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第八章 こころ揺れる
約束
しおりを挟む倒れた原因をただの睡眠不足と言い、明日からまたバリバリ働くつもりでいたエルドリッジは、明け方近くから高くはないが熱を出し、そのまま二日ほど上がったり下がったりを繰り返した。
ジュヌヴィエーヌは宣言通りに学園を休んでエルドリッジの看病をし、エティエンヌは宣言なしだが同じく休んだ。感染する病気でもないので、昼間はルシアンも付き添った。
オスニエルは父の体調を気にしつつも、父の仕事を減らす為に執務室に向かった。シルヴェスタはと言うと、彼は彼でエルドリッジから頼まれた仕事があるらしくそちらを優先、だが合間によく顔を見せていた。
「はは、両手に花とはこの事だな」
熱が下がり、食欲も出てきたエルドリッジは、ベッドの右と左にそれぞれ椅子を用意して座るジュヌヴィエーヌとエティエンヌを見て笑った。するとすかさずエティエンヌが口を開いた。
「お父さまったら、そんな事言っても誤魔化されませんよ。もう若くないんですから無理は控えてくださいって何度も言ったではないですか」
「うっ、エチ、若くないってそんなはっきり・・・お父さまはちょっと傷ついちゃうぞ」
「だって、お父さまはすぐに無理するんだもの。うんと長生きしていただきたいのに、これでは困ります」
「はは、そうか。ごめんな。これからは気をつけるからさ」
「約束ですわよ?」
「ああ」
エティエンヌが右人差し指を前に出すと、エルドリッジもまた右手を出し、人差し指を鍵のように曲げて娘のそれに絡めた。
これは約束を表す一般的な仕草で、子ども同士や親子でする事が多い。
「約束するよ。これからはちゃんと休憩を取るし、夜もきちんと休む」
「長生きも約束してください」
「はは、そこは・・・そうだな。善処するという事で」
条件を決めれば、後は絡めた指を数回上下に振り、約束すると誓って指を解いて終わりである。
「次は、ジュジュとも約束してください」
「「え?」」
エティエンヌの言葉に、ジュヌヴィエーヌとエルドリッジの声が重なった。
「当たり前でしょう? ジュジュにもすごく心配をかけたんですよ。倒れた日にたくさん泣かせて、ジュジュの目が腫れちゃったのをもうお忘れですか?」
「わ、分かったよ・・・じゃあジュジュ、いいかい?」
エルドリッジが体勢を変え、ジュヌヴィエーヌの方へと右人差し指を差し出した。
「同じ事を約束すればいいかな。休憩を取ってちゃんと眠る、約束するよ」
「はい・・・あ、それと、私ももう一つよろしいでしょうか」
絡めた指と指が気になって、チラチラと視線を向けながら、ジュヌヴィエーヌは口ごもった。言っていいのか自信がない。図々しいと思われないだろうか。そう不安になるも、今回エルドリッジが倒れた事は思った以上にジュヌヴィエーヌにショックを与えた。それならやはり言ってしまおう。
「うん?」
「あの、こんな私ではあまり役に立てないかもしれませんが、どうか全てご自分で背負う事をせず、私にも頼ってください。私は貴方の側妃なのですから」
側妃という肩書きがある今だけでも、エルドリッジの助けになりたいと、そう思い、絡めた指に力を込める。
後は「約束する」のひと言を聞いて、数回上下に振って放すだけ。
「・・・約束する」
「はい、お願いします」
図々しい願いを口にしてしまったと、気恥ずかしくて顔を俯けていたから、ジュヌヴィエーヌは気づかなかった。
エルドリッジの耳が赤くなっていたこと。
二人の様子を見ていたエティエンヌが、目をまん丸にして頬を染めていたことに。
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