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序章
第1話 プロローグ
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ーーーーーだってさ、予想できるわけないじゃないか。
ーーーーー想定の範囲外だよ。
「また異世界召還らしいっす。異界間コールエネルギーが増加中。」
「またぁ?つい最近やったばかりだろ。場所はまた地球なのかよ。」
「そうっす。えーと発信元は‥‥。」
「勘弁して欲しいよ。なんで異界間エネルギーの流入やら流出やらを許すんだよ。」
立ち上がると天井に頭がついてしまうので少し首を横に曲げながらギガ天使族のクフォーツは溜め息をついた。その溜め息が野太い。ゴゴゴゴゴと空気ガ喉を通る音が室内に響いた。
「それ言ったら、この課の仕事なくなるっすよぉ。」
アクア天使族のカイヤナイトは、端末に向かったまま流水のような髪をゆらした。クォーツの方を振り向く余裕はない。対処すべき事がひっきりなしに端末に表示されていくのだ。
職場の上司である上級天使達は、皆休暇にでてしまっている。上級天使全員で職場の慰安旅行に行ってしまったのだ。全く信じられない、とクォーツは思い出す度に悪態をついた。
「全く!承認が必要な手続きだってあるのに、あいつら仕事をほっぽって行きやがって。あり得ないだろ!どうするんだよこれ!」
上司達の事を思い出しながら、クフォーツはイラついた声を上げた。クォーツが怒鳴ると空気がビリビリと振動する。手にしていた端末にも伝わって来た振動を感じながら、カイヤナイトはなるべく気にしないように努めながら言った。
「なんか、承認プロセスを省略する設定にしていったらしいっすよ。」
「なんだそれ?そんな事したら変な申請もなんでもできちまうだろう?」
「権限はタブレットのガード機能で制限されてるから問題ないって言ってましたー!」
「はあ?じゃあ、あいつら仕事って何?」
「仕事は一杯あるじゃないっすか。はぁ~、ヘルプ欲しいっす。赤子の手でも借りたいっす。ヘルプ要請だしますかぁ?」
「とっくに出してる!」
再びクォーツの怒鳴り声で端末がビリビリと振動した。はあ、とカイヤナイトは溜め息をつきかけた。
「そうっすか。‥‥あ!噂をすれば?」
ちらりと視界の端に動く影があった。出入り口から誰かが室内を覗き込んでいる。
「あのー?すいませーん。ここって~‥‥。」
凄く小さい天使が室内に声をかけてきた。
「なんだ?もしかしてヘルプか?」
クォーツが話しかけると、怯えた様子で何か応えているその天使はナノ天使族らしいと、クオーツが言った。巨人のようなギガ天使族のクォーツと比べると、ナノ天使族はまるで赤ん坊だ。
しかもおどおどとしていて見るからに非常に頼りなさそうに見える。
大丈夫かと不安になりながらも、誰でもいいから手も借りたい程の忙しさだったので、受け入れた。ヘルプ要請に応じてやってきた小さい天使に作業を頼む事にした。問題は、どうやら初心者のようだったことだ。とりあえず、上位の承認手続きは省略されているはずだから、下級天使権限での承認手続きだけどんどんやってもらえればいい。「進む」のボタンを押して行ってくれれば良いから指示をだした。
こう言っておけば大体判るだろう。
あまり難しい事を言って、逃げ出されてしまってはたまらないからだ。
執務机の前に座らされた小さい天使・ルチルはキョトンとしながら端末を見つめた。
ちらり、と助けを求めるようにクォーツやカイヤナイトの姿を目で追いかけるが、彼らは既にルチルに構っている余裕はなかった。
「‥‥‥『進む』を押せば良いんだったよね?」
ポチポチポチポチ
ルチルは端末に表示されたボタンを押し続けた。時々「進む」以外のボタンも表示されていたがとにかく押し続けた。
ポチポチポチポチ
そうして、ヘルプで来た小さい天使に仕事をまかせて暫く経った頃、突然室内に大音量でアラートが鳴り響いた。
ブォー!ブォー!ブォー!ブォー!
「何だ!何事だ!」
クオーツが立ち上がった。天井に頭をぶつけそうになって慌てて首を引っ込めた。
カイヤナイトが端末画面を覗き込んだ後、クォーツを振り向いて言った。
「異界間移動事故のようですぅ。」
端末には、異界間流入出のエネルギー量のしきい値超過のアラートが表示されていた。更にどんどんエラーメッセージが出力されている。
「ああ、もう!」
今日は絶対残業になるよなぁ。そんな事を考えながらカイヤナイトはヘルプの小柄な天使に指示を出した。
「はあい」
ルチルは元気に返事をして、ポチポチ押す作業を再開した。
ポチポチポチポチ
ポチポチポチポチ
ーーーーー想定の範囲外だよ。
「また異世界召還らしいっす。異界間コールエネルギーが増加中。」
「またぁ?つい最近やったばかりだろ。場所はまた地球なのかよ。」
「そうっす。えーと発信元は‥‥。」
「勘弁して欲しいよ。なんで異界間エネルギーの流入やら流出やらを許すんだよ。」
立ち上がると天井に頭がついてしまうので少し首を横に曲げながらギガ天使族のクフォーツは溜め息をついた。その溜め息が野太い。ゴゴゴゴゴと空気ガ喉を通る音が室内に響いた。
「それ言ったら、この課の仕事なくなるっすよぉ。」
アクア天使族のカイヤナイトは、端末に向かったまま流水のような髪をゆらした。クォーツの方を振り向く余裕はない。対処すべき事がひっきりなしに端末に表示されていくのだ。
職場の上司である上級天使達は、皆休暇にでてしまっている。上級天使全員で職場の慰安旅行に行ってしまったのだ。全く信じられない、とクォーツは思い出す度に悪態をついた。
「全く!承認が必要な手続きだってあるのに、あいつら仕事をほっぽって行きやがって。あり得ないだろ!どうするんだよこれ!」
上司達の事を思い出しながら、クフォーツはイラついた声を上げた。クォーツが怒鳴ると空気がビリビリと振動する。手にしていた端末にも伝わって来た振動を感じながら、カイヤナイトはなるべく気にしないように努めながら言った。
「なんか、承認プロセスを省略する設定にしていったらしいっすよ。」
「なんだそれ?そんな事したら変な申請もなんでもできちまうだろう?」
「権限はタブレットのガード機能で制限されてるから問題ないって言ってましたー!」
「はあ?じゃあ、あいつら仕事って何?」
「仕事は一杯あるじゃないっすか。はぁ~、ヘルプ欲しいっす。赤子の手でも借りたいっす。ヘルプ要請だしますかぁ?」
「とっくに出してる!」
再びクォーツの怒鳴り声で端末がビリビリと振動した。はあ、とカイヤナイトは溜め息をつきかけた。
「そうっすか。‥‥あ!噂をすれば?」
ちらりと視界の端に動く影があった。出入り口から誰かが室内を覗き込んでいる。
「あのー?すいませーん。ここって~‥‥。」
凄く小さい天使が室内に声をかけてきた。
「なんだ?もしかしてヘルプか?」
クォーツが話しかけると、怯えた様子で何か応えているその天使はナノ天使族らしいと、クオーツが言った。巨人のようなギガ天使族のクォーツと比べると、ナノ天使族はまるで赤ん坊だ。
しかもおどおどとしていて見るからに非常に頼りなさそうに見える。
大丈夫かと不安になりながらも、誰でもいいから手も借りたい程の忙しさだったので、受け入れた。ヘルプ要請に応じてやってきた小さい天使に作業を頼む事にした。問題は、どうやら初心者のようだったことだ。とりあえず、上位の承認手続きは省略されているはずだから、下級天使権限での承認手続きだけどんどんやってもらえればいい。「進む」のボタンを押して行ってくれれば良いから指示をだした。
こう言っておけば大体判るだろう。
あまり難しい事を言って、逃げ出されてしまってはたまらないからだ。
執務机の前に座らされた小さい天使・ルチルはキョトンとしながら端末を見つめた。
ちらり、と助けを求めるようにクォーツやカイヤナイトの姿を目で追いかけるが、彼らは既にルチルに構っている余裕はなかった。
「‥‥‥『進む』を押せば良いんだったよね?」
ポチポチポチポチ
ルチルは端末に表示されたボタンを押し続けた。時々「進む」以外のボタンも表示されていたがとにかく押し続けた。
ポチポチポチポチ
そうして、ヘルプで来た小さい天使に仕事をまかせて暫く経った頃、突然室内に大音量でアラートが鳴り響いた。
ブォー!ブォー!ブォー!ブォー!
「何だ!何事だ!」
クオーツが立ち上がった。天井に頭をぶつけそうになって慌てて首を引っ込めた。
カイヤナイトが端末画面を覗き込んだ後、クォーツを振り向いて言った。
「異界間移動事故のようですぅ。」
端末には、異界間流入出のエネルギー量のしきい値超過のアラートが表示されていた。更にどんどんエラーメッセージが出力されている。
「ああ、もう!」
今日は絶対残業になるよなぁ。そんな事を考えながらカイヤナイトはヘルプの小柄な天使に指示を出した。
「はあい」
ルチルは元気に返事をして、ポチポチ押す作業を再開した。
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