【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです

冬馬亮

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あなたを愛して本当に良かった

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「今朝もよく頑張ったね、アーティ」


朝の分の薬を飲み込んだベアトリーチェに、エドガーは柔らかく微笑みかける。

ベアトリーチェの方といえば、薬が苦すぎて微笑み返す気力もない。飲んだ後、暫くの間は悶絶するばかりだ。


新薬を服用し始めて四か月。

ベアトリーチェの血液成分値は安定し始めていた。


「国王陛下も、新薬の効果にご興味を示してらっしゃるそうだよ。レンがそう言ってた」

「でも、どうして陛下が?」


水で口をゆすぎ、飴を舐めて口直しをしたベアトリーチェが、不思議そうに首を傾げた。


「僕もレンに聞くまで知らなかったんだけどね」


エドガーは、カップにゆっくりと口をつける。


「前の国王陛下の末の妹殿下がアーティと同じ病気だったんだって。で、前陛下は歳の離れたその妹姫を殊の外、可愛がっておられたそうだよ」

「末の妹姫さまが・・・」

「うん。十七になる直前に亡くなられたらしい。だから、前陛下にとって新薬の完成は悲願だったんだって。陛下はそのお気持ちを受け継がれたようだよ」

「そうだったの・・・」

「ねえ、アーティ」


エドガーはカップを置くと、ベアトリーチェの手を両の手で握り込んだ。


「僕は今、何の爵位も持っていない。ノイスさまはストライダム家が所有している爵位を譲ってもいいって言ってくれるけど、僕は出来れば自分の力で爵位を得たい。それから君を妻に迎えたいんだ」

「エドガー、さま」


頬を染めるベアトリーチェの額に、エドガーはそっと唇を落とす。


「少し時間がかかるかもしれない。でも・・・待っててくれる?」

「・・・」


ベアトリーチェは胸がいっぱいで言葉が出て来ず、ただ黙って頷いた。


「ありがとう」


ふわりと笑うエドガーのその言葉に、今度はベアトリーチェは首を横に振る。


感謝したいのは、ベアトリーチェの方だ。


巻き戻り前も、巻き戻り後も。


エドガーは変わらず、ベアトリーチェのことを、ベアトリーチェを生かすことだけを考えて生きてくれた。

自分は、その深い想いに気づいてすらいなかったのに。


・・・私の方こそ、ありがとう。

こんな私を、愛してくれて。
愛してくれて、ありがとう。

あなたを好きになって、愛せて、本当に良かった。


そう言いたくて、でも今はただ涙が溢れてきて。

何も言えないまま、ベアトリーチェは両手をエドガーの背に回してぎゅっと抱きしめた。





ナタリアは、看護師としてストライダム騎士団専用の医務室で頑張っている。ノイスなりの恩返しとして提供した職のようだが、結果的には吉と出たようだ。

晴れてお付き合いを始めたらしいナタリアとニコラスは、恥ずかしそうに顔を赤らめながらベアトリーチェの元に報告に訪れた。

ニコラスは昇進を目指して鍛錬に更に熱心に励むようになった。最近、少し大きめの家に引っ越したらしい。気が早いのではとレンブラントに揶揄われていた。

ナタリアの弟フリッツは今、十一歳。姉が王都に戻って来たことを心から喜び、ストライダム邸を時々訪問して姉と会っている。




レオポルドは、完全復興を遂げたライナルファ侯爵家の実業面での執務を少しずつ任されるようになり、以前のような軽挙もほぼ見られなくなった。

卒業を一年半後に控えた彼の婚約者メラニーは、毎週末には花嫁修行のために邸を訪れる。レオポルドは婚約者との時間を何よりも大切にし、ゆっくりと愛を育んでいる。

今では政略結婚の典型だと揶揄する貴族たちも殆どいない。




ドリエステとの国境近くに、小さな商会が一年ほど前に誕生した。
新参ながらその活躍には著しいものがあり、数か月後には第二支店を展開するという。

その話題の商会の会頭を務める男が、かつてあのレジェス商会でアレハンドロの右腕として働いていたザカライアスであることは、知る人ぞ知る事実となっている。



だが、アレハンドロに関しては。

ザカライアスも、またレンブラントも彼について頑なに口を噤んでおり、アレハンドロのその後について知る者はいない。











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