62 / 99
第六章 続編のヒロイン来たる
一緒に
しおりを挟む今回、ジュヌヴィエーヌがエルドリッジに頼まれていたのは、ある意味、偵察のようなものだった。
国を混乱に陥れる可能性がある存在として警戒していた七彩に関して、エルドリッジは対応策を複数用意していた。そのどれもが、最終的にはヒロインの影響を最小限に抑え込むもので、ぶっちゃけて言うなら排除目的だった。
それが実際に七彩がアデラハイムに現れてみれば、彼女の言動は予想と全く違っていた。
「・・・私に手を差し伸べてくださったのはエルドリッジさまです」
小声で、でも早口でジュヌヴィエーヌが答えると、七彩は「やっぱり」と呟いた。
「神殿の動きはほぼ物語のまんまだけど、王家の反応は違ってるから、もしかしてって思ってた」
「ニャナリロさまの世話をしている下女と、その兄君である平神官のアムナスハルトさま。この2人がエルドリッジさまの協力者です。神殿で何かあった時は、この2人を頼ってください」
「アネロナと・・・アムナスハルトだね。分かった」
視界の端、対面の場の立会いに来ていた神官が、時間を確認するのが見えた。
ゆっくり説明している時間はない、そう思ったジュヌヴィエーヌは、「手紙をくださいませんか」と囁いた。
「手紙?」
「ええ、私も書きますわ。エルドリッジさまたちにも、あなたの事情はお伝えしておきますし、役からの脱却、一緒に頑張りましょう」
「一緒に・・・うん、分かった。ありがとう」
そう言って七彩がぎこちなくも微笑を浮かべた時、遠くから、「そろそろお時間です」と声がかかった。
それを合図に、神官や侍女、護衛騎士たちが、わらわらとこちらに向かって歩いて来た。
彼らが近くにくる前に、七彩がジュヌヴィエーヌの耳元に顔を寄せ、ぽそりと囁いた。
「ずっとあの話を読むたびに悪役令嬢の方がよっぽど魅力的だって思ってたんだ。よかった、その通りで」
「・・・っ、まあ、それは、お褒めにあずかり光栄です」
耳元で誉め言葉を囁かれ、ジュヌヴィエーヌが少し照れながらお礼を言うと、七彩は真面目な視線をジュヌヴィエーヌに向けた。
「・・・ねえ、今度、一緒に名前考えて?」
「え・・・?」
「ナナじゃない名前で、ジュジュが呼びやすいやつ」
「それは・・・」
「ニャニャーリョさま。参りましょう」
ジュヌヴィエーヌが返事をするより前に、七彩は神官たちに囲まれ、退席を促されてしまう。
七彩は最後ににこりとジュヌヴィエーヌに笑いかけると、ゆっくりと神殿に向かって歩き始めた。
最初にこの場に現れた時と違い、少し落ち着きを感じさせる後ろ姿。
それを見送ったジュヌヴィエーヌは一つ息を吐くと、 帰ったら早速エルドリッジたちにこの事を報告しなくては、と気を引き締めた。
それから5日後のこと。
ジュヌヴィエーヌの提案通り、七彩からアネロナを通して手紙が送られてきたのだが。
「・・・なにかしら、これ。どういうことかしら。え? 私はどうしたらいいのかしら?」
届いた手紙を開封したジュヌヴィエーヌは、困り果てることになった。
何故ならその手紙には、ジュヌヴィエーヌが見た事も聞いた事もない。、全く未知の文字が書かれていたから。
75
お気に入りに追加
1,688
あなたにおすすめの小説
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる