上 下
49 / 256

お前はそれでいいんだよ

しおりを挟む
なんか、今日の展開が凄い。
怒涛の一日ってやつ? 

朝一番に、エレアーナ嬢襲撃事件の首謀者と実行犯とのよくわからない仲間割れの話を聞いたかと思ったら、ラスボスは賢者くずれと対決しなきゃいけないっていうし。
殿下とケインにくっついてブライトン邸に行ったら、エレアーナ嬢のほっぺたは真っ赤に腫れてるし、挙句、殿下は何やら難しい事を言いはじめるし。

オレ、騎士だからね。
難しい話は、あまり、わからないのよ。

というか、剣の話しか興味ないっていうか・・・って、何言い出してんの、殿下?

陛下は、殿下の婚約者をまだ決めるつもりじゃなかったって。

なになに? オレの聞き間違い?

・・・違う。殿下、マジで言ってる。

その後、オレは殿下の言葉から、王族としての覚悟を知った。
正直、そんなに深く、オレたち臣民のことを考えてくれていたなんて、思わなかったから。

なんか、陛下ごめんなさい、ありがとうって感じで。

でも、まぁ、とにかく、殿下の婚約者は、今はまだ、見つけない方が良かったみたいで。
婚約者探しの話を囮にするところを、婚約者本人が囮になっちゃったっていうか。

殿下はそれを、自分の失敗だって謝るんだけど。
ついでに、さらっと真顔でのろけるんだけど。

別に言わなきゃバレなかったのに、って、オレなんかは思っちゃうんだけどな。

なんだろう、やっぱり次期国王として、清廉潔白であろうとしているのか、それとも何か、人としての矜持があるのか。

・・・なんて、真剣に考えてけど、途中からオレ、わかっちゃったんだよね。
これは別に、次期国王として人として云々うんぬんとかじゃなくて(いや、それもあるんだろうけどさ)、ただの男としての意地なんだって。

だって、わざわざ婚約話を白紙に戻すって言うんだよ?
あんだけ、のろけといて。
挙句、白紙に戻したそばから、改めて告白してさ。

ケインに、次はお前の番だって、煽ってるし。

意地っ張りも、ここまでくるとすごいよ。ある意味、尊敬するよ。

ていうか、オレだったら、ライバルにチャンスなんてやらないしね、絶対。
取られたくないもん。

・・・いや、でも。
もしかして、もしかしてだけど。

・・・ホントは、自分よりそいつの方が好きなんじゃないかって、その後も、ずっと心配しながら彼女と一緒にいる方が辛いって、ことなのかな。

・・・うん、それはちょっと、わかるけど。
でも、それでもオレは、ここまで思い切ったことは出来ない、だろうな。

殿下がエレアーナ嬢の前に跪いて、手に取った彼女の髪に口づけを落とす姿は、まるで古代の芸術作品みたいで、なんだか神聖さすら感じて。

わぁ~、絵になるな~・・・なんて感心してたけど。
・・・けど。

今、気づいちゃった。
これ。

ケインもやるの? え? 出来るの?

殿下の愛の告白の後に、こんな照れもなく、さらりと、甘い言葉を囁ける美少年王子の後に、(イケメンだけど)無骨なお前が、告白するの?

えええ~っ? やる? やるの?

ううっ。なんか急に観客気分になってきちゃったよ。
ああ、不謹慎でスミマセン。

どうにも気になって、さり気なく、隣のケインの様子を伺ってみると、・・・なんか固まってるし。

あ~あ、こいつも、気がついちゃったんだな。

どうすんだろ。ここで逃げたら、もう勝負は終わったようなもんだけど。
ていうか、ぶっちゃけ、終わりだけど。

こっちをちらりと見たから、激励を込めて、にっこりと笑ってやった。
なのに、なんでだよ。なんかムッとして、あっち向いちゃうし。

オレ、立場ビミョーなんだからな。
お前のことは可愛い弟分だと思ってるし、でも殿下もなんか応援したくなっちゃうし、それによく考えたら、殿下ってオレの主だし。

お前を応援するのも勇気がいるんだぞ。

・・・なんて思ってたら、来ちゃったよ。順番。

殿下がケインの前に立って、さらに挑発する。
なんだろ。殿下、ここに来て更にひと皮むけた?

甘いだけの雰囲気じゃなくなって。
甘いんだけど、しなやかっていうか。

殿下って、実はすっごいメンタル強い人なんじゃないの?

対するケインは、ギコギコと、音が鳴りそうなくらいのぎこちなさで立ち上がる。

うわ~、大丈夫かよ? お前。

でも、やっぱり殿下は、ケインに弱くて甘い殿下でもあって。

「負けるつもりはないからね。せいぜい格好いい台詞で告白しておいで」

そんな敵に塩を送るような、男らしい激励の言葉で、ケインを煽るのだ。

それを聞いたケインの顔つきが、きゅっと締まる。

レオンからの告白だけで、もう真っ赤っ赤になってるエレアーナ嬢の元に、ゆっくりと歩み寄って、膝を折る。

お前も相当なイケメンだからな。負けず劣らず絵になるよ。

でも、その後が、・・・やっぱり、ケインで。
言葉が、たどたどしくて、途切れ途切れで、なかなか出てこない。

ああ、でもなぁ。
・・・うん、でも、いいんじゃないか。お前は、それで。

ちらり、隣に並ぶ殿下の様子を覗き見る。

うん、思った通り。
なんか嬉しそうに笑ってる。

そうだよ、ケイン。
お前は、それで、いいんだよ。

美しい言葉を流れるように語るよりも、心に浮かんだことを、ひとつひとつ、ゆっくり紡ぎだしていけば。

エレアーナ嬢なら、きっとわかってくれるから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

処理中です...