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第七章 恋の花は咲きますか?
バーソロミューの婚約者事情
しおりを挟む「そうか。ジュジュは今回は隣の部屋には移って来ないのか。残念だが仕方ない」
久しぶりに妹と再会したバーソロミューは、そう言って残念がった。
ジュヌヴィエーヌとしても、今回も隣室で兄と過ごせると思っていたのだ、思わず苦笑してしまう。
「まあ、お前はアデラハイム国王エルドリッジ陛下の側妃。前回が異例だったのだろう。部屋を離したくないというのは、お前を離したくないという陛下のお気持ちでもあるのかな」
「お兄さまったら」
形だけの側妃として嫁いだ事を知っている筈の兄が、愛されているなどと言うとは。
「揶揄うのはおやめくださいませ。確かにここで私はとても大切にしていただいておりますが、お兄さまの仰るお気持ちとは違いますわ」
自分でそう言っておきながら、つきりと胸が痛んだ事に、ジュヌヴィエーヌは戸惑った。
マルセリオ王国のファビアン王太子の手から救出してもらえて、エルドリッジを始め、オスニエルやエティエンヌらに大切に扱ってもらっているのに、なぜ胸が痛むのか。
「ジュジュ?」
「・・・何でもありませんわ、お兄さま。私のことよりお兄さまこそどうなのです? まだ婚約者はお決めにならないのですか?」
そう、ハイゼン公爵家の嫡男であるバーソロミューは、今年でもう22になるというのに、まだ婚約者を決めていない。
ジュヌヴィエーヌの悪役令嬢問題もあって、ハイゼン公爵家の全員がその対策に走り回っていたせいもあるだろうが、ジュヌヴィエーヌがアデラハイムに行って1年以上経っている。そろそろ自分の事を考えてもいいのでは、とジュヌヴィエーヌは思うのだ。
「お兄さまは、ハイゼン家を継ぐ身なのですから」
「分かっているさ。だがタイミングとしてはもう少し先かな。ファビアン殿下はともかく、陛下はもう殿下に側妃を当てがう事を考え始めている。普通なら、これ以上うちの神経を逆撫でするような事はしないと思いたいところだが」
「まさか・・・」
「あの陛下に限っては何を言い出すか分からない。優秀な婚約者を得たとしても、法を盾に掻っ攫われたら敵わないし、逆にその心配がない令嬢をわざわざ迎えるのは馬鹿らしい」
だから最近、年頃の優秀な令嬢は留学するケースが増えている、とバーソロミューは続けた。
ジュヌヴィエーヌとしては何とも返事に困る話だ。
自分が側妃にさせられる運命から逃れたせいで、とつい考えてしまいそうになるが、たぶんそういう問題ではない。
マリアンヌさえ、真剣に王太子妃教育に取り組んでくれたらいい話なのだ。
―――でも、そこには考えが向かないのでしょうね。陛下もファビアンさまも。
ジュヌヴィエーヌは、はしたなくも大きな溜め息を抑えられなかった。
女性に比べ、男性の結婚適齢期はかなり長い。
兄がもう少し先と考えるのは仕方ないとして、留学などに逃げている令嬢たちにとっては切実な問題だ。
たぶん留学先で縁談を探す令嬢は少なくない筈。そうなるとマルセリオ王国内で相手探しに苦労する貴族家が増える訳で。
だがそれでは王家への不満が募る原因に繋がってしまう―――
「・・・ジュジュ」
昔のクセで、ついマルセリオ国内の情勢について考えそうになって、けれど兄からの呼びかけにハッとする。
視線を向ければ、バーソロミューは何やら言いづらそうに暫し口ごもり、けれど漸く意を決して口を開いた。
「聞きたい事がある」
「なんでしょうか」
「・・・ジュジュは、エルドリッジ陛下から随分と大切にされているようだが、もしかしてあれを・・・あの薬を使ったのか?」
「あの薬?」
「その、あれだ、お前が魔女に頼んで手に入れた・・・秘薬の・・・」
「え?」
一瞬、何を言われているのか分からず、ぽかんとしていたジュヌヴィエーヌは、兄の言っているのが魔女に頼んで作ってもらった惚れ薬の事だと気づき、慌てて首を横に振った。
「ま、ま、まさか! 使ってません! 使っていませんわ!」
「っ、そうか」
バーソロミューは安堵したのか、吐いた息と共に大きく肩が下がった。
「安心した。エルドリッジ陛下はお前に心を向けているようだから、もしやと少し心配になって」
「心を向けるなんて、そんなこと・・・」
兄の台詞に心が煩く騒ぎ始めたが、その前に魔女の秘薬について口にした事が気になった。だがすぐに理由を悟る。迷いの森への魔女訪問は、侍女や護衛を引き連れて向かった。父や兄が知っていて当然だったとジュヌヴィエーヌは思い出した。
そうなると、これも自白しておいた方がいいのではないだろうか、とジュヌヴィエーヌは意を決して口を開いた。
「あ、あの」
「うん? どうした、ジュジュ」
「自分で、飲もうとして・・・阻止されました」
「? 今なんて?」
「・・・魔女の秘薬を、自分で飲もうとしたんです。それを、エルドリッジさまに止められましたの」
「・・・・・・はあぁぁっ?!」
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