75 / 99
第七章 恋の花は咲きますか?
ざわめきの理由
しおりを挟む―――これも、マルセリオのファビアンさま対策なのかしら?
差し出された手を眺めながら、ジュヌヴィエーヌはそんな事を考えていた。
何故なら、今度はオスニエルからダンスを申し込まれたからだ。
ゼンがエティエンヌにぎこちなくダンスを申し込む様子を微笑ましく眺めていた筈が、気がつけばジュヌヴィエーヌの前にオスニエルがいて、手を差し出されていた。
動揺し、兄バーソロミューにちらと視線を向ければ、兄は兄で既に令嬢たちに囲まれていた。
いや、よく見れば、令息たちも遠巻きにジュヌヴィエーヌたちの様子を窺っている。
オスニエルの誘いがなければ、恐らくその令息たちがダンスを申し込みに来るだろう。
なるほど、これはオスニエルの配慮なのだとジュヌヴィエーヌは判断し、ありがたくダンスの誘いを受けた。
フロアには、ダンスの誘いが成功したのか、エティエンヌとゼンがホールドを組んでいる。微妙に距離が離れて見えるのは、まあご愛嬌だ。
エティエンヌとゼンは元々が婚約者候補同士、周囲が妙にざわつくのは二人の仲を心配しての事なのか。
ジュヌヴィエーヌもまたフロア中央でオスニエルとホールドを組む。その時、ひときわ大きなざわめきが起こった。視線だけを周囲に巡らせ、ざわつきの理由の一つを理解した。
バーソロミューがひとりの令嬢と共にフロアに来たのだ。
緩やかにウェーブのかかった真っ赤な髪の麗しい令嬢。確かあの方は・・・とジュヌヴィエーヌは記憶を探り。
「・・・テレサ嬢?」
どこか呆然と令嬢の名を口にしたのは、ジュヌヴィエーヌではなく、オスニエルだった。
そんなテレサは、バーソロミューと踊れるのがとても嬉しいようだ。溢れんばかりの笑みで、彼の腕に手を置いている。
それからも数組が進み出、それぞれがホールドを組む。やがて音楽が流れ出し、フロアに色とりどりの花が舞い始めた。
オスニエルのリードは、エルドリッジやバーソロミューのそれより少し荒く力強く、彼の一本気な性格を感じさせた。
エルドリッジのリードはどこまでも優しく丁寧で、バーソロミューのそれは堅実で慎重。
ダンスで性格を察する事が出来るなんて、とジュヌヴィエーヌの口元は微かに綻んだ。
エティエンヌと踊るゼンは、なんとか冷静さを保てているのだろう、ステップを踏み間違えてはいないようだ。
少しカチコチの感は否めないが、曲が流れる前よりは、二人ともに顔の強張りが解けてきていた。
「ゼン、ちょっと頑張ったよな」
ジュヌヴィエーヌの視線の先にいる二人に気づいたのだろう、オスニエルがこそっとジュヌヴィエーヌの耳元で囁いた。
それが意外と近すぎて、ジュヌヴィエーヌの耳朶がオスニエルの呼気の振動を捉える。思わずジュヌヴィエーヌの身体がふるりと震えた。
「え?」
それに驚いたのは、何故かジュヌヴィエーヌではなくオスニエル。
ジュヌヴィエーヌは顔を赤くして少し俯き、オスニエルの視線から逃げた。
「・・・」
「・・・」
暫し、沈黙が続く。
けれど、長年ダンスレッスンをしっかりこなしてきた二人の足は、どれだけ動揺してもステップを正確に踏み続けたのだった。
「いやぁ、若いですなぁ」
壇上で王座に座るエルドリッジの斜め後ろ。
赤面しながら踊る初々しい二人を見て、ぽそりと呟いたのは宰相のホークスだった。
55
お気に入りに追加
1,672
あなたにおすすめの小説
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~
真曽木トウル
恋愛
「アルヴィナ、君との婚約は解消するよ。君の妹と結婚する」
両親から冷遇され、多すぎる仕事・睡眠不足・いわれのない悪評etc.に悩まされていた王女アルヴィナは、さらに婚約破棄まで受けてしまう。
そんな心身ともボロボロの彼女が出会ったのは、和平交渉のため訪れていた10歳上の敵国将軍・イーリアス。
一見冷徹な強面に見えたイーリアスだったが、彼女の置かれている境遇が酷すぎると強く憤る。
そして彼が、アルヴィナにした提案は────
「恐れながら王女殿下。私と結婚しませんか?」
勢いで始まった結婚生活は、ゆっくり確実にアルヴィナの心と身体を癒していく。
●『王子、婚約破棄したのは~』と同じシリーズ第4弾。『小説家になろう』で先行して掲載。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~
氷雨そら
恋愛
幻獣を召喚する力を持つソリアは三国に囲まれた小国の王女。母が遠い異国の踊り子だったために、虐げられて王女でありながら自給自足、草を食んで暮らす生活をしていた。
しかし、帝国の侵略により国が滅びた日、目の前に現れた白い豹とソリアが呼び出した幻獣である白い猫に導かれ、意図せず帝国の皇帝を助けることに。
死罪を免れたソリアは、自由に生きることを許されたはずだった。
しかし、後見人として皇帝をその地位に就けた重臣がソリアを荒れ果てた十三月の離宮に入れてしまう。
「ここで、皇帝の寵愛を受けるのだ。そうすれば、誰もがうらやむ地位と幸せを手に入れられるだろう」
「わー! お庭が広くて最高の環境です! 野菜植え放題!」
「ん……? 連れてくる姫を間違えたか?」
元来の呑気でたくましい性格により、ソリアは荒れ果てた十三月の離宮で健気に生きていく。
そんなある日、閉鎖されたはずの離宮で暮らす姫に興味を引かれた皇帝が訪ねてくる。
「あの、むさ苦しい場所にようこそ?」
「むさ苦しいとは……。この離宮も、城の一部なのだが?」
これは、天然、お人好し、そしてたくましい、自己肯定感低めの姫が、皇帝の寵愛を得て帝国で予定外に成り上がってしまう物語。
小説家になろうにも投稿しています。
3月3日HOTランキング女性向け1位。
ご覧いただきありがとうございました。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる