半分異世界

第5章 瑛太2

第74話 謎鞄

涙を拭きながら、俺にスマホを差し出し、早く電源を落とせといった。
他の人が見る分もバッテリーを確保しておいて欲しいという。
俺は素直にスマホを受け取り電源を落とした。

尾市さんが落ち着いてきたら、先程の変なイメージの事を思い出した。疲れていたのかな？
もう一度鞄に手を突っ込んでみる。
ずぼ。何もなし。
ずぼ。何もなし。
ずずずず。なにもなし。
ずぼ。

ーーーソーラーモバイルバッテリー

ビクッとしてまた手を引っ込めた。またか？
そうっと手の位置をなるべく変えずにもう一度ゆっくりと手を突っ込む。

ずず。

ーーーインスタント味噌汁

「!?」

なんでやねん！思わず突っ込みを入れたくなった。
このチョイス！　なぜにランダム？

何となくもう予想がついていたけど、そうっと鞄の中の手の位置を確認した。
ぺしゃんこになっていたからくるりと丸めていた圭のデイバッグの入り口のファスナーが少し開いた隙間に指を突っ込んでいた。
ファスナーを開けて、手を入れてみると、さっき思い浮かんだ大量の物品のイメージが広がる。

これ、もしかして‥‥。

（インスタント味噌汁）

イメージしてみたら何かを掴んだ。ぐにゃっとした小さいもの。
取り出してみると、思った通りインスタント味噌汁が出て来た。

もういちど手を入れてみる。

ーーー方位磁石

何か違うの出て来た。



具体的に何かイメージしよう。

（ソーラーモバイルバッテリー）

ソーラー式のモバイルバッテリーが出て来た。

もう、圭。君ときたら‥‥！わけがわからないよ。

見てみると既に充電されているようだ。
永久には使えないと思うけど、これならまだまだスマホの充電ができる。

「え？それ！」

モバイルバッテリーをみて、尾市さんが声を上げた。

「まだしばらく、充電はできそうですよ。」
「おお！なんて準備がいい！この資料もだけど！」
「準備したの、全部圭なんで。」
「ああ‥‥あの子‥‥。」

圭の名前を口にしたら、尾市さんが悲しそうな顔をした。ちょっと重たい空気になりながら、ソーラーモバイルバッテリーとスマホを繋いで充電を始めた。

「あ、充電出来るなら、俺のも‥‥充電させてもらっていい？」

尾市さんが懐からスマートフォンを出して来た。尾市さんも携帯は取りあげられなかったんだな。

「あ、こっちのタイプのケーブルは藍ちゃんが持ってるんですよね‥‥。」

尾市さんのスマホは藍ちゃんと同じ機種だった。

「そうか。それなら後で藍ちゃんに借りるわ。」

尾市さんはすぐに納得してくれたけど、俺にはちょっと気になる事があった。
もう一度鞄に手を突っ込む。

（充電マルチケーブル）

手の中に何か入って来た。やっぱり！

ケーブルを取り出して、尾市さんに見せた。

「はぅ!? 持ってたの？」
「これ使えそうですか？」
「いけるいける。バッテリーポート2個あるから同時にいけるかな。」

モバイルバッテリーにもう一本ケーブルを差し込んで尾市さんの携帯に繋いだ。
少し時間が経ってから尾市さんの携帯の画面が充電中の表示に変わる。

「うう‥‥。まさかもう一度携帯が使える日がくるとは‥‥。」
「ソーラーバッテリーって毎日使ったら寿命は1年くらいでしたっけ。時々動画を見るくらいはできそうですね。」
「うんうん。これはSDカード読めないけど、写真とか入っているし。起動できたら凄くうれしいよ。」