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第八章 こころ揺れる
破壊される
しおりを挟むエルドリッジが倒れたのは昼前で、目を覚ましたのは日付けが変わって、あと数時間で夜が明けるという頃。
シルヴェスタやエティエンヌ、ルシアンも加わって、組になったり交代したりしながらエルドリッジを看病し、ジュヌヴィエーヌは約2時間前にエティエンヌと代わったところだった。
すぐに皆を呼びたいが、まだ夜明け前。
ジュヌヴィエーヌはエルドリッジが目覚める瞬間に偶然立ち会えた事を喜びつつ、まずは倒れたと聞いてからずっと考えていた事を伝えようと口を開いた。
「・・・エルドリッジさま。私、学園に行くの止めます」
「え?」
「エルドリッジさまのお言葉に甘えて学園に通わせていただきましたけれど、明日からは私にも執務のお手伝いをさせてください」
これに慌てたのがエルドリッジだ。
オスニエルに頼まれたからでもあるが、ジュヌヴィエーヌが学生に戻るよう手配したのは、エルドリッジとしても年相応の楽しい思い出をジュヌヴィエーヌに作らせてあげたかったから。
そして、彼女はいずれ手放すであろう仮初の側妃だという現実を、自分に改めて突きつける為でもある。
「ジュジュ、僕なら大丈夫だから。眠ったせいか、だいぶ気分もよくなったし・・・」
「嫌ですわ」
マナーに反すると分かっているが、ジュヌヴィエーヌは言葉途中でエルドリッジを遮った。
いつも礼儀正しく、もの静かに話すジュヌヴィエーヌには珍しい。エルドリッジは目を大きく開いてエティエンヌを見つめた。
「私程度の者がひとり増えたとして、エルドリッジさまが楽になるなどと自惚れてはおりません。雑用くらいしかお手伝い出来ませんし、前の時も実際に出来ませんでしたし・・・でも、それでも、エルドリッジさまのお側にいたいのです」
執務のお手伝いの話であって、何か深い意味が込められている訳ではない。分かっていても、エルドリッジはジュヌヴィエーヌの言葉を聞いていてつい別の意味合いを連想してしまい、軽く動揺した。
「・・・っ、ジュジュ。ええとね、気持ちは嬉しいけど、せっかくの学園生活だよ? 僕なら大丈夫、寝て少しスッキリしたから、明日からまたバリバリ働けるし」
「だからです。エルドリッジさまがまたバリバリ働こうとするのが分かっているから、お側にいたいとお願いしているのです。ずっと側にいて、エルドリッジさまを見張らせていただくのですわ!」
「み、見張る・・・」
少しばかり物騒な表現をエルドリッジが繰り返すと、ジュヌヴィエーヌは今も涙で潤む目でエルドリッジを睨んだ。
「そうです。しっかり見張って、エルドリッジさまには適宜休憩を取っていただきます! 覚悟してください、絶対にお側を離れないんですからね!」
口調は少しキツめで、キッとエルドリッジを睨みつけているけれど、残念ながら攻撃力はない。いや、別の意味で破壊力が抜群かもしれないが。
「えっと、でもね、ジュジュ・・・」
「聞きません! エルドリッジさまが嫌だと仰っても私は絶対にお側を離れませんわ!」
「いや、だからさぁ・・・」
何やら胸にドキュンと放たれてしまったエルドリッジは、右手で胸を押さえて小さく呻いた。
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