半分異世界

月野槐樹

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第6章 詩英2

第89話 後悔

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『あれ‥‥。えへへ‥‥。』

圭は、目元を掌でごしごしと何度か擦って、そしてはにかむように笑った。
‥‥なんで笑顔なんだよ、こいつ。
そして、口元に笑みを浮かべながら話し続けた。

『それでね。ほら‥‥最近さ。よく行方不明のニュースを聞くでしょう?家族の人が探してるやつ。
僕の場合はそんな感じだと思うから!だから探さなくていいからね!
今もね、沢山準備しているし。きっと大丈夫!』

きゅっと小さいガッツポーズをとる圭。若干ドヤ顔。
‥‥全然大丈夫じゃないだろうが。俺が心の中でツッコミを入れているのを、動画の中の圭が気がつくはずもなく、ニコニコしながら話している。暫くして、ふと思いついたように圭が目を見開いた。

『あ、そうだ。僕が死んじゃってる場合もあるかもだけど‥‥。どちらの場合でも、言いたい事があります!』

カメラに向かって圭が姿勢を正した。ドキリと心臓が撥ねる。言いたい事?
何だろう。俺に対しての文句だろうか。父さんや母さんへの不満だろうか。ごくりと息を画面を見つめ、次の台詞を待った。少し間を置いて、意を決した様に圭が口を開いた。

『いままでありがとう!父さんも母さんも兄さんも大好き! 本当にありがとうね。』

「‥‥。」

『僕、迷惑一杯かけちゃったと思うけど、幸せだったよ。だって皆好きだもん!』

「圭‥‥。」

ディスプレイに手を伸ばして、圭の映像に指を触れた。触れられない。当たり前だけど。

『だから、皆、仲良くしてね!』

「馬鹿‥‥。ごめん、圭‥‥ごめん‥‥。」

その後の映像には従兄弟の瑛太や仁美叔母さんへのメッセージが続き、友達の事など近況等も語っていた。
あの松井っていう女生徒の事も言っていた。
内緒で付き合うような事を言われたけど、からかわれていると気付いているようだった。
あの日、圭は何か決着をつけようとしていたのかもしれない。

もし、その事がなければ、あるいはもっと早く決着をつけていれば。あの日圭が朝早くに教室に行く事はなかったんじゃないだろうか。
俺がもっと普段から話相手になっていて相談に乗れていたら‥‥。
今更言ってもどうしようもないことを考える。

他のファイルもパスワードは同じで、近況が少しずつ違っていたくらいだった。
中には異世界での生活について熱く語ってみたり、天然酵母のパンがうまく出来たとか、藍染めが思ったより薄い色になってしまったとか、
チャレンジしている事を語っているものがあった。
ファイルの日付を見ると、ランダムだけど、数日置きくらいに作られていた。
料理だけじゃなくて物造りが好きだったんだなと、キラキラした表情で語る圭の姿を見て思った。
そして半分くらいファイルの内容をみていて気がついた。

家族とそんな話がしたかったのか。
話をするタイミングがなかったのか‥‥。

「俺、本当にダメな兄貴だなぁ‥‥。」

後悔の気持ちで一杯になりながら、映像を見続けた。
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