半分異世界

第7章 瑛太3

第111話 少しだけ気になる過去話

「あら。」
イーリアさんが長い睫毛をパチパチとさせて、ニコリと微笑んだ。

「まあ、貴方はライト子爵の‥‥。」

「はい。ライト子爵が次女のアリナでございます。現在はアリナ・ローアンとなりました。‥‥やはりイーリア様でしたのね。
あの第三王子殿下の婚約破棄騒動以降、お姿が見られなくなっていたので、心配しておりましたわ。
ご存知でしょうか。あの殿下は、イーリア様との婚約破棄を宣言された後、結局男爵令嬢との婚姻は許されず、幽閉されましたのよ。」

「存じておりますわ。」
イーリアさん，ニコニコしているけど、何か不穏なワードが流れなかったか？　

「わたくし、今は嫁いでイーリア・ツェットとなりましたの。こちらは主人のライアン、長男のディーンと長女のジーナですわ。」
いつの間にか立ち上がっていたライアンさん一家が、挨拶をした。

「まぁ～！そうでしたの～。」
アリナさんは、アリナさんにしがみついているヴィクター君を引きはがして、ライアンさん達に挨拶をさせた。

「ヴィクター、ご挨拶なさい。」
「えー？」

ヴィクター君はいきなり挨拶を強要されてぽかんとしている。こっちも急に御貴族様的会話に戸惑って、ちょっとぽかんとしてた。

ヴィクター君も戸惑った様子のまま挨拶をした。

流れで一緒の食事になるのかと思ったけど、アルナさんがヴィクター君を引き摺って去っていった。

「お騒がせいたしましたわね。昔のちょっとした知り合いですわ。」
イーリアさんは穏やかに微笑んだ。

イーリアさんの過去についてちょっと気になりはしたけど、料理が運ばれて来たので、この場は晩餐を楽しむ事にした。
何しろ、やっと出国できた記念の晩なんだ。

果実水で乾杯をして、穏やかに談笑をした。
国境門での話も誰も話題に出さなかった。
最後の方になってライアンさん達の今後の予定を教えてくれた。
イーリアさんのご実家に行って第三子を産み、そこから別の土地に引っ越して子育てをする予定なんだそうだ。

だから、ライアンさんが俺達の近くにいてくれるのは、イーリアさんのご実家に向かって出発するまでのことになるのだそうだ。
それまでは、こちらでの暮らしの相談等にのってくれるという。本当にありがたい。

食事を終えて小部屋を出ると、小部屋に近い位置に置かれたテーブルからアリナさんが立ち上がった。隣りにいた男性も立ち上がる。
周囲のテーブルから結構距離が空いている。宿の人が配慮したんだろうか。
アリナさんは旦那さんらしき人とヴィクター君と、ヴィクター君の弟らしき子と一緒にテーブルを囲んでいた。

「イーリア様！‥‥いえ、ツェット様。ワインを差し入れていただきましてお心遣い感謝いたします！」
「名前呼びで構いませんわ。ワインは主人が手配してくれましたの。喜んでいただけたならよかったですわ。お誕生日おめでとうございます。」
「‥‥っ！ありがとうございます！」
アリナさんは感激した様子でお礼を言った。旦那さんも恐縮しているような様子だ。
ヴィクター君が席を立ち、弟君も促して二人で一緒にぺこりと頭をさげた。
あれ？良い子になってる。

いつの間にかワインを差し入れるとか、ライアンさん大人だなぁ。

ライアンさん自身は旅の途中は酒は飲まないと言っていて、お酒は飲んでいない。
この世界では15歳で成人だけどお酒を飲む年齢に規制はないらしい。でも成長の妨げになると考えられていて成人してから飲む習わしらしい。

だから，召還メンバーのうち俺と藍ちゃん以外はお酒を飲んでも問題ない年齢なんだけど、ライアンさんを見習ってなのか資金的に酒を飲んでいる場合ではないからなのか、誰もお酒は飲んでいない。