私に必要なのは恋の妙薬

冬馬亮

文字の大きさ
上 下
26 / 99
第四章 恋のつぼみ

違うところは

しおりを挟む



「・・・ホークス」

「なんでしょう」

「いきなり大人数だと気を使うから、小さな茶会とかで少しずつ顔を広げていく様にしろって、僕は言ったと思うんだけど」

「まあ、そうですね」

「それが、なんでこんな大掛かりな茶会になったんだろうな」


エルドリッジの口調がちょっと荒んでいるのは、目の前に広がる光景のせい。

王城の庭を開放して催された茶会の席、多くの国内貴族たちに囲まれ、ジュヌヴィエーヌが談笑しているからだ。


ホークスは肩を竦める。


「仕方ないじゃないですか。いいタイミングで客人がいらしたのですから」


ホークスの視線の先にいるのは、ジュヌヴィエーヌの隣で談笑に加わっている彼女の兄、バーソロミューである。



外相である父ケイダリオンの代理として、半年ぶりにバーソロミューがアデラハイム王国を訪れた。
公式な訪問とはいえ会談等はなく、外交関連の書簡を届けに来ただけ、という使者の立ち位置だ。

故に、夜会などの仰々しい歓迎を辞退したバーソロミューの為に、昼間の茶会を催す事になった。

好きに歩き回れて歓談も自由に出来るガーデンパーティーの形式だ。


そして、ホークスはこれをジュヌヴィエーヌの社交デビューと抱き合わせたのだ。


マルセリオ王国の筆頭公爵家の跡取りであり、今回は外交官として来国したバーソロミュー。
そんな彼の妹として共に登場したジュヌヴィエーヌは、あっという間にたくさんの人たちに囲まれ、現在に至る。



「これはこれでいい方法だと思いますがね。ジュヌヴィエーヌさまに関して、バーソロミュー卿の妹君、他国の公爵令嬢という印象を強く残せますし」


ジュヌヴィエーヌが側妃である事は秘密ではない。
けれど、わざわざ周知させてもいない。
聞かれたら言う、今はそれくらいの扱いだ。


その意味では、なあなあで顔見せが出来る今回の茶会は打ってつけなのだろう。


―――が。


「・・・いきなりの大人数じゃ相当緊張するだろうに。エチの友人たち何人かで、小ぢんまりとほんわかスタートさせてあげたかったなあ」

「見たところ、ジュヌヴィエーヌさまは問題なくこなしておられる様ですが」

「そりゃ王太子妃教育をほぼ終えてるんだから、社交なんてお手のものだろうさ。でもね、迎え入れる側の心遣いっていうものがあるだろう」

「兄君とご一緒のデビューは立派な心遣いでは?」

「・・・そうだけどさ。でも、なんかもっとこう・・・」


横でぶつぶつ文句を言っている主君に聞こえない様に、ホークスはこっそり溜め息を吐く。
こういう時のエルドリッジは少々面倒くさい。
ジュヌヴィエーヌに対して時々発動する『過保護モード』。
こうなると、どうせ何を言っても効果はないのだ。


「・・・ふむ」


何を言っても効果がないのであれば、ちょっと揶揄ってやろうではないか。


『解放してやらねば』とか『出会いの場を』とか色々と言っているけど、実際にそうなったらどう反応するのか。


そう考えたホークスは、会場内に視線を巡らせ、自身の嫡男ゼンを見つける。

視線を感じたらしいゼンが、ホークスのいる方へ顔を向けた。


ホークスはゼンに目配せをした後、視線をジュヌヴィエーヌたちに向ける。それを何回か繰り返した。

ゼンは小さく頷くと、ジュヌヴィエーヌたちがいる方へと歩を進める。

途中で、何人か他の令息たちにも声をかけている様だ。


それを確認してから、ホークスはエルドリッジに向かって言った。


「おや、どうやらゼンも話しかけに行く様ですね。ああ、ホルスロン伯爵令息とラキシュ公爵令息たちも一緒の様ですな」


いかにも『今気がつきました』風である。


「ゼンが?」


エルドリッジは視線を上げ、ジュヌヴィエーヌたちを見遣る。


「ホルスロンとラキシュのところの・・・」


彼らに釣られる様に、さらに別の令息たちがその後ろに加わる。


「おやおや、どんどん人が増えていきそうですよ。ジュヌヴィエーヌさまがお美しいから、令息たちもソワソワしているではないですか」


いい出会いがあるといいですね、とホークスが続ければ、エルドリッジは何故か眉を顰める。


「・・・ちょっと想像していたのと違う」


そして、「だから小ぢんまりと始めたかったんだよ」とまたしても呟いた。



ちょっと拗ねぎみで。












しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

処理中です...