私に必要なのは恋の妙薬

冬馬亮

文字の大きさ
上 下
8 / 99
第二章 あなたは悪役令嬢でした

謁見

しおりを挟む



約2週間の旅程を経て到着した、アデラハイムの王城。


宰相ホークスの出迎えを受けたジュヌヴィエーヌと兄バーソロミューは、国王が待つ謁見の間へと案内された。


侍従の案内の声と共に、謁見の間の扉が大きく開かれる。


ジュヌヴィエーヌは兄に伴われ、アデラハイム国の王に拝謁すべく歩を進めた。


最奥の玉座に座るのは、国王エルドリッジ。
その右と左に合わせて4人の若い男女―――そのうちの一人は少年で、もう一人はまだ幼い子どもだが―――が立っている。恐らく王子王女たちだろう。

さすがは王族、タイプは異なるが、いずれも美男美女ばかり。ずらりと並ぶ彼らの姿は、圧倒的とも言えた。


コツ、コツ、とバーソロミューとジュヌヴィエーヌの靴音が響く。


広い謁見の間が閑散として見える程に、そこにいた人達は少なかった。
国王と王子王女たちを除けば、城の入り口でジュヌヴィエーヌたちを出迎えた宰相ホークスと、年配の侍従が1人、あとは大臣と思わしき壮年の男性が2人ほどいるだけ。

だがそれは、ジュヌヴィエーヌ側も変わらない。彼女の隣には兄バーソロミュー、そして背後に護衛がひとり立っているだけだから。


ジュヌヴィエーヌはもちろん、これが初婚だし、王太子妃教育は最終部分に差し掛かる直前まで受けたものの、側妃に関する知識は政治的な立ち位置や役回り以上に知っている事はほぼない。
受けたのは王太子妃となる為の教育であって、側妃になる為ではなかったから。

故にこの現状が―――側妃としての初の顔合わせが、このような少人数で行われるのが通常の事なのか、全く見当がつかなかった。


だけど、これはまるで。


ジュヌヴィエーヌは思った。


側妃としてのジュヌヴィエーヌの存在を、王城内の人間になるべく知らせないようにしているかのようだ。


「・・・」


不安を感じたせいだろう、ジュヌヴィエーヌの手が、再び無意識にポケットに触れる。


ジュヌヴィエーヌの父は、この結婚はエルドリッジの方から望まれたと言っていた。

でも本当に? 父の思い違いではなく?

もし望まれていたとしても、もしかしたら、それは国同士の繋がりが欲しかっただけかもしれない。

丁度そのタイミングで婚約を解消された、謂わば傷物のジュヌヴィエーヌが、異国に差し出すのに打ってつけだっただけで。



・・・いえ、今そんな事を考えても意味はないわ。


ジュヌヴィエーヌは魔女の秘薬をーーー彼女の希望を思い出す。


大丈夫。

今度は『まがいもの』にならない。

その為に、迷いの森に行ったのだから。



ジュヌヴィエーヌとバーソロミューは、玉座より少し手前で足を止める。


そしてバーソロミューが礼を取るのに合わせ、ジュヌヴィエーヌも膝を折り、カーテシーをした。


「面をあげよ」


低く、柔らかな声が聞こえる。


「行ったり来たりで大変だったな、ハイゼン小公爵。長旅続きで疲れたろう」


親しみのこもったエルドリッジの挨拶に、兄はこれが初対面ではなかったのか、とジュヌヴィエーヌは驚く。

すると今度は、エルドリッジがジュヌヴィエーヌに向かって旅を労う言葉をかける。

そして「よく来てくれた」とも。


少なくとも、ジュヌヴィエーヌがこの国に来た事を嫌がられていない。


その事にほっと安堵すると、ジュヌヴィエーヌは漸く、エルドリッジの顔を真っ直ぐに見上げる事が出来て。


その時初めて、彼のトパーズの瞳と、ジュヌヴィエーヌのアメジストとが交差した。






しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

処理中です...