、それはそれで受け入れるしかない。石倉さんが椎名さんを騙しているとかなら別だけど。
そうではないと思ってはいる。考え方が自分達と違う、というだけで。

「椎名はさ。ちょっとお人好しなところが有ってさ‥‥。そこが奴の良い面では有るんだけど心配なんだよ。」
「ええ。」
「‥‥石倉と二人部屋になるって聞いたとき、マジかって‥‥。俺達まだ中学生だぞって言おうとして‥‥。もう日本では、中三だった三月が過ぎてて
4月になってる頃で‥‥。俺等、高校生になってる時期じゃん。受験できてないからイケねぇけど。まあ、そもそも中学卒業してないけど。」
「‥‥。」
「‥‥そう考えたらさ、ああ、別々に生きる時期なのは仕方がないんじゃねって‥‥。俺が立ち止まりたいだけなんじゃないかって‥‥。‥‥でもなぁ‥‥、心配なんだよなぁ。本当に大丈夫?って。だけど、俺があれこれ言うべきじゃないのかな。」

尾市さんがしゃがみ込んだまま語った。その状況は少し、圭に対する俺の気持ちと重なる部分があるような気がした。

圭の場合は「大人になったから自分の道を行く」とかではなくて、この世界からも、日本からも別れを告げてしまったからだけど‥‥。
一緒に歩んでいけないっていう切なさは、少し分かる気がしたんだ。
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