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やっとその気に

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・・・話って何かな。

どうせすぐにライナスから聞くことになるのに、ルナフレイアはついついそんな事を考えた。

王城敷地内の騎士寮に帰ればいいだけのライナスが、わざわざロッテングルム家までルナフレイアを送ると言う。

何か重要な話?
それとも何か言いにくい事とか?
まさかお説教じゃないよね?
ひとりで飛び出して行くなんて無茶するな、とか。

ううん、分からないな。
どれかしら。

そうしてルナフレイアは、馬車に乗り込むとすぐに大人しくライナスの言葉を待ったのだが。

「・・・」
「・・・」

ライナスバージは黙り込んだまま、一向に口を開く気配がないのだ。

・・・なによ、この沈黙。
話があるって、言ってたわよね?

空耳とかじゃなく、確かに言ってたよね?

「ええと、ライナス?」
「ん?」
「あの、話があるって言ってたよね?」
「・・・ああ、うん」

ぽりぽりと、短い茶髪を掻きながら、ええと、ともじもじして。
そして漸く口にした言葉は。

「オレ、殿下の結婚式が終わったら、一度領地に帰ろうと思って」
「・・・え?」

それって・・・。

「姉さまに・・・会うの?」

恥ずかしそうにこくりと頷く。

「勝負、してくる」
「・・・」
「ぶちのめして、権利をもぎ取って、そんで嫁になって貰う」
「・・・そっか」

ルナフレイアは大きく溜息を吐いた。

「やっとその気になったか・・・このバカ兄」
「バカは酷いな。・・・いや、酷くないか。本当、バカだったもんな」
「そうよ。この大バカ兄」
「うわっ、ホントお前、容赦ねぇな」

笑いながらも眉が下がっているライナスに、ルナは軽く睨むような視線を送る。

「容赦する訳ないでしょ、十年近く拗らせといて。言っとくけどね、普通に勝ったって、姉さまは簡単にOKしてはくれないわよ?」
「わ、分かってるよ」
「相当カッコよく勝たないと、ねぇ?」
「分かってるって」
「ふうん。本当かしら」

焦った様子の従兄弟を揶揄って、ルナフレイアも少しばかり溜飲が下がったのだろうか、ふ、と息を吐いて背もたれに寄りかかる。

「私に話したって事は、カーン伯父様にはもう言ってあるのよね?」
「ああ」
「そっか」

ここでやっと、ルナは安心したような笑顔を見せた。

「ライナス兄さま、せいぜい頑張ってね。姉さまは強いわよ?」
「・・・おう」

力なく頷いてから、はっと我に返ったようで慌てて口を開いて。

「任せとけ」と力強く言った。

「もう、なんだか頼りないなぁ」なんて揶揄われて。
ガタゴトと揺れる馬車の中、お互いに笑いあった。

そしてその後。

小さな声で「だから」と続いたのは、車輪の音が煩い馬車の中では聞こえていたかどうか。

「・・・だからお前も、好きな奴には好きって言っていいんだぞ」

そう聞こえたのは、気のせいだったのだろうか。

願望かもしれないし、空耳かもしれない。
勇気をくれる一言が欲しかった自分の想いが、そう聞こえさせたのかもしれない。

そう、思って。
ちょっと自信がなかったから、ルナフレイアは曖昧に微笑むだけに留めることにした。

そうね。
領地に帰ったら、きっともう会う機会も無くなるもんね。

だったら帰る前、その最後の日くらいだったら、好きだって言ってみてもいいかもしれない。

・・・きっとまた、ベルフェルトさまは困ったように笑うんだろうなぁ。

そんなことを思って、ルナフレイアは笑った。

・・・眉尻を下げながら。

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