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「それにしても殿下って本当にお優しい方なんですね。エレアーナさまのために、わざわざこちらまで足をお運びくださるなんて」
「素敵ですわ……。殿下とケインバッハさまのお2人が並ぶお姿は、あまりに美しくて神話の世界に迷い込んだかと思ってしまいました」
「わかるわ、カトリアナ。その通りよ。殿下とケインバッハさまを乗せて走る天の戦車を、あのお付きの方が走らせるのよ!」
「そう! それですわ、お姉さま!」
……それですってどれでしょう。
ええ、確かにおふたりともお美しい方ですけど。
ライナスさまも、間違いなく馬を走らせる姿が似合いそうですけど。
あの後もバザー会場内を見回ったレオンさまたち三人は、帰る前に、販売スペースにいたアリエラたちにも労いの声をかけてくれた。
子どもたちの手作り品を面白そうに眺めて、たくさん購入までしてくれて。
婚約者候補の噂はきっと彼女たちの耳にも届いていたのだろう。
まだ実際に婚約したわけでもないのに、突然の殿下のお越しにさほど驚くことはなく。
……ただ、見目麗しいお三方を間近に拝見したためか、かなりテンションは高めである。
「あぁ、わたくしもいつか殿下のような素敵な方に見初められたいですわ。王子さまに愛されるなんて女の夢ですもの」
「あら、そう? 確かに殿下はお優しそうだし素敵な方だけど、わたくしはもっとクールな方がいいわ」
「まぁ、それではケインバッハさまの方がお好みなのですか? お姉さまは?」
「うーん、ケインバッハさまは、クールと言うより無口でしょ? それにああ見えて情熱的な方だと思うのよ。まぁ、それも素敵なんだけど、わたくしはもっと……そうねぇ、一見冷たそうで、でも実は好きな女性にだけは優しくて、みたいな方がいいと思うの」
「あぁ、なるほど。わかりましたわ、お姉さま! クールで、にこりともしない、でも仕事は有能すぎるほどできるってイメージですわね? 銀縁の眼鏡が似合いそうな!」
「そう! それよ! カトリアナ!」
……どこまで行ってしまうのかしら? お2人のお話は。
そして、いつ終わるのかしら?
だんだん、笑顔で相槌を打つのが辛くなってきたわ。
無事にバザーも終了し、いまは三人だけで後片付けをしている。
子どもたちお手製の販売品も無事に完売し、ハーブティーの評判も上々。
孤児院の先生方も、ハーブの栽培と販売にとても前向きで。
物品による寄付もかなり集まった。大成功と言えるだろう。
これなら、来月のホルヘ孤児院で行う予定のバザーも心配いらないわね。
荷物をあらかたまとめ終え、そろそろ護衛に馬車の連絡を入れてもらおうかと思っていたところに、背後から聞きなれた声がした。
「エレ、迎えに来たぞ」
振り返ると、ドア近くにアイスケルヒが立っていた。
「お兄さま? どうしてここに」
「所用があってね、近くまで来ていたんだ。今日は孤児院のバザーを手伝うって言ってたから、まだいるかと思って覗いてみたんだよ。荷物もあるだろう? 私が運ぶからよこしなさい」
エレアーナから荷物を受け取ろうと手を伸ばしたとき、妹の背後にアリエラたちの姿を認め、アイスケルヒは薄く微笑んだ。
「あぁ、ご令嬢方、今日は妹を手助けしてくれてありがとう。力仕事は我々がやるから、座っていてくれたまえ」
それだけ言うと、アイスケルヒは護衛達と一緒にテキパキと荷物を片して、馬車へと運び始めた。
「まぁまぁ、アイスケルヒさまのあんなお顔、初めて拝見しましたわ。妹のエレアーナさまには相当甘くていらっしゃるのね。驚きましたわ」
ほう、と息を吐いたアリエラの頬は少し朱に色づいていて。
姉の言葉に妹も同意する。
「ええ。とっても素敵な方。それにお優しそうなお兄さまで」
「あら、カトリアナ。あなた、まだ夜会に出ていないから知らないのでしょうけど、普段のアイスケルヒさまは、にこりともしないお方なのよ。ああ、貴重なものを拝見させていただいたわ。氷の貴公子の微笑みなんて」
「氷の貴公子? お兄さまにそんな呼び名が……」
「あら、ご心配なさらないでね、エレアーナさま。悪口ではありませんのよ。近寄りがたい美しさと気高さを称えて付いたふたつ名ですもの」
いや、それはそれで心配ですが。
氷の貴公子と聞いても、屋敷では自分に甘々な兄の姿しか見ていないから、いまいちピンと来ない。
眼鏡のせいかしら?
それで冷たそうな感じがして、近寄りがたいとか?
謎は解けないままだったが、未だ興奮の冷めやらないふたりに別れの挨拶を告げて、エレアーナはアイスケルヒと一緒に馬車に乗り込んだ。
気が抜けたのか、一日の疲れがどっと出て。
アイスケルヒは、そんな様子の妹に眉を下げて少しだけ苦笑いで。
それからは、ただ窓の外に目を向けて黙っていてくれた。
そういえば……。
朝に感じたあの感じ。どことなくあった違和感。
あれは何だったのかしら。
ただの気のせいだったみたいでよかったけど。
でも、なんだか、とても気持ち悪かった。
レオンさまたちがいらした頃には、気が逸れたのか何も感じなくなったけど。
目を閉じて、今日の光景を思い出す。
レオンさまのちょっと意地悪そうな笑顔、ケインさまの赤くなった顔。
ライナスさまは明るく、面白くて。
そういえば、レオンさまの乳母だった方はあの近くに住んでらっしゃるっておっしゃってたわ。
私の送ったプレゼント、すごい喜んでくれたって。ふふ、よかった。
でも、レオンさまのあの流し目、男の方とは思えない破壊力だったわ。
ケインバッハさまの無言の圧もすごいけど、あれはあれで味があるのよね……
今日は、お会いできて楽しかった。
それに……なんだろう、とても嬉しかった。
「素敵ですわ……。殿下とケインバッハさまのお2人が並ぶお姿は、あまりに美しくて神話の世界に迷い込んだかと思ってしまいました」
「わかるわ、カトリアナ。その通りよ。殿下とケインバッハさまを乗せて走る天の戦車を、あのお付きの方が走らせるのよ!」
「そう! それですわ、お姉さま!」
……それですってどれでしょう。
ええ、確かにおふたりともお美しい方ですけど。
ライナスさまも、間違いなく馬を走らせる姿が似合いそうですけど。
あの後もバザー会場内を見回ったレオンさまたち三人は、帰る前に、販売スペースにいたアリエラたちにも労いの声をかけてくれた。
子どもたちの手作り品を面白そうに眺めて、たくさん購入までしてくれて。
婚約者候補の噂はきっと彼女たちの耳にも届いていたのだろう。
まだ実際に婚約したわけでもないのに、突然の殿下のお越しにさほど驚くことはなく。
……ただ、見目麗しいお三方を間近に拝見したためか、かなりテンションは高めである。
「あぁ、わたくしもいつか殿下のような素敵な方に見初められたいですわ。王子さまに愛されるなんて女の夢ですもの」
「あら、そう? 確かに殿下はお優しそうだし素敵な方だけど、わたくしはもっとクールな方がいいわ」
「まぁ、それではケインバッハさまの方がお好みなのですか? お姉さまは?」
「うーん、ケインバッハさまは、クールと言うより無口でしょ? それにああ見えて情熱的な方だと思うのよ。まぁ、それも素敵なんだけど、わたくしはもっと……そうねぇ、一見冷たそうで、でも実は好きな女性にだけは優しくて、みたいな方がいいと思うの」
「あぁ、なるほど。わかりましたわ、お姉さま! クールで、にこりともしない、でも仕事は有能すぎるほどできるってイメージですわね? 銀縁の眼鏡が似合いそうな!」
「そう! それよ! カトリアナ!」
……どこまで行ってしまうのかしら? お2人のお話は。
そして、いつ終わるのかしら?
だんだん、笑顔で相槌を打つのが辛くなってきたわ。
無事にバザーも終了し、いまは三人だけで後片付けをしている。
子どもたちお手製の販売品も無事に完売し、ハーブティーの評判も上々。
孤児院の先生方も、ハーブの栽培と販売にとても前向きで。
物品による寄付もかなり集まった。大成功と言えるだろう。
これなら、来月のホルヘ孤児院で行う予定のバザーも心配いらないわね。
荷物をあらかたまとめ終え、そろそろ護衛に馬車の連絡を入れてもらおうかと思っていたところに、背後から聞きなれた声がした。
「エレ、迎えに来たぞ」
振り返ると、ドア近くにアイスケルヒが立っていた。
「お兄さま? どうしてここに」
「所用があってね、近くまで来ていたんだ。今日は孤児院のバザーを手伝うって言ってたから、まだいるかと思って覗いてみたんだよ。荷物もあるだろう? 私が運ぶからよこしなさい」
エレアーナから荷物を受け取ろうと手を伸ばしたとき、妹の背後にアリエラたちの姿を認め、アイスケルヒは薄く微笑んだ。
「あぁ、ご令嬢方、今日は妹を手助けしてくれてありがとう。力仕事は我々がやるから、座っていてくれたまえ」
それだけ言うと、アイスケルヒは護衛達と一緒にテキパキと荷物を片して、馬車へと運び始めた。
「まぁまぁ、アイスケルヒさまのあんなお顔、初めて拝見しましたわ。妹のエレアーナさまには相当甘くていらっしゃるのね。驚きましたわ」
ほう、と息を吐いたアリエラの頬は少し朱に色づいていて。
姉の言葉に妹も同意する。
「ええ。とっても素敵な方。それにお優しそうなお兄さまで」
「あら、カトリアナ。あなた、まだ夜会に出ていないから知らないのでしょうけど、普段のアイスケルヒさまは、にこりともしないお方なのよ。ああ、貴重なものを拝見させていただいたわ。氷の貴公子の微笑みなんて」
「氷の貴公子? お兄さまにそんな呼び名が……」
「あら、ご心配なさらないでね、エレアーナさま。悪口ではありませんのよ。近寄りがたい美しさと気高さを称えて付いたふたつ名ですもの」
いや、それはそれで心配ですが。
氷の貴公子と聞いても、屋敷では自分に甘々な兄の姿しか見ていないから、いまいちピンと来ない。
眼鏡のせいかしら?
それで冷たそうな感じがして、近寄りがたいとか?
謎は解けないままだったが、未だ興奮の冷めやらないふたりに別れの挨拶を告げて、エレアーナはアイスケルヒと一緒に馬車に乗り込んだ。
気が抜けたのか、一日の疲れがどっと出て。
アイスケルヒは、そんな様子の妹に眉を下げて少しだけ苦笑いで。
それからは、ただ窓の外に目を向けて黙っていてくれた。
そういえば……。
朝に感じたあの感じ。どことなくあった違和感。
あれは何だったのかしら。
ただの気のせいだったみたいでよかったけど。
でも、なんだか、とても気持ち悪かった。
レオンさまたちがいらした頃には、気が逸れたのか何も感じなくなったけど。
目を閉じて、今日の光景を思い出す。
レオンさまのちょっと意地悪そうな笑顔、ケインさまの赤くなった顔。
ライナスさまは明るく、面白くて。
そういえば、レオンさまの乳母だった方はあの近くに住んでらっしゃるっておっしゃってたわ。
私の送ったプレゼント、すごい喜んでくれたって。ふふ、よかった。
でも、レオンさまのあの流し目、男の方とは思えない破壊力だったわ。
ケインバッハさまの無言の圧もすごいけど、あれはあれで味があるのよね……
今日は、お会いできて楽しかった。
それに……なんだろう、とても嬉しかった。
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