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赤いほっぺ

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「・・・聞いてもいいかな、エレアーナ嬢。・・・それ、どうしたのかな? ほっぺた、ものすごく赤いんだけど」
「えぇと、その、・・・ちょっと気合を入れようと。こう、思いきり、ぱぁんと」
「・・・誰にやられた?」
「自分でです! べ、別に、誰からも引っ叩かれてませんからね?」
「いやぁ、ホントに予想の斜め上を行く方ですよね、エレアーナ嬢って」

屋敷を訪れたときは、どこかぎこちない空気をまとっていたレオンハルト、ケインバッハ、ライナスバージの3人も、エレアーナの真っ赤な両頬を見て、今は緊張というより微妙なぬるい表情に変わっていた。

「皆さま、タイミングが悪すぎなんですよ。いえ、良すぎと言いますか。叩いたところに、ちょうどいらっしゃるんですもの」

引っ叩いたせいで赤いのか、恥ずかしくて赤いのか、もはや区別のつけようもないが、とにかくエレアーナの顔は真っ赤っ赤になっていた。

いや、ちょっと待って。だって、すでに腫れてきてるよ?
どんだけ思いっきり引っ叩いたんだって、聞いてみたくもなるでしょ。

ライナスの肩が小刻みに震えているのは、気のせいではないだろう。
ケインバッハの鉄面皮はこういうときこそ本領を発揮するのか、目だけは含みのある微妙な眼差しになっているものの、顔は相変わらずの無表情だ。

僕はといえば、どう言葉をかけたらいいのかと思い悩んだ挙句、結局何も思い浮かばず、ただ焦りのままブライトン邸に押しかけて、そして最初に目に入ったのがエレアーナの真っ赤に腫れあがったほっぺたで。

申し訳なさも、緊張も、恐怖も、後悔も、怒りも、焦りも、一瞬でどこかに吹き飛ばされて。

こっちが励まされてどうするんだよ。

自分の情けなさに、目を背けたくなるけど。

ああ、こういう人だから、好きになっちゃったんだよな。

彼女の強さが、潔さが、変わらない美しさが眩しい。

そして、こういう人だから、諦めたくないんだ。
きっと、僕も・・・ケインも。

言いたいことは色々ある。
告げなきゃいけないこともある。

父から話を聞いて、自分はどうしたらいいのか、本当はどうすべきだったのか、自分の不甲斐なさをつつけるところはたくさんあって。

自己満足にしかならないとしても、きちんと君には話しておかないとと、そう思って。
だから、会いに来たんだ。・・・君に。

さて、どこから始めよう?

ごめんね。
大丈夫かい?
大好きだ。
僕のせいで。
怖くない?
守るから、絶対に。

でも、違うな。
まず言うべきなのは。

「エレアーナ嬢」
「はい?」

姿勢を正して真っ直ぐにエレアーナを見つめる。
ケインの顔つきがちょっとだけ締まる。
ライナスの肩の震えが止まった。

心を込めて、大好きな君に。

「・・・ありがとう」
「・・・へ?」
「こんなときでも、誰かを思って自分を叱咤する君を、・・・僕は尊敬するよ」

エレアーナが大きく目を見開いた。
この人、何を言ってるのって顔かな。

ケインは僕の顔を見ながら、少し眉を下げ、口角を少しだけ上げて、微かに笑って。
でも、いつものように何も言わない。
ただ静かに僕の肩に手を置くだけ。

「や、だ。・・殿下・・何を・・・おっしゃっ、て・・・」

笑おうと口角を上げながらそこまで言って、きゅっと口をへの字に結ぶ。
ふふ、顔がくしゃくしゃだ。

でも君は、そんな顔まで可愛らしいんだね。

おい、ライナス。君までつられてどうする。
口が同じく、への字になってるぞ。
本当に君は情に脆いな。

エレアーナは両手で顔を覆う。
その指の隙間から、ぽろりとこぼれ落ちる、涙。

あーあ、ごめんね。泣かしちゃった。

こんなときに、それすら嬉しいと思うなんて、不謹慎で本当にごめん。

でもね、覚えていてほしいんだ。
君は、自分で思っているより、ずっとすごい人なんだよ。

こんなときでも、明るく、強く、笑おうとする君は立派だ。

そしてきっと、泣き止んだ後だって、君は笑い続けようとするはずなんだ。

君は、そういう人だから。

だからね。
だから、僕の大好きな君には、自分のことを、もっと誇ってほしいと。

そう思ったんだよ。
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