半分異世界

月野槐樹

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第1章 圭

第9話 モヤモヤの日々に

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そして父さんは家に帰って来なくなった。
会うときはファミレスとか家の外で会っていた。

「父さん一緒に帰ろうよ」

何度かそういってみた。
うっすら気がついてはいたんだ。
親が離婚したっていう子はクラスにもいたから。
でも僕は父さんと母さんからは何も聞かされていなかったから、言ってみたんだ。
その度に父さんは困った顔をしてた。
そのうち兄さんから怒られた。

「誰のせいだと思ってるんだ。」

って言われた。うん。僕のせいだよね。

それ以上迷惑をかけたく無くて必死にリハビリを頑張った。
動けるようになってからは家の手伝いもやるようになった。
僕が初めてご飯を炊いたときの母さんの笑顔は今でも覚えている。
無洗米に水を入れて炊飯器のスイッチを押しただけなのにね。凄く喜んでくれたんだ。
僕がご飯を炊くようになったら、兄さんも一緒に料理をするようになった。
最初のうちは包丁担当は兄さんだったけど、段々僕も包丁を使えるようになってきて、僕一人でも簡単な食事なら用意できるようになった。
今では結構色々作れるようになったんだよ。弁当も自分で作っているんだ。

僕が料理をしたり洗濯をしたり、アイロン掛けをするようになってきたら母さんの顔が穏やかになって来たと思う。
でも、僕が足を引きずっているのを見ると時々悲しそうな顔をするし、父さんは帰って来ない。

ずっと心に棘のように突き刺さっている母さんの言葉。「産まなきゃ良かった。」
本気じゃなかったかもしれない。でも忘れられない。
僕は居ない方がいいんだろうか。

どんなにご飯を作っても、家族一緒に食事を出来た事はほとんどない。兄さんが大学に入ってから、兄さんと夕食を一緒に食べた事あったかな。
作っておいても食べてもらえない事もある。
僕って必要だろうか。

僕がいなくなったら、父さんは戻って来てくれるだろうか。

もやもやもやもや考えて、引きこもって本ばかり読んでいたときに「クラス転移」をするライトノベルを読んだ。
物語の中のクラスの副委員長の女の子が「聖女様」で、手足を失った人も治癒魔法で治してしまうんだ。

治癒魔法! 異世界転移!

モヤモヤしていた中に光が差し込んだ気がした。

異世界の治癒魔法があったら僕の足も治る。
僕が異世界転移して居なくなったら、父さんは帰ってくる。
僕も足が治って異世界で元気に走り回れる。

これが実現したら皆幸せになるんじゃないのか。

絵空事だとはわかっていたんだ。でも考えずにはいられなかったし、考えていると気持ちが楽になった気がした。
それから異世界物の小説を読み漁った。
もしも異世界転移したらってシミュレーションして、役に立ちそうな知識を集めるようになったんだ。
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