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これで最後
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レオンハルトは穏やかに微笑んでいた。
「よくわかったよ、エレアーナ嬢。はっきりと答えてくれてありがとう」
「いえ、わたくしこそ・・・これまでの殿下の優しいご配慮に感謝しております」
「・・・」
これ以上、この方の優しさに甘えてはいけない。
そう思っての敬称だった。
婚約者候補としての立場を降りるのであれば、きちんとけじめをつけなければ。
次に殿下がお選びになった方のために。
その方があらぬ心配をなさらぬように。
自分は一令嬢にすぎないと、親しさを期待する立場にはもういないと、わきまえなければ。
そう思って。
その気持ちは、殿下に伝わったのかもしれない。
少しだけ、目を細めて、でも眉尻は少しだけ、下がって。
笑ってるのに、少し悲しそうだったから。
もう私たちの間には何もないのだと、再確認するように。
「・・・ねぇ、エレアーナ嬢。初恋が君だったなんてさ、僕も随分と見る目がある男だと思わないかい?」
「え・・・?」
そう言うと、殿下は屈んで私の手の甲に口づけを落とされた。
「殿下・・・」
「ふふ、だからね、僕が次に見つける女の子は、きっと君に負けないくらい素敵なご令嬢の筈だよ」
「・・・」
「だろう? エレアーナ嬢」
「・・・いえ、きっと、その方はわたくしなど到底敵わないような素敵なご令嬢に違いありませんわ」
こんな場面でさえ誰かを気遣うことを優先する殿下は、意地の張り方まで愛情に溢れていて。
「・・・大好きだったよ」
「誠に光栄なことにございました、殿下」
ゆっくりと、殿下は私の手を離した。
「・・・じゃあ、ケインを呼んでくるから、ここで待っててくれるかな」
「はい」
「僕たちはそのまま王城に戻るから。・・・それじゃね、エレアーナ嬢」
「ごきげんよう、レオンハルト殿下」
温室を出て行く後ろ姿に。
ドレスを持ち、膝を折った。
私などに目を留めてくださった、心優しい王太子殿下に、最大限の敬意を込めて。
◇◇◇
エレアーナに別れを告げて温室の外に出ると、ケインバッハが少し離れたところに立っていた。
「お待たせ、ケイン」
笑顔で話しかけたつもりだけど。
ちゃんと、笑えてるかな。
「話は終わったから、僕はもう行くね。ルシウス卿たちが来られるまで頼んだよ」
「・・・ああ」
何の話かは察しがついているだろう。
瞳が微かに揺れている。
・・・ケイン。
謝ったりするなよ。
そんなことをしたら、いくら君でも、僕は殴るかもしれないぞ。
あの時、君を引っ張り出したことを後悔なんてしてないんだから。
僕が前を向くには、ああするしかなかったんだから。
「じゃあね。・・・。行こう、ライナス」
「はい」
そんな事を考えながら、僕はその場を後にした。
ケインの視線を背中に感じながら。
一歩一歩、僕たちはそこから離れて行く。
「・・・」
ケイン。
君なら。
僕の気持ちが分かるだろう?
僕に言ってはいけない言葉と、僕が君に望んでいる言葉が分かるだろう?
これで最後なんだ。
早く言えよ。
間違えたりするんじゃないぞ。
「レオンハルト」
待っていた呼びかけに足を止める。
僕はゆっくりと振り向いた。
目に映るのは、真っ直ぐに僕を見つめる親友の姿。
僕の大好きだった女性を、唯一、託せると思った男。
「・・・任せろ」
そんな声が静かに響いて。
正解だ。
僕は思わず、苦笑が溢れた。
「うん。・・・頼んだ」
それだけ。
それだけのやり取りを交わして、僕は再び歩き出した。
後は前に進むだけだ。
そう思うと、歩を進める足がどんどん速まる。
ふと、斜め後ろにいたライナスが、振り返った気配がした。
わかってるよ、ライナス。
ケインのことだ。
臣下の礼を取っているんだろう?
だからさっさと歩かないとね。
きっとケインは、僕の姿が見えなくなるまで、礼を取り続けるから。
僕は、最後まで振り返らなかった。
ただ真っ直ぐに前を見て歩を進め続けた。
そうして、今日、僕の初恋は終わりを告げた。
「よくわかったよ、エレアーナ嬢。はっきりと答えてくれてありがとう」
「いえ、わたくしこそ・・・これまでの殿下の優しいご配慮に感謝しております」
「・・・」
これ以上、この方の優しさに甘えてはいけない。
そう思っての敬称だった。
婚約者候補としての立場を降りるのであれば、きちんとけじめをつけなければ。
次に殿下がお選びになった方のために。
その方があらぬ心配をなさらぬように。
自分は一令嬢にすぎないと、親しさを期待する立場にはもういないと、わきまえなければ。
そう思って。
その気持ちは、殿下に伝わったのかもしれない。
少しだけ、目を細めて、でも眉尻は少しだけ、下がって。
笑ってるのに、少し悲しそうだったから。
もう私たちの間には何もないのだと、再確認するように。
「・・・ねぇ、エレアーナ嬢。初恋が君だったなんてさ、僕も随分と見る目がある男だと思わないかい?」
「え・・・?」
そう言うと、殿下は屈んで私の手の甲に口づけを落とされた。
「殿下・・・」
「ふふ、だからね、僕が次に見つける女の子は、きっと君に負けないくらい素敵なご令嬢の筈だよ」
「・・・」
「だろう? エレアーナ嬢」
「・・・いえ、きっと、その方はわたくしなど到底敵わないような素敵なご令嬢に違いありませんわ」
こんな場面でさえ誰かを気遣うことを優先する殿下は、意地の張り方まで愛情に溢れていて。
「・・・大好きだったよ」
「誠に光栄なことにございました、殿下」
ゆっくりと、殿下は私の手を離した。
「・・・じゃあ、ケインを呼んでくるから、ここで待っててくれるかな」
「はい」
「僕たちはそのまま王城に戻るから。・・・それじゃね、エレアーナ嬢」
「ごきげんよう、レオンハルト殿下」
温室を出て行く後ろ姿に。
ドレスを持ち、膝を折った。
私などに目を留めてくださった、心優しい王太子殿下に、最大限の敬意を込めて。
◇◇◇
エレアーナに別れを告げて温室の外に出ると、ケインバッハが少し離れたところに立っていた。
「お待たせ、ケイン」
笑顔で話しかけたつもりだけど。
ちゃんと、笑えてるかな。
「話は終わったから、僕はもう行くね。ルシウス卿たちが来られるまで頼んだよ」
「・・・ああ」
何の話かは察しがついているだろう。
瞳が微かに揺れている。
・・・ケイン。
謝ったりするなよ。
そんなことをしたら、いくら君でも、僕は殴るかもしれないぞ。
あの時、君を引っ張り出したことを後悔なんてしてないんだから。
僕が前を向くには、ああするしかなかったんだから。
「じゃあね。・・・。行こう、ライナス」
「はい」
そんな事を考えながら、僕はその場を後にした。
ケインの視線を背中に感じながら。
一歩一歩、僕たちはそこから離れて行く。
「・・・」
ケイン。
君なら。
僕の気持ちが分かるだろう?
僕に言ってはいけない言葉と、僕が君に望んでいる言葉が分かるだろう?
これで最後なんだ。
早く言えよ。
間違えたりするんじゃないぞ。
「レオンハルト」
待っていた呼びかけに足を止める。
僕はゆっくりと振り向いた。
目に映るのは、真っ直ぐに僕を見つめる親友の姿。
僕の大好きだった女性を、唯一、託せると思った男。
「・・・任せろ」
そんな声が静かに響いて。
正解だ。
僕は思わず、苦笑が溢れた。
「うん。・・・頼んだ」
それだけ。
それだけのやり取りを交わして、僕は再び歩き出した。
後は前に進むだけだ。
そう思うと、歩を進める足がどんどん速まる。
ふと、斜め後ろにいたライナスが、振り返った気配がした。
わかってるよ、ライナス。
ケインのことだ。
臣下の礼を取っているんだろう?
だからさっさと歩かないとね。
きっとケインは、僕の姿が見えなくなるまで、礼を取り続けるから。
僕は、最後まで振り返らなかった。
ただ真っ直ぐに前を見て歩を進め続けた。
そうして、今日、僕の初恋は終わりを告げた。
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